先輩とさらにバナナ
と、あたしがバナナの仇を討ってやるかどうか真剣に葛藤しているところ、ドアがガラガラと音を鳴らして横に滑った。
「きたよ~」
入ってきたのは料理先輩。
「よっす」「こんにちは~」
と、こっちも挨拶を返した。
何の用事かは知らないけど、今のあたしにそんなこと気にかけてる暇はない。また吹きすさぶ嵐のように教科書をめくり、逆巻く怒涛の如くシャーペンを走らせた。
料理先輩は先輩の隣に座ると、
「バナナだねぇ」
物欲しげな様子。
「おう。食べるか?」
先輩は机の上に一本だけとなったバナナに手を伸ばしかけたんだけど、
「うん。でもそんなにいらないねぇ。ひとくちだけちょーだい」
んあっと料理先輩は口を開いた。
先輩はバナナを彼女の口に差し込んだ。
「ありがとぉ」
料理先輩は微笑みながらもぐもぐ。
修羅場のあたしもこれは見逃せない。教科書を睨みつけるのとノートを書き殴るのの向こうで繰り広げられる麗しい天使たちの戯れを一ピクセルも漏らさず眼球に焼き付けた。
「お前バナナ好きなの?」
部長はまたそれを頬張りながら尋ねた。
「うん。好きだよ~」
そう料理先輩がにっこり笑うと、先輩が会心の笑顔で、
「だよねーーーーっ!! バナナおいしーよねーーーーーーーっ!!」
!?
「うん」
「食べやすいし! 甘いし!」
!?
「うん」
「安いし! 柔らかいし!」
!?
「そだねぇ」
「私も大好きなんだ! 十本ぐらいのやつ買ってきたんだけどもう八本も食べちゃった!」
!?
「へえ~」
「そっかー。お前もバナナ好きかぁ」
!?
『も』って!? 『も』って!? あんだけ文句言っときながら『も』って!?
満面にっこにこの先輩。料理先輩大好きなのは分かるけど、どの口がそんなこと言ってんの!?
でもノリノリの先輩に対し、ただにこやかにうんうんと答えていただけの料理先輩なんだけど、
「あ~……ん~……、私もバナナ好きといえば好きなんだけど~、でもやっぱりそこまでじゃないかも~」
彼女は首をちょっとかしげた。
「そうなの?」
先輩もちょっとトーンダウン。
でも、
「果物はもっとジューシーな方が好きなんだよねぇ」
「だよねーーーーっ!! やっぱ果物は果汁だよねーーーーーーーっ!!」
!?
「あと、もうちょっと酸味があったほうがいいかも~」
「だよねーーーーっ!! 後味さっぱりするよねーーーーーーーっ!!」
!?
「あと、食感もシャリシャリしてる方が好きかなぁ」
「だよねーーーーっ!! このもっさい感触はイマイチだよねーーーーーーーっ!!」
!?
「皮がむきやすいのはいいけど、すぐ傷んじゃうのもちょっと嫌かも~」
「だよねーーーーっ!! 黒くなったところキモいよねーーーーーーーっ!!」
!?
「だから私やっぱりバナナそんな好きじゃないかも~」
「だよねーーーーっ!! バナナダメだよねーーーーーーーっ!!」
!?
「でもなんか話してたらもうちょっと食べたくなっちゃったかも~。やっぱりそれちょ~だい」
!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!?
料理先輩いいいいいいィィィィ!!!!!!!!!!!!
あああああああああああああ!!!! 全然宿題終わんねーーーーー!!!!