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第46話 本当の兄妹?


「オッサンがお膳立てしたって言ってたけど一体、何をするつもりだったんだ?」


 アルはカウンターに置かれたグラスに口を付けつつ、ディンゴに問いかける。


「何をってのは? どういう事ですかい?」


 ディンゴは疑問を浮かべた表情で、質問に質問を返していた。


 その返答を聞いたアルは、少し思案するような表情で話を続ける。


「まさか全てバレリアに任せっきりって訳じゃないだろ? 何か策でもあるのかなって事」


「そういう事ですかい。 もちろんバレリア様のしたいようにして貰っても構いやせんが……」


 腕を組み右手で顎を触りながら、ディンゴは斜め上に視線を向け言葉を続ける。


「出来ればゼニールの奴一人だけを捕らえて欲しいんでさ。 極力、人を傷つけずにね」


 ディンゴの返答を聞いたアルは、その意外な言葉に少し驚いた様子を見せていた。


(バレリアに任せるって事は、相手を全滅させて欲しいのかと思ってたけど……)


 そんな事を考えながら、アルはディンゴに対し質問をぶつける。


「何でそんな回りくどい事しなきゃ駄目なんだ? バレリアだったら……」


 アルはディンゴとバレリアの関係性については、ある程度しか理解していない。


 その為、少し探りを入れるように言葉を濁らせながら、ディンゴの出方を伺う事にした。


「もちろんバレリア様がその気なら、壊滅も楽勝でしょうぜ」


 そういうとディンゴは少し気不味そうな表情に変わる。


「でもそんなお願いをしちゃぁ、きっとバレリア様は断るでしょうし」


「んっ? そなの?」


「えぇ。 正直、バレリア様は戦いがあんまり好きじゃないみたいですからねぇ」


 アルは好戦的だったバレリアしか知らない為、ディンゴの意外な言葉に少し驚いていた。


 しかし、あえて話の腰をおる事はせず、納得したような表情で問い返す。


「そうだなぁ。 って事は極力、戦わずにゼニールを捕らえる事が出来そうなのか?」


「そりゃ多少は戦いもするでしょうが、大勢と戦うって事は避けられると思いやすぜ」


 アルはディンゴの言葉を聞いて、思わず口角が上がる。


(何だよ、このオッサン。 意外と優秀なんじゃないのか?)


 心のどこかで少しだけディンゴを見下していたアルは、認識を改める。


 そして聞きたかった重要な部分について、アルは尋ねてみた。


「ところでさ。 仮にゼニールを捕らえたとして、帝国は何も言わないのか?」


 曲がりなりにも現時点では領主の立場にあるゼニール。


 それを捕らえては通常、領地内の反乱と捉えられてもおかしくはない。


 アルのその問いかけに対し、ディンゴはニヤリとした表情に変わる。


「まぁ、バレリア様があのまま帝国に残ってくれてれば、一言で済んだと思いやすがねぇ」


「だろ? でも今も国籍は帝国みたいだけど…… 立場的には、どうなのかなって……」


 アルは何となく知ってる情報を、あたかもバレリアが言っていたかのように問いかける。


「やっぱりバレリア様も気にされてましたか。 でもまぁ、心配には及びませんぜ」


 笑顔を見せたままのディンゴは、少し自慢気に話を続ける。


「ゼニールの汚職の証拠は幾つも抑えてやすんでね。 それにここは帝都からも離れていやすし」


 そう言うとディンゴは、一枚の布を取り出しカウンターへ広げる。


 それは旧アストリナ領周辺の地図が描かれていた。


「隣国や周辺都市への根回しも済んでおりやす」


 ディンゴの言葉を聞いたアルは、少し関心した様子を見せていた。


「なるほどな。 でも、そこまで済んでるなら、普通に帝国に密告しちゃえば良いだろ?」


 アルの素朴な疑問に対し、ディンゴは少し気不味そうな表情で答える。


「そこでさ。 帝国貴族ってのは完全に序列の世界でやすからね。 ゼニールが賄賂を送ってる相手ってのも、相当のお偉いさんなんでさ」


 ディンゴは腕を組み、眉間にシワを寄せながら話を続ける。


「なので、そのままだと当然揉み消されちまいやすが、証拠を握った上でゼニールを捕らえる事が出来れば、隣国や周辺都市のお偉いさんが口を聞いてくれるって手はずになってるんで」


「そういう事か。 って事はやっぱり……」


「えぇ。 特に最近、ゼニールの奴は国境の警備を厚くしやがりましてね」


 そして小さく「ふぅ……」と溜息を吐くと、表情を変えずに言葉を続けた。


「結局、ゼニールを捕らえない事には、帝国に行く事も隣国に協力を要請する事も出来ねんでさ」


 少し気落ちするような表情で話すディンゴの言葉を聞いて、アルは少し顔をしかめていた。


(そういう事か…… って事は単純に逃げるってのも、難しくなりそうだなぁ……)


 アルの様子を見たディンゴは少し表情を明るくすると、アルに言葉をかけた。


「でも、そのおかげでゼニールの城の警備は、かなり手薄になってやすからね」


「んっ? そうなのか? てっきり兵を増やしたりするのかと思ったけど……」


「ここは正式なハイランド帝国領じゃないですからねぇ。 全部、ゼニールの私兵でさ」


 ディンゴはそう話しながら腕を組むと、目を瞑りながら話を続ける。


「国境の警備を厚くして、城壁も強固。 兵を増やす必要が無いって思ってるんじゃないですかい?」


 その言葉を聞いたアルはグラスに口を付けると、少し思案するような様子を見せた。


(って事は城にさえ入る事が出来れば…… いや、そんな簡単じゃないか……)


 眉間にシワを寄せ少し考え込むアルを他所に、ディンゴは話を続ける。


「なので、その城壁を突破して衛兵を倒し、ゼニールを捕らえる…… そんな芸当が出来るのは、あっしの知る限りバレリア様しか居ないって訳で」


 ディンゴの話を聞いたアルは小さく溜息を吐くと、眉間にシワを寄せたまま返答する。


「なるほどな…… って事は……」


 アルはチラッとディンゴに視線を向け、話を続ける。


「こないだ頼んでた身分証も、やっぱ無理って事?」


「そうなんでさ…… なので、是が非でもバレリア様には……」


 申し訳無さそうに話すディンゴを見たアルは、何かを決心したように返答する。


「分かった。 とりあえずバレリアには伝えておくよ」


「くれぐれも、お願いしまさぁ……」


 ディンゴの返答を聞いたアルは小さく頷くと、隣に座るリナに視線を向ける。


(状況は大体分かったけど…… 結局、攻めるのも逃げるのも難しそうだなぁ)


 アルの視線に気付いたリナはチラッとアルを見ると


「この飲み物…… 美味しいね……」


「えっ? あぁ、そうだな」


 そう呟くとリナはディンゴへと視線を向ける。


 バレリアの影響か、幼女が苦手なディンゴは少し嫌そうな表情に変わっていた。


 そんなディンゴの様子を他所に、リナはディンゴに言葉をかけた。


「バレリア様も飲みたいって…… 言いそうだよね……」


 そう呟くとチラッとアルヘ視線を送る。


 その言葉を聞いたディンゴは、少し焦ったように


「そっ、そうですかね! 今、お土産用に準備しまさぁ」


 そう言うといそいそカウンターの奥へ引っ込んでいった。


「お前なぁ……」


「それで…… どうするの?」


 呆れた表情で話すアルに、リナは無表情で尋ねる。


 その言葉を聞いたアルは少し思案する様子を見せていた。


(城攻めは絶対に危険だけど…… 逃げるってのも同じ位、危険だろうしなぁ……)


 アルの悩んでいる様子を見たリナは、意外とも言える言葉をアルにかけた。


「リナは…… お兄ちゃんに任せる事にする…… 従う……」


 てっきり、絶対に城を奪還すると主張すると思っていたアルは、少し驚いた様子を見せていた。


「あれ? その子、旦那の妹だったんですかい?」


 カウンターの奥から一本のジュースを持って現れたディンゴが、意外そうな表情で尋ねる。


「えっ? あっ、いや」


「そう…… リナのお兄ちゃん……」


「おいっ…… ったく……」


 少しだけ焦ったように否定しようとするアルを他所に、リナは兄である事を肯定する。


「そうですかい。 まぁ、気を悪くしねぇでくれよ、嬢ちゃん。 あっしはどうも……」


 少しだけ気不味そうな表情でリナに謝るディンゴに、リナは無表情で頷く。


「ジュース…… ありがと…… 渡しておく」


 リナは気にする素振りも見せずディンゴからジュースを受け取ると、店の出口へ移動する。


「悪いね、勝手な妹で…… あっ、そうだ」


 アルは予め用意していた布を懐から出すと、ディンゴに手渡した。


「これは何です?」


「それ、今俺達が住んでる場所の地図。 んでさ」


 アルは念を押すようにジッとディンゴを見つめると、真剣な表情で話を続ける。


「四日後。 四日後にここに来てくれる? その時に、改めて話すから」


「四日後…… ですかい? わかりやした」


 ディンゴはアルの真剣な表情に気圧されるように了承した。


「んじゃ、また後でね」


「へい」


 そう告げるとアルは、リナと共に店を後にした。


 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇


 店を出るとすっかり日も傾き、上空には大きな月が顔を覗かせている。


 昨夜とは違い過ごしやすい天気となり、そよ風に乗って草木の匂いが運ばれてくる。


 辺りが見通せる程の月夜の中、アルとリナがレイ達の待つ家へと戻ってきた。


 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇


 食事を済ませ居間に集まった四人。


 アルはディンゴに聞いた事を説明し、今後の方針を話し始める。


「とりあえず、城内が手薄だって事は分かった。 問題は二つ」


 アルはテーブルの上に薄い木の板を置くと、そこに筆でサラサラと図を描いていく。


「まずは城壁。 これを突破しない事には話にならん」


 適当に想像で描いた城の図の、城壁の部分をトントンと叩きながら話を続ける。


「それと城。 城壁を突破出来ても、籠城されたら終わりなんだけど……」


 アルはそう告げると、改めて三人を見回す。


 城内に侵入しゼニールを捕縛する事が現実的では無いという事を、理解させようとしていた。


(これで皆が逃げる方向で、まとまってくれたら良いんだけど……)


 アルの期待とは裏腹にリナの発言が場の空気を一変させる。


「城内には入れる…… 王族だけが知ってる入り口があるから……」


「ほっ、本当に? リナちゃん!!」


 リナの呟くような言葉を聞いて、驚いた表情で尋ねるレイ。


 その問いかけに対し、リナは無表情ながら大きく頷いていた。


「アル! イケるんじゃない?」


 レイの歓喜するような表情を見て、アルは少し呆れた表情に変わる。


(眉唾な話だが…… 王女さんが言うんだからなぁ…… 覚悟、決めるしかないか)


 アルは溜息を吐きながら、三人を見回し言葉をかけた。


「じゃ、とりあえずは城壁だな。 それと先に確認しておきたいんだけど」


 そう言うとアルは真剣な表情でレイを見つめる。


「えっ? なっ、何かな?」


 急に真剣な表情で見つめられたレイは、少し驚いたような表情で答える。


「覚悟はあるのか? 戦う事になるかも知れんけど……」


 アルの言葉を聞いたレイは、真剣な表情に変わり大きく頷く。


「もちろん! 私だって一応お姉ちゃんの妹だし、暇な時に護身術? そんなの習ってたから…… 多少は戦えると思うけど」


「まぁ…… そうだな……」


(そういやレイってバレリアの妹かつ、脳筋女だったよな…… すっかり忘れてたわ……)


 そんな事を考えつつアルは少し呆れた表情で、シナモンへと言葉をかける。


「明日、城壁を見に行くから。 商人っぽい格好を四人分、準備しておいてくれるか?」


 少しだけ蚊帳の外にされていたシナモンは、頼りにされている事を実感し力強く答える。


「任せて欲しいのですよ!」


「よし! んじゃ明日だな」


 アルの言葉を聞いた三人は、無言のまま大きく頷いていた。

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