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先輩とハッキング対決

「たのもーーーーーーーっ!!!!!!!!」


 学内随一のけたたましい部活なのに、先輩の声はその誰よりも大きかった。


 激しく打ち合っていた重装女子たちがその声にぴたりと動きを止めた。


 あたしが連れて来られたのはなぜか武道場だった。


「やあやあ。私ちょっとハッカーになったから勝負してくれよ」

 先輩はこちらに向かってやって来た女剣士にへらへら声を掛けた。


「ごめん。全然言ってること分かんない」

 面の内側は影になってるけど、苦笑しているのが分かる。


「うちの学校の部活だと、対人戦闘が最強なのって多分ここだろ? 剣道三倍段とかいうし」

「ごめん。やっぱり意味分かんないよ」


 格子越しではあるんだけど、なんかこの人おっとりした感じで優しい人なんだろうなっていうのが分かる。


 だからだろうか、先輩は彼女を焚き付けるように、不遜な物言いを始めた。


「いいからさ、私と勝負してくれよ。私最強だぞ。そんな竹の棒っ切れ振り回してやーやー言って遊んでるのとはわけが違うんだよ」

「……」


「私が考案したハッキング術にかかればリーチの差なんて有って無いようなもんだから、お前なんか瞬殺だよ。しゅ・ん・さ・つ」

「……」


 下から上に指さして挑発する先輩。腹立つ顔してんなあ。


 剣道先輩は無言で部室と思しき部屋の扉を開けて入っていくと、木刀を手に戻ってきた。


 でも先輩は怯むどころかさらに煽り立てた。

「へいへいへい! 木刀なんかじゃなくて真剣でもいいんだぜ?」


「うん大丈夫。私たぶん木刀の方が強いから」

 剣道先輩は淡々と答えた。


 やべえ。本気だこれ。顔見えないけど地獄なのが分かる。


 ということで、向かい合って立つ二人。一方はフル武装女剣士、もう一方は薄汚れたノートパソコンを携えたセーラー夏服女子。


 他流試合なので審判はなし。相手を戦闘不能にした方が勝ちの、ルール無用無制限一本勝負。


 なので開始の合図もない。剣士が木刀を正面に構え、ハッカーがノートPC風鈍器を抱えて腰を落とし、試合は自然と始まった。


 先輩は軽やかに、剣道先輩は慎重に。両者それぞれのステップでもって前後左右小刻みに間合いを計っている。


 そしてまず最初に動いたのは剣道先輩。予備動作が有ったのか無かったのかも分からないぐらいの速さで踏み込んだ瞬間、高くて鈍い音が響き渡った。でもそれは開かれたノートパソコンに木刀の行く先が阻まれた音。直後、先輩は木刀を弾き飛ばすと、素早くそれを畳み、剣道先輩の胴めがけて水平回転しながら殴りつけた。しかしそれも剣道先輩の華麗な足さばきによって紙一重のところでかわされた。


 おお! まさかのいい勝負! ノートパソコンで戦う練習とか、いよいよ先輩頭逝っちまったなって思ってたんだけど、これは案外マジでやるかもしれん。


 それからも殴りかかっては受け、振っては避け、実力伯仲のつばぜり合い。


 敵への攻撃は力任せでぶん殴り、敵の攻撃は真正面から受け止める、『たたかう』と『ぼうぎょ』のコマンドしかない、先輩の単純明快な脳筋戦闘スタイルにノートパソコンという攻防一体の武具は相性抜群なようだ。剣士相手にこの戦いぶり。近接格闘型ハッカー、これはガチでやるかもしれん。


 でも両者譲らぬ白熱の攻防、それもついに終わりを迎える。


 結末はあっけないものだった。


 先輩がこれまでのようにノートパソコンを開いて剣道先輩の攻撃を受け止めようとした瞬間、その相棒は真っ二つに分離、間を通り抜けた木刀が先輩の脳天を直撃、試合終了となった。




「畜生……。やっぱり首から上も鍛えとくべきだった……」

 頭のてっぺんにでっかいこぶを膨らませた先輩に肩を貸して歩く。


「もう。いい加減懲りてくださいよ」

「いや、まだだ。コンピューター部へ連れてってくれ……」


 ぎりぎり寸前のところで一命はとりとめたものの、先輩は瀕死の状態。HP1。


「先輩何言ってんすか。もう一人で歩くのも無理じゃないすか」

「いや、ハッキング勝負なんだからコンピューター部行かないとダメだろ……」


 その通りだよ。てかむしろなんで剣道部行ったんだよ。そっち最初に行っとけよ。


 でもまああの恐るべき凶器も破壊されてしまったし、そこは戦闘系の部活じゃないし、まさか死んだりすることはないだろうと、コンピューター部の部室まで先輩を連れて行った。


 部屋に入ると、先輩はあたしの手を振りほどき、生まれたての子鹿みたいなぷるぷるおぼつかない足取りで因縁の猫娘の前に向かって行った。


「おい……私とハッキングの勝負をしろ……」

 そうして先輩はそろばん先輩に挑戦状を叩き付けた。


「勝負って、お前よれよれじゃん」

 そろばん先輩は猫の目を見開いて驚きながらも噴き出している。


「大丈夫だ……。問題ない……」

 立ってるのもやっとのふらふらな状態。


「いや問題あるだろ」

 そろばん先輩はそう言って立ち上がり、先輩の頭にぽこんと軽いチョップをかました。


 この攻撃のダメージが1。先輩のHP0。


 殴りハッカー、ハッカーに殴られ死亡。


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