第43話 少女の目的
アルの事をお兄ちゃんと呼ぶ少女。
その少女との経緯をアルは事細かにレイに説明していく。
「とにかく! 詳しい話を聞くから二人共、ちょっと来てっ!」
少し怒ったような口調で話すレイ。
「わっ、分かったから落ち着けって。 えーっと、お前もちょっと来い」
焦った表情でレイに返答すると、直ぐに呆れた表情で少女を見つめるアル。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
少し怒っているレイを宥めつつ、アルは少女を連れて居間へと移動する。
グーーーーッ……
「……お腹空いた」
右手でお腹を擦りながら呟く少女。
口数の少ない少女の腹の音を聞いたレイが、特製の雑炊を作り居間へとやってきた。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「いただきます……」
アルの横で雑炊を啜る少女を横目に、正面に座ったレイが少し怒ったような表情で問いかける。
「それで…… これは一体、どういう事なのかなぁぁ?」
怒りと軽蔑が入り混じった表情で、腕を組みながら睨むようにジロっとアルを見つめるレイ。
「それは俺が聞きたいんだけど……」
困り顔のアルは横目でチラッと少女に視線を送りながら、レイに返答する。
「っていうか…… お前…… 名前は?」
アルの問いかけに対し、雑炊を啜りながらチラッとアルを見た少女は……
「……リナ。 ズズッ…… ……美味しい」
名前を答えると直ぐに雑炊を啜り、無表情のまま料理の感想を述べるリナ。
そんなリナの様子を、テーブルに両手で頬杖を付きながらニコニコした表情で見つめるレイ。
「でしょでしょ? 美味しいのに、アルは文句ばっか言ってさっ」
「いやっ。 四日間、毎食はさすがに飽きるだろ」
呆れたように答えるアルを他所に、レイは少し不思議そうな表情でリナに問いかける。
「えーっと、リナちゃん? アルがお兄ちゃんっていうのは…… 本当?」
レイの問いかけに対し、リナは雑炊を最後まで啜りきると器をテーブルに置き答える。
「本当」
その言葉を聞いたレイとアルは、驚いた表情で見つめ合う。
「じゃっ、じゃぁ…… 俺が何者か知ってる…… って事だよな?」
驚きと期待、そして少しだけ不安も込めながらアルはリナに問いかける。
その問いかけに対し、リナは無表情でアルを見つめながら首を横に振った。
「知らない」
「いや、知らないんかい!」
少しガッカリした様子のアルを他所に、表情を崩さないリナ。
そんなリナを少し困ったような表情で見つめながら、レイは質問を続けた。
「えーーっと…… この人はお兄ちゃんじゃないって事…… かな?」
その問いかけにリナは静かに頷く。
「よく見たら知らない人だった…… でも…… 私のお兄ちゃんの名前はアル」
「つまりリナの兄ちゃんと俺の名前が一緒…… って事か?」
呆れたような表情で尋ねるアルに対し、リナは静かに頷く。
「じゃ、めっちゃ他人じゃん。 残念ながら俺の名前はレイが付けたからなぁ」
その言葉を聞いたリナは無表情ながらも、僅かに眉間にシワを寄せる。
「……ガッカリ」
「悪かったな! 俺もガッカリだよ」
少し不満げな表情で話すアルとは対象的に、リナの表情は変わらない。
そんな二人の様子を見ていたレイは、不思議そうな表情で尋ねる。
「それでリナちゃんさっ。 何でアルを襲ったのかな?」
「そうだよ! しかも寝込みを襲うって、何考えてんだ」
二人の問いかけに対し、リナはゆっくりと返答する。
「頼み方…… 間違えた……」
その返答を聞いたレイはポカーンとした表情をしていた。
一方のアルは小さく「ハァ……」と溜息を吐き、呆れた表情でリナに視線を送る。
(このリナって子は…… あの貴族達と何か関係があるって事だよな……)
そしてポカーンとするレイにチラッと視線を送る。
(どうせその頼みってのを聞いたら…… レイは引き受けるんだろうなぁ……)
そして再度、リナへと視線を向けるアル。
(寝込みを襲って脅してまで頼みたい事…… どうせろくな事じゃないだろうけど……)
アルは「ふぅ……」っと息を吐くと、リナに視線を向け話しかける。
「んで頼みってのは? あの貴族達の中に知り合いでも居るのか?」
その問いかけに対しリナは小さく頷く。
「大切な人達…… 頼み事…… 聞いて欲しい」
その言葉を聞いたレイがハッとした表情に変わり、大きく頷きながら声をかける。
「うんうん! 何でも言ってみて。 アルが何とかしてくれるから」
「いや…… 俺かい……」
呆れたような表情でレイを見つめるアル。
そしてリナが言葉を発しようとした時、三人の居る居間へシナモンがやってきた。
「何してるですぅ…… こんな夜中に…… うるさいのですよ……」
現在レイの部屋の隣にある、ぬいぐるみ満載の元バレリアの部屋を間借りしているシナモン。
寝間着のまま右手で寝ぼけ眼を擦り、左手では可愛らしい熊のぬいぐるみをしっかりと抱いていた。
「あっ、起こしちゃったかな? ごめんねシナモンちゃん」
そのシナモンの様子を見たレイは、申し訳無さそうな表情で声をかける。
(こう見ると…… めっちゃ子供だなぁ…… まぁどう見ても子供なんだけど……)
ぬいぐるみを抱くシナモンを見たアルは、少し呆れたような表情に変わっていた。
「レイ様も一緒なのでしたか…… えーーっと…… どちら様なのです?」
シナモンは両手でぬいぐるみをギュッと抱きしめながら、眠そうな目でリナを見る。
その視線に気付いたリナは、シナモンへ右手を手刀のように向けながら呟く。
「……久しぶり」
リナの声を聞いたシナモンは眠気が覚めたようにハッとすると、リナの近くまで歩み寄る。
そしてリナの近くにちょこんと座ると、目を見開いて喜んだ様子で話しかける。
「その声! あの時の剣士様なのですか? そうなのですよね?」
驚いたシナモンは少し大きな声で、確かめるようにリナへ声をかける。
その声が耳に響いたのか、目を瞑り眉間にシワを寄せたリナが……
「……うるさい」
「あっ、あぁぁぁ。 ごっ、ごめんなさいなのです」
リナに怒られたシナモンは焦ったように謝っていた。
そんな二人の様子を見ていたレイが、少し不思議そうな表情でシナモンに尋ねる。
「えーーっと…… シナモンちゃんの知り合い?」
「知り合い…… という訳では無いのですが…… ほらっ! 前に話したですよ」
そしてシナモンは改めて、ここに来る事になった経緯。
シナモンはザーマス達に襲われ、リナやバレリアに助けられた経緯を話し始めた。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
その少し長い話を聞き終えたレイは「なるほどぉ」と小声で呟く。
「そうなのですよ! なので、とっても感謝してるです」
そう言ってシナモンは満面の笑みをリナへと向ける。
するとリナは少しだけ照れくさそうにしながらも、首を横に振る。
「感謝してるのは…… リナの方。 あの人達を助けてくれて…… ありがと……」
リナは俯き目を反らしながら、恥ずかしそうにシナモンへと謝辞を述べた。
「なっ、何言うですか! 当然の事をしたまでなのですよ」
リナの言葉を聞いたシナモンは、少し誇らしげな表情で胸を張る。
「うんうん。 良かったねっ! リナちゃんもシナモンちゃんもっ」
二人の様子を見ていたレイは、少し目を潤ませたような表情で小さく呟いていた。
そんなホッコリとした雰囲気をぶち壊すように、アルが言葉を放つ。
「和んでるとこ悪いんだけどさ…… 実際、何も解決してないんだよな……」
少し申し訳無さそうに言うアルの言葉を聞いて、三人はアルに視線を向ける。
「とりあえず、事の経緯は分かったけど…… リナはバレリアとも話したんだろ?」
アルの言葉を聞いてリナは小さく頷く。
「それで…… アイツはなんて?」
「まぁまぁ頼りになるから…… お願いしてみろって言ってた……」
「ハァ…… あのガキ……」
その言葉を聞いたアルは不満そうな表情で呟く。
レイは少し申し訳無さそうな表情で、アルの肩をポンポンと叩きながら
「えーっと…… お姉ちゃんが何か…… ごめんね」
「まぁ今に始まった事じゃないけどな…… んで」
アルは気を取り直すと、改めてリナに視線を向ける。
そして真剣な表情に変わったアルは、少し語気を強めてリナに問いかけた。
「リナのお願いってのも…… あの貴族連中を助けて欲しいって事なのか?」
(まぁ話の流れ的にそうだろうけど…… 一応、確認しておかないとな)
アルの問いかけを聞いたリナは、無表情のままジッとアルを見つめる。
そして数秒の沈黙を挟むと、ゆっくりと首を横に振った。
「えっ? 違うのか?」
予想外の返答にアル、そしてレイとシナモンも同様に少し驚いた様子を見せていた。
そんな三人の様子を他所に、リナはゆっくりと口を開いた。
「リナのお願いは…… 奪還」
「奪還? 奪還って一体、何を……」
リナの返答を聞いたアルは少し困惑しながら返答する。
「……お城。 アストリナ城を取り返したいの……」
「と…… 取り返すったって…… 何で城を?」
リナの予想外の言葉に困惑を深めつつ、改めて問いかけるアル。
そして同様に困惑するシナモンが小さく呟いた。
「まっ…… まさか…… なのです」
そしてリナは無表情のままアルをジッと見つめると、自分の正体を明かした。
「リナは…… アストリナ国第一王女…… リナリア・リム・アストリナ」