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先輩と魔法

「で、今回はちゃんと使える魔法も覚えたんだよ」

 悪魔はそう言うと、ほうじ茶の湯呑みを唇に当てた。


 明らかに化け物だけど、妖艶さに見惚れてしまう。土台の出来のせいだ。美人は何を着ても美人ならぬ、どんな種族になっても美人ということらしい。学校中が色めき立つのも分かる。


「へえ。どんな?」

 おみやげの異世界焦熱地獄温泉饅頭にかぶりつきながら聞くと、


「分身魔法だよ」

 にやりと牙を光らせた。


「またかよ」

「いや違うって。こないだの分身の術は物理で残像作る忍法だけど、今回はちゃんと魔力で別の体を作る魔法だから」


「へー。でもそれ使って集団でそのこん棒振り回してたんでしょ? ならやっぱ結局物理の力技じゃん。てかなんで学校にこん棒持ってきた」

「いや、やっぱ地球人は魔法向いてなくて使うと後でめちゃくちゃ疲れが来るから他のも何個かは覚えたんだけど結局使ってなかったよ。てかその分身魔法教えてもらったのも人類の国潰した後の帰る直前だったもん」


「んん? じゃあ何のために」


 それに対して先輩は一段と不気味さを増し、


「こっちで真のハーレムをやるためだよ」


 黒くて赤い目をさらに妖しく輝かせ、あたしを見つめた。


「ハーレムってまだ懲りてなかったんすか? てか魔法ってこの世界でも使えるんですか?」

「私の姿がコレのうちは使えるはずだぞ。これは体内に蓄積された激マズ悪魔料理の栄養分のせいでこんなんなってるんだからな」


 なるほど。この見た目なら魔法使えない方がおかしいぐらいだし。って、


「ちょっと! これ食べたらあたしもそうなるってこと!?」

 やべえもん食わされたと、先輩に食ってかかった。


「これはおみやげ用のちゃんとおいしいやつだから魔力は込められてないぞ。ラベル見てみ」

 そう先輩は苦笑しながら饅頭の箱をひっくり返した。


 あたしは饅頭なんか作ったことないからよく分からんけど、小麦粉とか小豆とか麹とか、普通の食品に使われていそうな名前が並んでいて、まあ別におかしなものは入ってはいないみたいだった。お菓子だけど。


 先輩の話からすると、魔力味がまずいってことなのかな。確かにこのお饅頭はちゃんと普通においしい酒饅頭だし。魔力っていうのは苦い薬みたいなもんなのかな。で、魔力が供給されなければ自然と元の人間体に戻るということなのか。


 多分に魔力の影響があったと考えられる以前の異世界弁騒動もそんな感じで終息していったな。なら、この超絶かっこいい姿も期限がありそうだし、それまでにたっぷり目を楽しませておいた方がいいのかもしれない。


 とはいえ。


 もちろんのことながら懸念もある。


 分身魔法とかいうしょうもないもう一つのおみやげのせいで、先輩のハーレムは今度こそ前回みたいな茶番じゃない真のハーレムとやらになるらしい。茶番とは言っても茶を飲む余裕なんぞ皆無な安全最優先の現場だったというのは置いといて。


 この小悪魔どころじゃない小さな大悪魔があまりにも強い。


 そんな怪物が全力でもって誘惑してくるというんだもん。言うがままなすがままあたしは生贄えとして捧げられ、おいしく頂かれてしまっている未来しか見えない。


 って、前回も同じこと危惧してて結局アレだったんだけども。


 でもだけども、やっぱり今回ばかりは取り越し苦労じゃ済まない気がする。


 なにしろこの極悪な物の怪デザインが秀逸すぎる。元の顔自体が人を超えたレベルの美貌なのに、それを本物の人外にアレンジするなんて。


 なんならもうハーレムで誘惑なんて回りくどいことせずに力ずくでもいいとさえ思ってしまう自分がいるぐらい。こんな美しき魔物に力で屈服させられ身も心も支配されるなんてストーリー、正直なところゾクゾクする。


 そんなあたしの心中を見透かしたように、悪魔は鳥肌が立つほどの陰惨な笑みを浮かべ、


「始めようか」


 そう言いながら、ぬっと立ち上がった。


 窓を開けたり、着ぐるみを用意したり、ジャージに着替えさせられたり、ヘルメットを被らされたり、ゴーグルを付けさせられたりなんて意味不明極まる準備はもちろんない。お茶もお菓子もそのままなので、飲食も自由である。


 寒くない。おさわり可。安全第一じゃない。飲んで食える。


 うひょー。なんて素晴らしい。フリーダム。これぞまさにハーレム。ひゃっほう。


 そういった地の下までめり込んだハードルでさえ、実は綿密に練られた悪魔の狡猾な謀略の一部だったのではと思わされてしまう。それぐらい前回があまりにもひどく、今回の先輩の姿があまりにも好きすぎた。


「じゃあいくぞ」


 悪魔は両の手の平を高らかに天に向かって掲げ、目を瞑った。


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