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先輩とイルカショー

「そういや異世界の奴らにもこんなのいたなあ」


 なんだかよくわからない虫みたいのとかぶにょぶにょだらけの、背筋がぞわぞわするエリアで先輩がつぶやいた。


「へー。ちょっと懐かしい感じですか?」

「いや全然。これのでかい奴みたいなのまた会いたいとか思う?」

「思わないっす」

「だよな。普通にこいつらが敵でもおかしくない感じだしな」


 そう言った先輩の目は死んでいたんだけど、


「もうすぐイルカショーですよ」


 また輝きを取り戻してくれた。


 ということで屋外プールへ向かうことに。


 でも。


「?? どうしたんですか?」


 ここを曲がれば目的地というところの場所で先輩は急に歩を止めてしまった。


「ちょっとここ見ていこう」


 水族館きっての花型イベントに向かう人々すべてが素通りしていくなか、なぜか先輩はこのナマズとかタガメとかザリガニとか、身近な生き物たちという、この水族館屈指の地味ゾーンを観賞していきたいと言う。


「でも先輩、早く行かないと前の方の席なくなっちゃいますよ?」

「そうなんだけどさ、せっかく展示してるんだから見てあげたいじゃん」

「そんなん別に後でもいいじゃないですか」


 そしたらなんでか先輩は悲しそうな顔をして、


「それもそうなんだけどさ、でもこいつらイルカショー見に行く人たちにいつも素通りされてんだよ? 今だってそうじゃん。みんなイルカイルカっつって誰も立ち止まる人いないじゃん。かわいそうじゃん。そりゃ確かに全然パっとしないけどこいつらだって頑張ってんじゃん。こいつらも『ようよう水族館に来てくれたみんな、俺たちのいいとこぜひ見てってくれよな!』って頑張ってるのに、みんなこいつらの思いなんか知らずに目もくれずに通り過ぎてってんじゃん。そのたびに『ああ……今日もやっぱり駄目だったか……』ってがっくり凹んでんだよ? どうしたら見てもらえるかとか、夜な夜なみんなで会議とかしてるんだよ? 『やっぱりイルカの前では自分たちなんか無力だ』とか、『やっぱ俺たち地味だしちょっとキモいし』とか絶望に打ちひしがれて自暴自棄になって闇落ちしかけることもあるけどそれでもめげずに頑張ってんだよ? めちゃくちゃ努力してるのに不憫すぎね? こんなちっさい生き物たちが懸命に頑張ってんのにかわいそうだろ。だったら私たちが見てってあげなきゃでしょ!」


 とかわけのわからないスイッチが入ってわけわからないことを言い出し、


「ミジンコーーーーーー!!!!! がんばれーーーーーー!!!!!!」

「タニシーーーー!!!! 私はちゃんとお前らのこと見てるからなーーーーー!!!!!」

「ドジョウーーーー!!!! ドジョウーーーー!!!!」


 などとわけがわからないエールを水槽に向かって叫び始めたので、


「先輩、こいつらビビりだし絶対『人いないほうが楽でいーわー。くつろげるわー』って思ってますよ」


 と顔面を鷲掴みにしてイルカプールに引き摺って行った。




「ほらもー、さっさと来ないから」


 案の定、客席はいっぱい、一番後ろの端っこで立ち見するしかなかった。


 お姉さんたちの合図でイルカたちが飛んだり跳ねたり、近くで見たらそれはもう迫力だったに違いない。


 とはいえ、前の方の列はざぶんざぶん上がる波しぶきでびしょ濡れだし、中ほどでもイルカの尾びれで水をぶっかけるというパフォーマンスがあるしで、服のことを考えたら実はここで良かったかもしれない。


 もしかして先輩あたしにそんな気を遣ってくれて、わざと後ろになるように自分が悪者になってくれたのかな? との考えが一瞬よぎったものの、


「私は謝らんからな! 絶対謝らんぞ! こいつらのせいであいつら毎晩毎晩枕を濡らしてんだからな! イルカの野郎! 絶対許さんぞ!」


 とここへ来てなお理不尽な八つ当たりを吠えているのを見て、ああこれは絶対違うなと思った。


 その後もでかいのに驚いたり、奇麗なのにうっとりしたり、キモいのに喜んだり、丸いのに癒されたり、ペンギンのエサやり体験で先輩がビンタされたり、イルカとの握手で頭をかじられたり、水族館を隅から隅まで余すところなく思う存分堪能した。


 それから最後、もう一度ふれあいコーナーへ行き、つんつんお魚による先輩のいかがわしい声で締めとした。


 そして本当の最後、おみやげ屋。


「ぬいぐるみみんなかわいいですねえ。お! このイルカかわいい。このカメもいいしクマノミもいいですねえ。ってこっちのウミウシとか深海魚みたいなのもぬいぐるみだったらキモカワで断然アリですね。とは言ってもやっぱりなんだかんだで王道のペンギンかなあ……ってあ~んもうみんなかわいい! 決めらんない! 先輩はどう思います?」


 意見を聞くために振り向いたんだけど、彼女に抱っこされていたのはクリオネ。


 しかもでっかい。


「あんだけ因縁付けといてそれ?」


 先輩はこくりと頷くと、ぎゅっとそのジャンボサイズハダカカメガイを抱きしめた。


 今日はいろんな珍獣に出会ったけど、なんだかんだでやっぱり先輩が一番面白いというかおかしかった。


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