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先輩と真のハーレム

 そして、大声で叫んだ。


「分身魔法っ!!! ぶんっ・しんっ!!!!!!!!!!!!!!!」


 紫色の煙がぼわんと悪魔を包み、同時に部屋が暗くなった。


 長ったらしい呪文の詠唱とかもなく技名を言っただけだけど、ちゃんとできてるみたいだ。


 もうもうと立ち込めていた煙はすぐに薄らいでいき、それらの正体が明らかになった。


 現れたのは三体の先輩。


 この魔法でMPを大量消費したせいか、種は異世界悪魔から地球の存在に変わっていた。今回はコスプレはなく、皆そのまま同じ制服。つまり前回と逆、外側は同じで中身が違っている。



 あたしの右には蛇女の先輩。

 左には幽霊の先輩。

 正面にのっぺらぼうの先輩。



 お化け屋敷かな?


「おい。なんだこれは」


 期待していた分、失望も大きい。怒りの勢いで正面のつるつるの胸ぐらを掴んでしまった。それができそうなのはこいつだけだったからだ。顔ないけど。


『待って! 私もなんでか分からん! 予定と全然違うしこっちで魔法使うのはやっぱり無理があったのかもしれん!』

 脳内に直接切羽詰まった叫び声が響いた。のっぺらぼうって喋れるんだ。てかテレパシーか。


 魔法が失敗した結果がこれとのこと。まあやっぱり案の定の結果でもあるんだけど。


 それにしてもひどいラインナップだ。

 蛇はきもいし幽霊は触れない。だが、それよりも何よりものっぺらぼうだよ。顔面全振りの女がそれ捨ててどうすんのよ。こんなん髪が生えたゆで卵じゃん。てか顔が無いって前回と同じじゃん。


 みんな日本の妖怪だけど、それなら雪女とか猫娘とか座敷童とか他にもうちょっとマシなのがいただろう。世界でもいいならリリスとかサキュバスとかエロいのいるし。なんならさっきの悪魔先輩がそんな感じだったし。それがよりにもよってこいつらとか、またしてもハーレムの対極だよ。いくらなんでもふざけんなだよ。


 しかし、そんなあたしの心中を逆撫でするように、


「でもまあこれはこれで悪くないだろ? 他の奴らは置いといて私はセクシーじゃん? スケスケだぞ? スケスケ」

 足のない先輩が悪びれもせずにくねくねポーズをとりながら言ってきた。


「いやその全く意味のないスケスケとエロいスケスケは全然違えよ。肌が透けてんのがエロいんでしょうが。それ単に半透明なだけじゃん。後ろ透けてんの壁じゃん」


「その通りだよ。幽霊なんか薄いし触れんし辛気臭えし頭の三角のやつも意味分からんし、私の方が絶対いいだろ。ちゃんと顔も実体もあるしこのボディのテクはすごいぞ」

 と、今度は反対側から手足のない先輩がそう言いながらにょろにょろ巻き付いてきた。


「どうだいどうだいこの濃厚な絡みつき。6回転で360度どころじゃない、なんだ、えーと6×3で……、えーと2160度の抱擁だぞ。お前は私の顔だけあればいいって言ってるんだし、この普通の人間には絶対不可能な密着度も最高だろ?」

 うわばみが長い舌をちろちろ出し入れしながら、あたしの全身をみちみちと締め付ける。


「ふぎいぃぃ!!!!!!」


 これ死ぬわ。


 遠のく意識の中に死の影が差した瞬間、あたしの生存本能が覚醒した。


 限界を遥かに超えた超パワーでもって全身の筋肉を膨張させ、絞め殺される寸前ぎりぎりのところでおろちのわだかまりをなんとか振りほどいた。


 九死に一生を得た。


 なんなんだこれは。本気で死にかけるとか前回より悪化してるじゃねえか。


 大蛇の死体を前に、ぜいはあ肩で息をしていたら、頭の中に直接喋りかけてくる奴がいた。


『ほらね。やっぱり私だろ、私。私の体は元のまんまのちゃんと触れる人間体だからな。お前も私の顔が好きだとか言ってるけど結局なんだかんだで体の方が目当てなんだろ? お前が隙あらばいやらしい目つきで私の体を舐め回すように見てんの知ってんだかんな? 分かってんだよ私は。まあでもかわいいお前のためだ。しょうがない。お前だったら私のこの体、好きにしてくれていいんだぞ?』


 じゃあそうさせてもらいますと、自分の顔に自分の顔の写真を貼ったすっとこどっこいも力でもって祓ってやった。


 残るはスケスケだけだけど、こいつはどうやって消すべきなのか。あたしは神も仏も信じてないし、地球から出たこともない、この物理世界のごくごく平凡な一般人である。そんな無力でか弱い一女子がこんな物理無効の禍々しい悪霊に対抗するにはどうしたらいいのか。


 化けおろちとの激しい戦いで制服の縫い目が裂けてしまっていた。幸い今日は体育があったおかげであずきジャージが鞄にあった。それを制服の上に着ながら退魔の方法をいろいろ考えていたんだけど、そこであたしはとある異変に気付いた。


 なんか部屋が暗い。


 思い返してみれば、魔法で大量の煙が出た後からこんな感じだったような気がする。


 今までは妖怪退治でそれどころじゃなくて、周りの様子なんか気にしてられなかったんだけど、残り一匹になって多少の余裕が出てきた今、ふと窓の方へ視線をやったら……。


 二つの巨大な目があたしを凝視していた。


「ひぇっ!!」


 部屋が暗くなったのは、大入道が西日を遮っていたためだった。


 目力とかいうレベルじゃない。こんなの悲鳴を上げない方がおかしい。

 もしこの目がビームなんか出したら即死は免れない。怪物化した先輩だし、それぐらいのことはできてもおかしくない。

 いや、たとえビームなんか出なくても、このデカさの先輩ってだけでヤバい。ただでさえ先輩の戦闘スタイルが力任せに棒を振り回すだけってものなのに、さらに巨大質量という、それと相性抜群の圧倒的な力が加わってんだもん。これまでに倒した小物どもとはわけが違う。こんなのに殴られたら、ちょっとやそっとの怪我では済まないだろう。



 だが、やらなきゃやられる。



 先手必勝、あたしは決死の覚悟で窓の方へ向かって走った。

 そして、片っ端からカーテンを閉めると、部屋の入口までまた走り、電気のスイッチをオン!


 無事、室内は明るさと平穏を取り戻した。こわい視線も見えなきゃ無いのと同じ。やれやれ。まあまだ幽霊はいるけど。


 ということで、こいつをどうしたもんか……。

 ……ってあれ? 床に転がってたにょろにょろとつるつるの死体がない!?


 死んだと思って油断してた。腐っても妖怪、小物とはいえきっちりトドメを刺しておくべきだった。


 って、今はそんな後悔している場合じゃない!


 どこだと慌てて振り返ったら、あたしのすぐ背後にそいつらがいた。


「ほらほらお前これでどうよ。顔がない奴と顔しかない奴が合体すれば完璧じゃん?」


 のっぺらぼうの顔に巻き付いた蛇女が得意げな顔でうねうねくねっていた。


「首なげえし!!!!!!!!!」


 新たに涌いたろくろ首は秒で祓われた。


 そして、悪霊もついに消える時が来た。


 先輩のMPがここで完全に尽きたらしい。


 半透明だったのがさらに薄くなっていってやがて見えなくなるというようなドラマティックな仕立てのものではなく、幽霊はいきなりスイッチを切られたみたいにふっと消えた。


 他の妖怪も跡形すらない。


 静まり返った教室に一人いるのはあたしだけだった。


 ということで、真のハーレムと題されたお化け屋敷は先輩の失踪をもって終了した。


 今回の帰り支度はカーテンを開けて明かりを消すだけ。楽ちん。


 異世界焦熱地獄温泉饅頭はおみやげ。生ものだし持って帰らないとしょうがないしね。また少ししか減っていないので家族で食べよっと。なんか最近あんこ多いな。まあおいしいからいいけど。


 うきうき、意気揚々家路についた。


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