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第24話 シナモンの事情

「あの…… 貴女達は一体…… 誰なのです?」


 疑問の表情で尋ねるシナモン。


「誰って言われても……」


(ここで名乗るとなぁ…… 面倒事は避けたいし…… 何とか誤魔化さないと)


 バレリアは少しの間、沈黙し思案する。


 そしてシナモンへ、別の話題を振る事を思いついた。


「そういえばさ! 最初に居た奴、大丈夫なの?」


「そっ。 そうなのです! どこ…… どこ行ったですか?」


 辺りをキョロキョロと見回しながら、剣士の姿を探すシナモン。


 バレリアはその様子を見ながら、街道沿いの木々が生い茂る付近へと視線を移した。


 ガサッ…………


(何か訳ありみたいだし…… ほっといた方が良いのかな?)


 剣士の気配は感じていたが、あえて触れずにバレリアは別な事を問いかけた。


「んで。 一体、何があったの? あそこに居る人達も」


 バレリアが指差した先には、シナモンが逃した十数名の人影が見える。


 皆、フードを被り表情までは伺い知れないが、小柄で子供や女性のように感じられた。


 指を差された人影は、バレリアに気付くと深々と頭を下げて礼をしている。


「あっ。 あの方達は娼奴として売られていたところを」


「娼奴ぉぉぉ? お前、まさか奴隷商人なのか?」


 シナモンの言葉を聞いて、バレリアの表情は怒りが顕になる。


「アタシは奴隷商人みたいなクズは、だいっっっっっ嫌いなんだよ!!」


「ひっ……」


 声を荒らげ叫ぶバレリアの形相を見て、怯えた様子を見せるシナモン。


 その様子を見ていた人影達の中から一人、駆け寄ってくる姿があった。


「まっ、待って下さい。 シナモン様は私達を救ってくれたんです」


 少し焦ったように息を切らせながら、一人の女性がバレリアに声をかける。


「救った? どゆ事?」


「ゼニールに売られそうになっていた私達を高額で買い取り、他国へ逃がそうとしてくれて……」


 女性の言葉を聞いたバレリアは、怒り顔からキョトンとした表情へと変わる。


「んじゃ、さっきの奴らは?」


「あれは、ゼニールがシナモン様より高く買うと言い出して……」


「そうなのです。 それで一度買ったのを反故にして、返せと言ってきたのです」


「ほほぉ」


 バレリアは二人の言葉を聞いて、関心したような表情を見せている。


「なんだ! やっぱ良い奴じゃん。 助けて良かったぁぁ」


 バレリアはニコッと笑顔を見せると、ポンポンとシナモンの肩を叩く。


 するとシナモンは少しはにかみながら、照れた様子を見せていた。


「えへへ…… って、そうじゃないのです」


 バレリアの手を振りほどくように両拳を握りしめ、下に振り下ろす。


 そして少し不安げな、真剣な表情に戻ると……


「あの…… この方とお話があるのです。 あちらに戻ってて頂きたいのです」


 弁解に来てくれた女性へ、シナモンが声をかける。


 すると、女性は深々と頭を下げ皆の元へと戻っていった。


「なっ、なんだよ。 別に居たって良いだろ?」


「あの…… 間違ってないと思うですけど……」


「なっ…… なにが?」


 シナモンはジッとバレリアの表情を伺う。


 その様子を見て、バレリアは思わず目を反らしてしまった。


「貴女…… バレリア様ですよね?」


「ふぇっ?」


 正体を隠していたバレリアは、思わず素っ頓狂な声を上げてしまう。


「なっ、な訳ないだろ! アタシは……」


 何とか誤魔化そうとするバレリア。


 その顔をジッと覗き込み、「むーーっ」っと小さな声で呟くシナモン。


 そんな状況を変える人物が、人影達の奥からやってきた。


「おぉぉーい! バレリアーー! もう済んだかの?」


 馬上から人影達へ軽く会釈をし、二人の元へ手を振りながら近付くワン。


 その呼びかけにバレリアは右手を眉間に当て「主様……」と呟いていた。


「ふぅ…… やれやれ…… よっこいしょっと……」


 ワンはバレリア達の元へと辿り着くと、軽快に馬上から降りる。


 事情を知らないワンは、ニコやかにバレリアへと話しかけた。


「もう済んだかの? して、そちらのお嬢さんは?」


 ワンは白く伸びた長い髭を触りながら、チラッとシナモンへ視線を送る。


「はっ、初めましてなのです。 あの、私はシナモンというです」


 少し緊張した面持ちで名乗ると、両手を下腹部へ当てペコリとお辞儀する。


「うむ。 ワシはワンという者じゃ。 そして……」


 ワンがチラリとバレリアへ視線を向けると、少し不満げな表情をしていた。


「むっ。 どうしたのじゃ?」


 少し俯いたバレリアの顔を覗き込むように、ワンが声をかける。


 すると、ワンの耳元でヒソヒソと小声で呟くバレリア。


「アタシの名前は内緒にしてたんですよ。 厄介事だと面倒ですし……」


 眉間にシワを寄せ、少し気不味そうな表情のバレリア。


 その表情を見たワンは、ハッとした表情をし「あぁぁ」と納得したような表情を見せる。


「そうじゃったのぉ! お主、結構有名じゃもんね。 すっかり忘れとったわ」


 そう言うと、ワンは悪びれる様子を見せず、笑い声を上げていた。


「やっ、やっぱりバレリア様なのですね? そうなのですね?」


 ワンの言葉を聞いて、シナモンは喜々とした表情に変わる。


「だからアタシは……」


 なおも往生際悪く否定するバレリアを見て、シナモンは言葉を続ける。


「絶対そうなのです! バレリア様は、あのバレリア様なのです!」


「いや…… あのって言われても……」


「間違いないのです!!」


 否定し続けるバレリアに、何かしらの確信を持って問い詰めるシナモン。


「何で、そう言い切れるんだよ」


 無駄と思いつつも、最後の足掻きのように尋ねるバレリア。


 すると、シナモンはバレリアの全身を舐めるように見つめた。


「赤い髪に少女のような風貌。 それに」


 そう言うとシナモンは、バレリアの背に背負われた黒い剣に視線を移す。


「ラグナ鉱で出来た魔剣、グラムを持てる人なんて、バレリア様以外居ないのです」


「たしかに、そうじゃな」


 どっちの味方なのか、ワンもシナモンの意見に賛同する。


「はぁ……。 でっ? アタシがそのバレリアだったら、何なの?」


 呆れた表情でワンとシナモンを軽く見回すと、少し不満そうに答えるバレリア。


「あの…… お願いがあるの」


「断る! いや! ぜーーーったい、嫌!」


 シナモンが話し終わる前に、バレリアは拒絶の態度を示す。


「なっ、何故なのです?」


「どうせ面倒な事だろ?」


「ぬぐぐ……」


 バレリアの言葉に図星を突かれたのか、シナモンは押し黙る。


 二人の様子を見ていたワンは、仲裁するようにシナモンへと声をかけた。


「まぁまぁ。 どれ、話すだけ話してみなさい」


「ちょっ! 主様っ!!」


「良いのですか?」


「うむ。 ただし!」


 ワンは長い髭を右人差し指で、クルクルと器用に回すと、真剣な表情へと変わった。


「ワシらも先を急ぐ身じゃ。 引き受けられぬ場合は、諦めなされよ」


「わっ、分かったのです……」


 シナモンは少し不安げな表情に変わり、ゆっくりと口を開いた。


「実は…… あの方達の事なのです」


「あの方達って。 あれは誰なの? 偉い人?」


 バレリアは、シナモンが明らかに気を使った態度で接していた人影達を指差す。


 すると、シナモンはゆっくりと頷きながら、答えた。


「あの方達は、旧アストリナ国の貴族の方々なのです」


「ほぅ。 なるほど」


「んっ? 主様は何か知ってるんですか?」


 バレリアの問いかけに、ワンは遠い目をしながら話し始める。


「うむ。 彼の国は先の一件で、王族がおらんじゃろ?」


「そういや、女王陛下が【神狼】にって話でしたよね?」


「そうじゃ。 そうなると次に国を継ぐのは、継承権のある貴族連中となるじゃろう」


 ワンの言葉に、シナモンはウンウンと頷く。


 一方のバレリアは、こういった話が苦手なのか、あまり理解していない様子を見せていた。


「今、旧アストリナはハイランド帝国領とは言え、完全に支配下に置いた訳ではない」


「そうなんですか?」


「うむ。 建前としては、王族が現れるまで保護しているといった形じゃな」


 ワンがそう言うと、シナモンは食い気味に話に割って入る。


「そうなのです! それなのに今は、貴族株を賄賂で買ってのし上がったゼニールの奴が、恐れ多くもアストリナ城に住まい、期限付きとは言え、旧アストリナ国領地の領主になってるです」


 怒りを交えながら、少し興奮気味に話すシナモン。


 その様子を見たバレリアは両手を上下に軽く振り、落ち着くように促す。


「まっ、まぁ落ち着けってば。 分かったから」


「分かったですか?」


「えっ? いやぁ…… 怒ってるのは分かったけど……」


 バレリアの返答が期待していたものとは違い、少し不満げな様子のシナモン。


「というか、何でそんな偉い人達が、娼奴として売られてるんだよ」


「そこなのです!」


 シナモンはまたしても興奮気味に、両拳を上下にブンブンと振りながら答える。


「ザーマス達が、あの方達を誘拐して、身分証を取り上げたですよ」


「ザーマス。 アヤツら、まだ生きておったのか」


「むっ。 お爺様は知ってるですか?」


「うむ。 昔から詐欺や窃盗、強盗なんかをしとったロクでも無い奴らじゃな」


 ワンは長い髭を触りながら、思い出すように呟いた。


「まぁ悪そうな奴だったけど。 結構痛めつけたし、しばらくは……」


「甘いのです!」


 興奮気味のシナモンは、バレリアの発言を遮るように話し始める。


「今はゼニール直轄で動いてるのです。 絶対にまたやってくるですよ!」


「うーん。 そうかなぁ? 貴族を奴隷にする趣味でもあるのか?」


 バレリアは何気なくシナモンへと問いかける。


 しかし、その答えを発したのはシナモンではなく、ワンだった。


「そうではないじゃろ。 ゼニールは今は領主とは言え、帝国に戻れば下級貴族。 アストリナの貴族との間に子をもうければ、上手くいけば一国の主になれると踏んだんじゃろ」


 ワンの言葉に、シナモンは大きく頷く。


「なのです! ゼニールは賄賂を送って任期を延ばしてるですが、それも後一年で終わるです」


「ふむ。 そうなると…… 是が非でも、貴族との間に子が欲しい…… という訳じゃな?」


「なのです! なので、バレリア様には」


「嫌だ! 何か凄く面倒な事になりそう」


 シナモンの発言を遮るように、バレリアが答える。


「それに、すでに助けただろ? しかもタダで! アタシが来なかったら、危なかっただろ?」


 バレリアの言葉を聞いたシナモンは、シュンとした表情に変わる。


 しかし、すぐにハッと何かを思いついたように、自らの懐へと手を入れる。


 そして、革で出来た財布を取り出すとバレリアへ声をかけた。


「こっ、これを見てほしいのです」

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