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第29話 金貨三万枚

「もうお願いはしないのです! その代わり、ぜひ売って欲しい物があるのです」


 シナモンは真剣な表情で、レイ達へと話しかけた。


「売って欲しいもの? 何だろぉ……」


 レイは右人差し指を顎に当て、少し首をかしげながら天井の方を見ていた。


 そんなレイとは対象的に、アルは自信満々の表情でシナモンへ答える。


「残念だったな。 俺には売れる物なんて、何も無いぞ?」


「まだ、何も言ってないのです!」


 シナモンは即座に返答するが、アルは自信満々の表情を崩さない。


「はっきり言っておくけどな。 俺はお前の言う通り、仕事も家も無い」


「なっ、何を偉そうに言うですか……」


「ついでに言うと、記憶も無いし、名前だって無かったんだ。 字だって昨日覚えたばっかだぞ?」


(正直、妙な期待をされるより現実って物を、知っておいて貰った方が良いよな)


 アルの言葉を聞いて、シナモンは小声で「そっ、そんなっ……」と呟いている。


 酷く落ち込むシナモンの姿を見て、アルは少し気の毒に思えたが……


「という訳だから、俺には何も出来ないし、何も売れん」


 その発言を聞いていたレイは、落ち込み俯くシナモンへ声をかけた。


「大丈夫だよ、シナモンちゃん!」


「へっ? 何が大丈夫なのです?」


 レイは満面の笑みをシナモンへ向けると、アルの右横へとやってきた。


 そして、おもむろにアルの右袖をめくり、【Ⅱ】の烙印を顕にする。


「おっ、おい」


 急な出来事に戸惑った様子を見せるアルを他所に、レイは言葉を続ける。


「アルは本当に何も無いけど、唯一【数字の烙印】を持ってるの!」


「ほっ、本当なのですか?」


 シナモンは這うようにアルへと近付くと、食い入るように【数字の烙印】を見つめる。


「こっ、これがそうなのですか? ほぇ…… はっ、初めて見たのです」


「ねっ? だから、アルに任せたら大丈夫だよっ!」


「ハイなのです!!」


 アルには理解出来ない事かも知れないが、実際にこの大陸に存在する二大強国。


 そして、その国を統べる者が持つという【数字の烙印】の存在。


 それはアルに対して懐疑的だったシナモンですら、納得させるだけの説得力があった。


 笑顔で見つめ合い、頷き合う二人の様子をアルはシラッとした表情で眺める。


「いや…… 大丈夫じゃないだろ…… マジで……」


(お前らは知らんだろうけど…… マジで避ける事しか出来ないらしいぞ、コレ……)


 そんな事を思いながら、アルは二人へと声をかけた。


 しかし、その発言が聞こえてないような様子で、二人は話を始める。


「それで、売って欲しい物って言うのは、何かな?」


「それはズバリ。 食料なのです!」


 大真面目で答えるシナモンの発言を聞いて、レイとアルは目を見合わせる。


「食料? それだけで良いの?」


「ハイなのです! でも結構な量が必要なのです」


 レイとシナモンのやり取りを聞いて、アルは少し疑問に思っていた。


(正直、それ位なら何とかなりそうな気もするが…… 売って欲しいんだとしたら……)


 そしてアルはシナモンへ、その疑問をぶつける事にした。


「近くに村があるから、自分で買えば良いだろ?」


「それなのです! まさしく、そこが問題なのです」


 シナモンはアルの方を真剣な表情で見つめ、事情を説明していく。


「先程も言った通り、私達は追われてる身なのです。 なので、自分達で行くのは難しいのです」


「まぁ…… そうだろうな」


「それに……」


 シナモンは急に表情を曇らせる。


 少しだけ言いにくそうな様子を見せていたが、意を決したように話を続ける。


「実は…… 今は手持ちのお金が、全く無いのですよ……」


「はぁぁ? おまっ。 じゃどうやって買うんだよ」


 売ってくれと言った割に、支払う代金が無いというシナモン。


 その無茶な要求に、アルは疑問と不満が入り混じった表情で問いかける。


「なので、物凄い価値のあるモノと交換…… という事にして欲しいのですよ……」


「えーーっと。 シナモンちゃんが言いたいのは、物々交換…… って事かな?」


 困った表情のシナモンへ助け舟を出すように、レイが少し不思議そうな表情で問う。


「はっ…… はい…… なのです。 駄目なのですか?」


 先程、アルに暴言を吐いていたとは思えないような、シュンとした表情のシナモン。


 その子犬のような表情で、訴えかけるようにアルの顔を上目遣いで覗き込んでいた。


「うーん。 まぁ…… 俺は別に良いと思うけど…… レイは?」


「えっ? アルが良いなら、別に私も良いけど……」


 レイとアルは目を見合わせると、互いに問いかけるような様子で了承した。


「それと……」


「まだ何かあるのかよ…… 面倒だから、一度で言え、一度で……」


 少し不満そうに答えるアルに、シナモンは再びムッとした表情へと変化する。


「わかったですよ。 あの、価値あるモノは、すぐ渡すですが……」


「渡すですが……?」


「お金に換金するのは、一年後にして欲しいのですよ」


「何で?」


「なっ、何でもなのです!」


 シナモンの不思議な要求に再度、目を見合わせるレイとアル。


「それは良いけど…… それって幾ら位の価値の物なのかなぁ?」


「確かにな! むしろ、それが一番大事だよな」


 その疑問に、シナモンは驚愕の金額を提示する。


「価値は…… 金貨三万枚なのです」


「えぇぇぇぇぇぇぇ!?」


 シナモンの発言した金額に、レイは大きな声を上げて驚いていた。


 一方のアルは、この世界の金銭価値の尺度が分からず、ノーリアクションだった。


「おっ、驚かないのですか?」


「えっ? あぁ。 特には……」


(むむ…… 金貨三万枚というと、ここに居る十数人が贅沢に暮らしても、十年は余裕なのに……)


 シナモンはチラッとアルに視線を移すと、少し怪しむような表情に変わる。


(それをただの食料と交換という条件を、怪しむ事もしないですとは……)


 そんな事を考えながら、シナモンは少しずつ関心したような様子を見せていた。


(もしかするとアルさん。 実は結構、大物なのかもしれないのです……)


 勝手にアルを大物と勘違いするシナモン。


 一方で、レイは小声で「金貨三万……」と呆けたように呟いている。


「おーーい。 大丈夫かーー?」


 呆けたレイの目の前で手を振り、話しかけるアル。


 目前で振られた手を見て、ハッと我に返りアルの目をジッと見つめるレイ。


「なっ…… 何すか?」


「シナモンちゃんに協力しようね! アル」


「えっ? あぁ……」


 少し浮かれ気味のレイを他所に、アルはシナモンへと声をかけた。


「んで、どれくらいの食料が必要なんだ?」


 至極真っ当な問いかけに、シナモンは返答する。


「あの方達が一ヶ月、充分な食事が取れるだけあれば良いのです」


「えっ? そんな物で良いの?」


「仕方ないのです。 背に腹は代えられないのです」


 シナモンは真剣な表情で答えると、直後に「あっ」と何かを思い出した様子を見せた。


「言い忘れてたのですが、あの方達の安全も、保証して欲しいのですよ」


「まぁ…… ここに居れば誰も来ないだろうし…… なぁ?」


「うんうん! ここなら大丈夫だと思う!」


 その言葉を聞いて、シナモンは「ふぅっ」と安堵した様子を見せた。


「というか、レイ。 ここにそんな食料無いだろ? あとお金あるの?」


「んっ? 無いけど…… お金も無いけど……」


「どどど…… どうするですか?」


 レイの言葉を聞いて、シナモンの表情は安堵から焦りに変わる。


「まぁまぁ! 一応、倉庫に玉鋼とかいっぱいあるし、換金したら買えるよ」


「だって。 良かったな」


「焦らせないで欲しいのです……」


 少し不満げだったが、話がまとまって安堵するシナモンだった。

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