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先輩とお茶会

「やぁやぁ」

 二人だけど、声は一つ。もう一人の眼鏡の人は口を結んだまま部屋に入ってきた。


「うい~どした~?」

 と、うちの先輩。


 あたしはどしたらいいのか。相手は先輩たちだし、軽く会釈をしつつ様子見。


 無言の方の人は知ってるけど、もう一人の美人は誰だこれ。でもこの愛らしい笑顔、どっかで見たことあるような……。


 先輩の友人まわりの記憶をいろいろ辿っていたら、


「これお前のだろ」

 フチなし眼鏡の人がうちの先輩の前まで来たところで初めて口を開き、手に持った物を差し出した。


「うわマジか! うわ~めちゃくちゃありがと!」

 うちの先輩はまず驚きで目を真ん丸にし、次にそれを感謝で輝かせた。それを受けて眼鏡の先輩の顔もふわっと柔らかくなった。


 机の上に置きっぱなしにされていたうちの先輩のスマホを、このアナログゲーム部の先輩が届けに来たということだった。


 眼鏡とおでこの煌めきが素敵な人。


 かつてうちの先輩が知恵の輪型筋トレ器具をでたらめな暴力でもって屈服させたとき、それを借してくれた部の人である。


 相変わらず凛々しいお美しい佇まい。


 実は見た目と違って成績はあまり芳しくないのだぞ、と大変失礼なことをうちの先輩は言っていたけれど。


 でも、わざわざスマホをここまで持ってきてくれるあたり、人もいいしなんだかんだで仲もいいんだろうな。


 というわけで、二人とも今日部活ないんなら礼に茶でも飲んでけ、ということになった。


 先輩はそれでいい。だけど、あたしは話したことないけど知ってはいる先輩と、知ってるんだか知らないんだかも分からない先輩とお茶を同席することになりましたんですけど。


 まあとはいえ、あたしは人見知りもそんなにはしないし、二人とも美人だし、一応うちの先輩もいるし、むしろこれはなんかハーレム的なそういういい感じのやつみたいなチャンスなのではないかと、ポジティブな心構えでもってこの場を楽しむことにした。


 で。


 ずっとにこにこ愛嬌たっぷりの笑顔と内巻きウエーブセミロングがとてもよく合ってるこのお姉さんは……?


「お前どっちも知ってるよな?」


 あたしの右手、お誕生日席のうちの先輩が『別に紹介いらんだろ?』という聞き方をしてきた。ということでやはりあたしの知ってる人だったらしいけども? ?


「えっとすいません……。こっちの先輩は初めてかもしれないです」


 怒った顔がちょっと想像できない人ということで、ここは正直に答えた方が良いと判断した。上に向けた左の手の平で、対面左側の謎先輩を指した。


「あー、あたし君とは二回会ったの覚えてるけど、どっちも顔隠れてたからねえ」


 あ。


「もしかして剣道部の先輩ですか?」

「うん、あたり」


 剣道先輩は「しゅっしゅっ」と口を尖らせ、エア竹刀を二回振った。


 なんですかこの人。表情も仕草もいちいちかわいすぎるんですけど。木刀でうちの先輩の脳天を叩き割ったあの鬼剣士と同一人物とはとても思えない。


 いい。これがうちの先輩の言うところのギャップか。


 ある時はおっとりお姉さん、ある時は修羅。見た目も竹刀よりレイピアといった洋物の剣の方が似合いそうだし。そもそも運動部よりも手芸部とか料理部とかが似合いそうな優雅さだし。それでいてあの凄まじい闘気。実にいい。


 この先輩になら頭割られたい。ぱっくり割れた頭蓋骨から脳みそぶちまけたい。ってまあそれは勘弁だけど。


 しかし、あたしこの人に顔覚えられてたのか。


 剣道部といえば、似非ハッカーの道場破りを後ろから見守ってたり、カッパを捨てに行ったりしただけだけど。頭おかしい先輩による頭おかしい騒動があったとき一緒にいたやつ、ということで印象には残るかもしれないな。


 と、その剣道先輩があたしの方に話を振ってきた。


「この子だいぶ頭おかしいでしょ。君、苦労してるんじゃない?」


 危うくおでこ先輩が角砂糖三つ入れたあま~いミルクティーを吹きそうになった。


 うちの頭おかしい先輩に対するあたしの認識は、頭おかしいけど黙ってれば超絶美人、というものなんだけど、他の先輩方も同様であるらしい。まあ当然っちゃ当然、すこぶる妥当だ。


「おかしくねえよ!」

 当の頭おかしい人は猛然とそれに食ってかかった。でもちょっと半笑い。


「そうなんですよねえ。この人ほんと頭おかしいこと毎日毎日持ってきてそれに付き合わされるんですよ。困っちゃいますよ」

 なので、あたしもそれに乗っかった。


「どこがだよ! 全然おかしくねえし!」

「いや何言ってんすか。先輩の頭がおかしくないなんていったらこの世に頭おかしい人なんて一人もいなくなりますよ」


「んなわけねえだろ! 仮に! かーりーに百歩譲って私が多少変わったところがあるかもしれないとしてもだよ、こいつの方が私より全然おかしいぞ!」


 突然矛先を向けられたおでこ先輩が今度はラスクを吹きそうになった。彼女は口に手を当て、何回かもぐもぐしてそれらを飲み込んでから、


「なに言ってんだよ。お前よりおかしい奴なんかいねえよ」

「いやいやお前今日凄かったじゃん」


 頭おかしい先輩は怒りから一転、含みのあるにまにまいやらしい笑みを浮かべた。


「……」


 うちの先輩のその顔が意図するものに何か嫌な予感がよぎったらしい。おでこ先輩の目に少なくはない動揺の色が見て取れる。


「まず体育の時のアレ、あれは私もビビったぞ」


 それを聞いて、


「ね~、アレは凄かったよね」

 と、剣道先輩もうちの先輩と同じ顔になった。


 味方だったはずの剣道先輩も敵に回り、あっという間に孤立無援の状態に陥ってしまったことをおでこ先輩は悟るや、狼狽の色をさらに強くした。目が泳いじゃってる。


 そんな情勢なので、もう話したくてしょうがないとばかりにうずうずの先輩は、事情を知らないあたしにその『体育の時のアレ』をうきうきで語り始めた。


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