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先輩とハッカー

「雷って電気じゃん。機械も電気で動くわけだし、だから心が通じ合ったって言うのかな。なんか目覚めちゃったんだよ」


 先輩がハッカーになったと言う。


 さすがの先輩も雷撃を喰らってはタダでは済まなかったようで、昨日は学校を休んだんだけど、今日はもう元気いっぱいピンピンしている。というかむしろ念願のハッカーになれたということで、いつも以上に昂っている。


 あたしも占いや神頼みといった非科学的なものなんて全然信じてはいないけども、焼け焦げた先輩の気の毒な姿に、また短冊を結び直しておいてあげたのがまずかったのかもしれない。天気も予報通り、凄まじい土砂降りは三十分後にはそれが嘘だったみたいに、また夏らしい気持ちのいい青空となって、そのまま夜の時間を迎えていたし。七夕としては最高の条件だった。そりゃ無茶苦茶なお願いでもかなうかもしれない。


「で、ハッカーになったからってなんなんです? なんか凄い技とか使えるんすか?」

「ふっふっふ。まあこれを見ろ」


 先輩はバッグのファスナーを開けた。


「じゃん」


 出てきたのは、ぎりぎり辛うじて白かなという色のでっかい分厚い板。


「……なんですかこれ?」


 なんかえらい黄ばんでるし擦り傷だらけだし、くたびれ感が凄い。あたしもこんぴゅーたーとかはっかーとかハイテクなことはちんぷんかんぷんだけど、これが相当にヤベえやつだってことぐらいは分かる。


「なんだってお前、ノートパソコンに決まってんじゃん」

 先輩はどうだとばかりに自慢げ。


「え!? ノートパソコンって、これちょっとデカすぎなんですけどいつのヤツですか?」

「さあ。いつとかは知らんけど、昨日リサイクル屋行って、ジャンクコーナーの一番安いのがこれだったんだよ。たったの三百円だぞ。税込み三百円!」


 こんなとんでもないことを誇らしげに胸を張って言う。


 これは困ったぞ。これはあたしが知ってるハッカーとは絶対違う。


 ――いや。でもまだ分からんぞ。相手はこの先輩だし、そう判断するのは早計だ。


 雷のせいか短冊パワーのせいか、なんかおかしくなってほんとに本物のハッカーになってるかもしれない。このパソコンだって、小汚い古臭い三百円でも高そうな見た目に反して中身はとんでもないモンスターマシンなのかもしれない。ガワなんかどうでもいいと、大事なのは中身だと、自分でパーツを最新最強のものにそっくり換装しているのかもしれない。じゃないと彼女のこれほどまでの自信がなぜなのか、説明が付かない。


 何兆分の一かのその確率に賭けてみる。


「せんぱい……これ中身はすごいんですよね……?」


 自称ハッカーは相変わらずの態度で堂々答えた。

「うん。ネジ外して分解して中身全部取り出して大変だったよ」

「おお」


「そんで鉄板に入れ替えたんだよ。増設とか改造とかいうやつ?」

「……」


 魔改造が過ぎる。てかもうそれパソコンじゃないじゃん。鈍器じゃん。


「あの……先輩ってハッカーがなんなのか知ってます?」

 核心的なことを聞いてみたら、


「知ってるよ。だからお前の言わんとするところは分かるよ」

 先輩は根拠のない自信を溢れさせたその顔をやめると、今度は自嘲気味な笑みになった。


「クラッキングの手段もいろいろあってさ、私はソーシャルエンジニアリングってのを究めることにしたんだ」

「なんですかそれ?」


「あのさ、なんか欲しいデータがあるとするじゃん。でもそれが入ってる標的のコンピュータをハッキングの技術を使って直接狙うんじゃなくて、それを使ってる人とかその周辺の環境とかを狙って間接的に攻撃するってやり方なの」

「はあ」


「例えば画面をこっそりのぞき見してパスワードを盗んだりとか、ゴミを漁ったりして侵入のヒントを見つけるとかな」

「はい」


「で、私はその中でも対人戦に特化することにしたんだよ」

「戦……」


「平たく言えば、人を襲撃してパスワードなり機密なりの情報を吐かせるってことだね」


 また彼女はさっきの自信満々な顔に戻った。


 やっぱりあたしの知ってるハッカーじゃなかった。


「強盗じゃん」


「違うって。だから武器をノートパソコンにしたんだろ? ハッカーならではって感じの武器だろ?」


 わけがわからない。雷で頭をやられて頭おかしくなったのか? いや、頭おかしいのは元からだけど。てかこれもやっぱりノートパソコンじゃなくて鈍器なんじゃん。


「あとこれ。これで捕まえたやつを縛ったり、別のビルに飛び移ったりする」


 先輩はまたバッグからぐるぐる円周状に束ねられた何らかの配線を取り出した。


 パッケージからすると二十メートルのLANケーブルらしい。まさかこの子もそんな用途に使われることになるとは思ってもみなかっただろう。


「昨日は朝はこれを買いに行ったり改造したりして、昼はみっちり練習したからかなりの使い手になってると思うぞ」


 てか昨日休んでたの雷のせいじゃなくてこれのためかよ。


「ということで私のハッキング術、見せてやるよ!」


 美少女殴りハッカー、ここに爆誕。


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