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先輩と雷神

 今日もまたいつも通り「ちゃーす」と挨拶をして扉を閉め、自分の席へ。


 なんでか先輩は緑色のシャンプーハットを被ってるんだけど、まあ先輩だしいちいち気にしてたらきりがないということで、そのまま放置。


 でも先輩の横を通ろうとしたとき、彼女の左手がいきなりあたしの膝に伸びてきて、スカートをめくり上げようとした。


「な!?」


 あたしは反射的に右手でスカートを抑え、左手でその手を殴りつけた。


「あーわりいわりい。こんな感じで勝手に動いちゃうんだ」

 先輩はヘビのようにくねくねくねる自身の左腕を右の手で掴んだ。


「はい!?」


「こないだ雷食らっただろ、それでなんか私に雷神が憑りついちゃったみたいなんだ」

「は? 何言ってんすか! ハッカーとか言ってたじゃないすか!」


 やっぱり頭を叩き割られたことでさらにおかしくなってしまったのか?


「あ~あれは気のせいだったみたい。なんか雷の神様か分からんけど、体乗っ取られちゃったんだよ」

「んなもん誰が信じるんですか! セクハラしたいだけでしょ!」


 とは言いつつも、やっぱり心の奥底では彼女ならあるかもとかちょっと思ってしまう。


「いやいや、証拠があるんだよ」

 先輩は隣の机の上に置いてあったケーキ箱を自分の前に持ってきた。


「今日のおやつな」


 先輩がごそごそ箱を開けると、


「じゃーん」


 チョコレートまみれの棒が出てきた。


「なんですか? エクレア?」

「そう」


「なんですか? エクレアがフランス語で雷だかなんだかだからとかいうしょうもない理由ですか?」

「しょうもなくないだろ。なんか私これが急に死ぬほど食べたくなっちゃたんだよ。だから雷神の呪いって感じだろ?」


「『だから』の意味がわかんないす。前後のつながりが一ミリもないじゃないですか」

「あとそれと雷おこしも食べたくなったんだよ。めちゃくちゃ迷ってこっちにしたんだけどな。だからこれもう絶対雷神の呪いだろ?」


「だから、『だから』の意味がわかんないす」

 ジト目を向けていると、


「まあとりあえず食え」


 先輩がエクレアをほおばったので、あたしも「いただきます」と言ってから、同じようにフォークで突き刺し、口へ。


「うまい!」


「そうだろそうだろ。どうしても食べたかったから朝から開いてる店で買ってきたんだ」

 もぐもぐご満悦な先輩。


 確かにこれはおいしい。認めよう。でも話は戻す。


「で、理由はそんだけなんですか?」

「もちろんまだあるよ」


 今日はお茶も先輩が用意してくれていた。彼女はそのコーヒーを一口飲むと、


「なんか相撲がめちゃくちゃとりたくなるんだ」

「相撲?」


「うん。これ多分あれだな。タケミカヅチっていう日本の雷属性の神がいるんだけどさ、そいつが相撲の神でもあるんだよ。だからだよ。たぶん」


 相変わらず『だから』がその役割を全く果たしてない。でもそれよりも、

「先輩。そいつがエクレア食いたがってんですか? 日本の神なのに?」


「ああ違う違う。それは別のやつ」

 先輩はうろたえることもなく、平然とまたエクレアをむしゃりとかじり、もぐもぐして飲み込むと、


「これな」


 先輩はやっとそれに触れた。頭のシャンプーハットを指さしながら、


「ゼウスとかも雷属性じゃん。で、西洋の神じゃん。で、エクレア食いたがってんのはそいつ」

「先輩。ゼウスってギリシャの神じゃないですか。エクレアはフランスのお菓子ですよ?」


「まあだいたいその辺ってことだよ。どっちもヨーロッパだしギリシャでもフランスでもそんな変わんねえだろ」

「先輩、ギリシャ人とフランス人に殴られますよ? てか、そのシャンプーハットとゼウスがなんなんですか。意味不明ですよ」


「ああ。あいつら月桂冠とか頭になんかそういう輪っかあるだろ。だから私も無性にこれ被りたくなっちゃったんだよ。色も緑だし」

「こんな神絶対いないです」


 めちゃくちゃ偉い神様が『シャンプー目に入っていたいいたいなの~』とか泣いてたりする?


「まあそんな感じなんでちょっと大目に見てくれよ」

 先輩はにやにやしながら、カップに口をつけた。


「大目って、なんか頭おかしいことごちゃごちゃ並べてましたけど、結局のところはセクハラしたいだけじゃないですか。先輩、女の子のスカートめくりたいだけじゃないですか」


 これに対し、彼女はより一層目つきを妖しくした。


「いやいや違うよ。さっきスカートめくったのだってちゃんと理由があるんだよ」

「なんの」


「あれだよ。雷だから尻子玉を抜きたいんだよ」

「……」


「だからスカートをめくるんだよ」


 そう言うと、先輩はいきなり立ち上がり、

「だから今から私と相撲で勝負だ!」

 ずずずいっと土俵入りした。さらに、


「そんで私が勝ったら尻子玉をよこせ!」

 前傾の低い姿勢で吠えた。


 緑のシャンプーハット姿の相撲バカの尻子玉コレクター。それはまるで。


「先輩。尻子玉抜くのってカッパですよ」


「…………マジで…………?」

「マジです」


「じゃあ雷は?」

「へそです」


「じゃあへそ舐めさせて」

「先輩の今の姿、完全にカッパです」


「じゃあ尻子玉ちょうだい」


 これ以上はらちが明かないと判断したので、カッパを担ぎ上げて剣道部に捨ててきた。


 もう一回頭のお皿を割ってもらうといいんじゃないかな。


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