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先輩と七夕

 青い空に入道雲。むしむしの暑さに蝉の声。


 まさに夏って感じ。


 自転車を置いて玄関前に来たら、この季節ならではというものが用意されていた。


 高さ三メートルほどのもさもさの緑にカラフルな飾りや短冊が括り付けられている。


 夏という季節は心踊るイベントがみっちりひしめいているように思えるけど、実は意外とそうでもない。一年の中で最も行事が少ない六月も含まれているからだ。そのなんもない月が去って一週間、ついに始まる楽しい夏の風物詩の先頭を飾るのがこれ。七夕。今日がその七月七日だった。


 あたしも短冊を一枚いただいた。青い短冊。


 なにを書こうかな。


 今日は朝の天気予報だと、夕立は降るかもしれないけど概ね晴れということだった。なので願いはかなうかもしれない。


 でも、うーん……。


 なんも思い付かないので、ちょっと友達の様子を見てみることにする。


 ちょうど料理部ちゃんがいた。


「おはよー。ねえねえ、お願いなに書くの?」


「あ。おはよー。まだ考え中なんだ~」

 あははと歯を見せた。


 私と同じか。


 とりあえずは思いつかないので、決まったら後で結びに来ようかな。


 料理部ちゃんとそう話していると、バスケ部ちゃんが笹竹の高い位置に黄色の短冊を結び始めた。


「私は『レギュラーになりたい』って書いたよ」

 彼女は目をキラキラさせた。


 そこにやってきたサッカー部ちゃんも意気揚々、『全国大会優勝』


 なるほど。この時点で結んでる人というのは、これしかないって強い思いを持ってるということなんだな。


 ふむふむ。そういう人は応援したくなるね。みんながんばれ。


 ――が、


 なぜだかうちの先輩もその一人だった。


「ちゃ~すせんぱ~い、はよざいま~す」

 と、声を掛けたら、


「おう、おはよう」


 彼女は挨拶を返すと、枝の中の方の目立たなそうな場所に金色の短冊をくくり付けた。


「なんて書いたんですか?」

 多少の興味はあるので聞いてみたら、


「いやいや。願い事は他人に話すと叶わなくなるとかいうだろ」

 にやりと不気味な笑みを浮かべてすたすた去っていった。


 まあどうせしょうもないこと書いたんだろうと、あたしも教室へ向かった。




 お昼休み。


 お弁当を食べ終わり、料理部ちゃんと玄関に向かった。


 結局あたしは何も思いつかなかったので、『健 康』の二文字をでっかく書いておいた。


 年に数回の貴重なお願いイベントを一回無駄遣いした気がしないでもないけど、なんだかんだでやっぱり健康が一番なんだし、まあこれはこれでいいだろう。


 ちなみに料理部ちゃんのお願いは秘密とのこと。


 これもちょっと気になるけど詮索するのもなんだしと、深くは聞かなかった。


 さて、靴に履き替えて笹竹の前、あたしは適当な空きスペースに青の短冊を結んだ。


 料理部ちゃんはあたしからちょっと離れたところで葉をかき分け、内側に手を差し入れてごそごそしている。


 さっき先輩もそんな感じだったなと思っているところへ、鮮烈なきらめきが目を刺した。


 太陽の光を金色の短冊が反射させたようだ。


 そういえば先輩の短冊ってレアカラーの金だったな。金は他に見当たらないし、位置的にも同じ場所っぽいし……。ふむむ……。


 ……。

 …………。

 ………………。


 と、どうしたものかと葛藤しているところ、


「じゃあ戻ろっか」


 にこにこ顔の料理部ちゃんに強制終了させられた。




 放課後。


 いつも通りお茶を飲みながら先輩のしょうもない話を聞かされていた。


 でもあれよあれよの間に外が暗くなっていったと思ったら、まず最初の重く低く鳴り響く音が聞こえてきた。


 話はそこで中断、音もまだ小さいしということで、急いで片付けをして教室を出た。


 廊下を走り、階段を駆け下り、下駄箱の前に到着。にわかに強くなった風が窓をガタガタ揺らすなか、あたふた靴を履き替えているところ、紫の閃光と同時、凄まじい轟音が鳴り響いた。


――近い!!!


 あたしは靴を持ったままの姿勢で体が硬直してしまったんだけど、先輩はそのまま弾丸のように飛び出して行ってしまった。


(これはやばいです! やっぱり戻りましょう!)


 そう引き留めようと、あたしも急いで後を追いかけた。


 あたしが玄関を抜けたとき、疾走する先輩はちょうどあの笹飾りの隣――


――瞬間――


 雷が笹竹に直撃、すぐ横の先輩の体も骨が透けてビリビリ光ってる。


「あら~遅かったか」


 幸い笹竹も先輩もプスプスと煙を立ち上らせるだけで発火はしなかった。


 でも飾りのいくつかと短冊の何枚かは、強風も相まって空に流されて行った。


 と、その中の一枚があたしの目の前へ、瞬間、それを鷲掴みにした。


 その金色の短冊に書かれていたのは、


『ハッカーになりたい』


 先輩、これは天にお願いするタイプのやつじゃないです。


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