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先輩と中間テスト

「見た目だけなら私の成績のイメージってどんな感じ?」


 中間テストの結果が出た。


 そして先輩はまた今日もいつものように変なことを聞いてきた。


 あたしは高校に入って初めてのテストだったけど、可もなく不可もなくのまずまずというところだった。まあ中学の頃より授業の内容はかなり難しくなっているので、一応のところはちゃんとついていけてるみたいでよかった、ということにしとこう。


「そうですねえ。見た目だけっていうなら文学少女って雰囲気ですし、文系科目は満点だけど理系科目は壊滅みたいな」

「だよね」


 ふむふむとうなづく先輩。


「あるいは深窓の令嬢って感じなんで、成績優秀全科目ほぼ満点だけど体育だけはちょっと苦手、みたいなのもありです」

「だよね」


 うんうんとうなづく先輩。


「で、実際のところはどうだったんですか? 結果」


 先輩は不敵な笑みを浮かべながらテストの結果表をあたしの前に差し出してきた。


「なんだこれ」


 理科数学はいずれも高得点、世界史が四十三点、国語英語は壊滅状態だった。


「どうだいどうだい。理系って感じだろ。私のイメージと真逆って感じだろ」

 ほくほくご満悦な先輩。


 先輩はどうも理系の人になりたいようなのだ。


 文理選択でも苦手なのに敢えていばらの道の理系に進み、この理科部というざっくりした謎の部を立ち上げた。部員は二人で顧問もいないし、部と名乗ってはいても実際は同好会なんだけど。


 理系の正式な部はコンピューター部とか珠算部とかが既にあるけど、好き勝手やりたいということで、先輩は自らの手で新たな組織を作ったのだそう。


 そうした努力がついに実を結んだのだろうか、先輩はテストの結果だけは理系の人っぽくなった。


 意外性のためだけに無駄な努力をするなど、非常に非合理的で理系とは正反対のやり方のような気がするんだけど。


「これ文系科目わざとですか?」

「いや全力だよ」


「マジすか。でもこれ英語とか世界史はまあできなくてもどうにかなるとしてもですよ、現国四点ってもう日常生活がヤバいって感じでしょう。大丈夫なんですか?」

「まあ理科と数学しかやってなかったからな」


 にしてもあまりにも偏りがおかしい。文系科目を犠牲に理系科目が強化されるみたいな。そりゃ理系の方に時間を割いたら他をやる時間は無くなるけど、さすがに点数一桁はない。なんか漫画やアニメでよくある、力を使うたびに代償として記憶や思い出が失われていくという設定の人の最終回直前みたいな印象。


「どんな勉強法したらこんな風になるんですか。絶対おかしいですよ」


 その問いに、先輩はこともなげにこう答えた。


「別におかしかないよ。ちょっと禁断の書ってのを見つけて、そこになんでも願いが叶うおまじないってのがあって、それ実践したら見事成功したんだよ」


 理系とは。


「なんなんですかそれ」


 でもこの先輩だったら有り得なくもないと思ってしまうのが恐ろしいところ。


「夜中に白装束着て頭にろうそく立てて、神社の木にわら人形を五寸釘で打ち込むってやつだよ」

「それ人を呪い殺すやつじゃないですか」


「いろんなバージョンがあるんだよ。さすがに自分の髪の毛入れたわら人形に釘打ち込むのは若干の抵抗があったけど」

「そんなん聞いた事もないですけど」


 あたしが訝しんでいると、先輩は口に手を当ててくすっと笑い、


「うそうそ。んなことあるわけないじゃん」

「もー」


 さすがの先輩でもそれは有り得なかった。


 先輩はまた笑みを多少残したさっきの顔に戻って、


「ほんとは黒魔術使ったんだよ」


 理系とは。


 でもこの先輩だったら有り得なくもない。


「一番大変だったのはいけにえの調達だったね」

「へえ」


「もちろん人間が一番いいんだけどそんなん無理だからね」

「はい」


「それ以外ならでかけりゃでかいほどいいってことで、ちょっと南極まで行ってクジラ捕まえてきたよ」


 先輩は眉一つ動かさずに大嘘をこいた。


「さすがにそれは嘘って分かりますよ」


「やっぱりか」

「やっぱりです」


 先輩は屈託のない笑顔で悪びれもしない。


「じゃあもうしょうがないなあ」


 先輩はまた表情を戻すと、


「ハッキングしたんだよ」


 理系っぽい。


 でもこの先輩だったらそれこそ有り得ない。


「嘘じゃん」


「おいおい。お前まずは話を聞けよ」

 先輩はやれやれとばかりにふっと息を吐いた。


「二年の成績のデータはどこにあるのかってことをまず調べてさ」

「……」


「それが学年主任のパソコンに入ってるってことが分かったんだよ」

「……」


「で、なんか侵入して、なんかデータを改ざんしてこの成績にしたんだよ」


 先輩は眉一つ動かさずに大嘘をこいた。


「さすがにもうちょっと頑張りようがあるでしょう」


 先輩はてへっと笑うと、


「だってハッキングのことなんか全然知らないもん」

「じゃあ最初から言うなよ」


「てへっ」

「もうほんとは何なんですか?」


 この期に及んでは先輩も隠す気はない。へらへら笑いながら、


「うん。ものすごい睡眠学習法をやってみたんだよ」

「また嘘じゃん」


「じゃあほんとは降霊術で科学者の霊を憑依させたの」

「じゃあって」


「そんなら催眠術で自己暗示を自分にかけたってのはどう?」

「聞くなよ」


 くすくす笑う先輩。


 ようやく満足してくれたらしい。


 そうして自分の鞄から紙の束を取り出した。


 それはテストの解答用紙だった。点数は軒並み低得点で、文系教科のもの。


 なんだろうと思ってよく見てみたら、聞き覚えのある文字列が。


「私まだ異世界弁が抜けてなくてさ、喋るのは大丈夫だけど書く言葉が全部訛っちゃうの」


 なるほど。それでこの結果か。


 異世界弁つええ。


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