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第45話 お膳立て

 リナがアルを襲った日の翌日、正午。


 その日は前日のうだるような暑さとは打って変わり、過ごしやすい陽気に変わる。


 風も弱く朝方から気温が下がると、アルの部屋の開け放たれた窓からは涼し気な風が入り込む。


 眠りを誘う鳥の声とそよ風によって、アルの眠りも自然と深くなってしまう。


 前日の疲れも重なり正午前まで眠ったアルは、ハッとしたように目が覚めた。


「ふぅ…… 今日は起こしに来なかったなぁ」


 ゆっくりと身体を起こし長座しながら、そう呟くアル。


 立ち上がり着替えを済ませると、あくびをかきながら居間へと向かった。


「おはよーー。 んっ? どしたんだ?」


 居間ではレイとシナモン、そしてリナが遅めの朝食もそこそこに暗い表情で俯いている。


「あっ、おはよアル。 んっ…… 何でも無いよ」


 レイは誤魔化すように苦笑いを浮かべていた。


「なんだよ。 あっ、俺にもご飯ちょーーだい」


 アルはレイの隣にドカッと腰掛けると、シナモンに声をかける。


 するとシナモンは少し不安そうな表情で、アルへと問いかけた。


「あっ、あの…… これから、どうするですか?」


「一体、どしたんだ? 俺に任せておきながら、不安そうな顔して……」


 あっけらかんとした表情で答えるアルに、シナモンは少し不服そうな表情で返答する。


「アルさんに任せてるから不安なのですよ……」


「悪かったな」


 アルが不機嫌そうに答えると、シナモンは少し気不味そうな表情に変わる。


「あっ…… 冗談なのです。 ごめんなさいなのですよ……」


 シュンとするシナモンと苦笑いを浮かべるレイ、そして無表情のリナの顔を見回すアル。


(うーーん。 一晩寝て冷静になったのか…… 予想以上にテンション低いな……)


 アルは少し思案するような表情で、それぞれの顔を改めて見回す。


(リナは何考えてるか分からんけど…… まぁ時間も無いし、さっさと話を進めるか)


 少し気の抜けたような表情に変わったアルは、いつも通りのトーンで話を始めた。


「とりあえず、城を奪還する方向で動くぞ。 良いか?」


 アルの問いかけにレイはハッとした表情で大きく頷く。


 リナも無表情のまま頷くが、シナモンは不安そうな表情のまま確かめるように尋ねる。


「かっ、可能なのですか?」


「うーーん。 やってみないと分からん」


「んなっ!!」


 アルの返答にシナモンは納得のいかない表情で絶句する。


「良いか? あと九日しか無いんだぞ?」


「でっ、でもアルさんは【数字の烙印】を持ってるですよ? 烙印の力でバーーンっと……」


 アルの本当の力を知らないシナモンは、両手を広げ説得するようにアルへと言葉をかける。


(やっぱり期待してるよなぁ…… 避ける事しか出来ないってのに……)


 アルは少し呆れた表情でシナモンを見つめると、小さく溜息を吐いた。


(まぁ無理も無いか。 大国を治める奴と同じ能力ってんだから、期待しちゃうよなぁ……)


 そんな事を考えながらアルは、三人の顔を見回しながら言葉を発する。


「良いか? 俺一人で何をしても良いってんなら、城くらい何とかなるかも知れんけど」


 嘘を付いてる事を後ろめたいアルは、誤魔化すように右手で顎を触りながら話を続ける。


「全員が無傷で安全に城を奪還するってのは…… さすがに簡単じゃないだろ?」


 アルの言葉を聞いていた三人は、少しガッカリしたように俯く。


「それに上手く城を落としても、ハイランド帝国ってのが逆に奪還しに来たら、太刀打ち出来んだろ?」


「そっか…… 確かにそこまで考えてなかったかも」


 レイはガッカリした表情のまま、俯きながら呟く。


「だから、やれるだけの事をやって駄目そうなら逃げる。 良いか?」


 アルの言葉を聞いたレイとシナモンは、無言のまま頷く。


 それとは対象的に、無表情ながら眉間に少しシワを寄せたリナが反論する。


「嫌だ…… リナは一人でも取り返す……」


 リナの予想通りの返答を聞いたアルは、少し口角を上げながらリナに言葉をかけた。


「誰も奪還しないなんて言ってないだろ?」


「……どういう事?」


「九日以内に奪還出来なければ逃げる。 けど時間をかけて、城は絶対に奪還する」


 アルの言葉を聞いたシナモンは、ハッとした表情に変わる。


「確かにそうなのです。 ゼニールの任期は後一年なのですから…… それも可能かもなのです」


 シナモンの言葉を聞いたリナは、渋々ながら「……分かった」と呟いていた。


(よし。 これで、とりあえずリナの暴走は避けられたな。 まぁ城を取り戻すなんて非現実的過ぎるし…… 逃げる方向で進めるけど……)


 アルはそんな事を考えつつ、改めて三人の顔を見回すと右人差し指を軽く振りながら……


「んじゃ、とりあえず村に言ってディンゴのオッサンに会うぞ」


「んっ? ディンゴって、お姉ちゃんの配下だったオジサンだよね?」


「あぁ。 何するにせよ情報が足りないからな。 あのオッサンにも役に立って貰おうぜ」


 アルの言葉を聞いた三人はお互い顔を合わせると、やる気に満ち溢れたように頷き合う。


 そしてスッと立ち上がると、未だにテーブルの前に座るアルへ視線を送る。


 三人の視線に気付いたアルは小さく頷きながら、真剣な表情で言葉をかけた。


「とりあえず…… 朝ご飯…… 良いっすか?」


 真剣な表情で話すアルの顔を見たレイは、右手で眉間を抑えながら溜息を吐いていた。


「やっぱりアルさんはアルさんなのです…… 今、用意するですよ……」


 呆れた表情のシナモンはいそいそと台所へ向かい、リナは改めて座ると残った食事を食べ始めた。


 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇


 食事を済ませたアルとリナは村へとやってきた。


 既に時刻は正午を過ぎており、レイとシナモンは集落跡で留守番をする事になる。


「おっ、あそこだあそこ。 とりあえず、用心の為にフードは被っておけよ?」


 路地裏にあるディンゴの酒場へとやってきた二人は、さっそく店内へと入る。


「こんちわーー! 居るかな?」


 アルが少し大きめの声で呼びかけると、カウンターの奥からディンゴが姿を見せた。


「おっ、旦那ですかい? バレリア様には…… って」


 ディンゴはフードを被るリナを見て、ハッとしたような表情に変わる。


「ばっ、バレリア様も居らしてたんですか? ……んっ?」


 リナを覗き込むように見たディンゴは、疑問を浮かべた表情でアルに視線を送る。


「えっと…… バレリア様じゃ……?」


 その様子を見ていたアルは少し苦笑いをしながら、ポンポンとリナの頭を叩く。


「この子は残念ながらバレリアじゃないよ。 とりあえず座って良いかな?」


「えっ? あぁ。 構わねぇですが……」


 少し懐疑的な表情でリナを眺めつつ、ディンゴはカウンターに飲み物を二つ用意した。


 席に座ったアルは、隣に座るリナに声をかける。


「このオッサンは信用出来る人だから。 フード取っても良いぞ」


「……わかった」


 リナは促されるようにフードを脱ぐと、無表情のままディンゴを見つめる。


 端正な顔立ちだが、まだ幼いリナの顔を見たディンゴは少し表情を曇らせる。


 そしてジッとアルを見つめ、意を決したように話を始めた。


「旦那、この際だからハッキリ言っておきやすが……」


 ディンゴは表情を曇らせたままチラッとリナに視線を送ると……


「あっしはどうも女の子供ってのは苦手でね。 出来れば連れて来ないで欲しいんですが」


 ディンゴの突然の言葉を聞いたアルは、少し苦笑いを浮かべる。


(それで、こないだシナモンを恫喝してたのか…… まぁ理由は何となく想像出来るけど……)


 アルはふとバレリアの事を思い出しつつも、苦笑いのままリナの頭をポンポンと撫でる。


 そしてディンゴに視線を向け、話を始めた。


「まぁ気持ちは分かるけどさ。 とりあえず、バレリアに頼んでた件なんだけど良いかな?」


「もっ、もちろんでさ。 でっ、バレリア様は何て仰ってました?」


 カウンターから身を乗り出し、食い入るようにアルを見て話すディンゴ。


 その様子にアルは少し後ろめたさを感じていた。


(この様子だと…… バレリアが居ないって言ったら…… 協力してくれんだろうなぁ……)


 そんな事を考えつつ、アルは少し苦笑いを浮かべたまま返答する。


「オッサンのお膳立て次第では引き受ける…… って言ったけど……」


 アルのその言葉を聞いたディンゴの表情は明るくなり、少し上ずった声で……


「もっ、もちろん何でもしますぜ! っで、何をしたら良いと?」


 ディンゴの返答に少し後ろめたさを感じつつも、アルは話を続けていった。

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