財布の中身258円
給料日前、オレの財布の中には258円しか入っていなかった。
晩飯を抜いて、朝飯だけにするか。
コンビニのおにぎり二個くらいなら買えるかな。それを晩と朝に一個ずつ食べようか。余計に腹減るかな。
財布を出したままため息をついていると、なんとその軽い財布をひょいっとひったくられてしまった。
「ど、泥棒!?」
ひったくりだ、泥棒だ! 258円でも、それが無ければオレは、明日給料が振り込まれるまで何も食えないじゃないか!
「待てー! その財布には、500円しか入っていないんだ!」
嘘だ。本当は258円しか入っていないんだ。盗まれてなお、こんな、こんなちっぽけな見栄を張るなんて、オレはなんてちっぽけな男なんだ……。
自分自身に絶望して歩みを止めると同時に、ひったくりのバイクも停車した。
財布の中身を見ている、終わりだ……ちっぽけな見栄まで、泥棒野郎に見透かされてしまった…。
「オレも……金は無いんだ!」
ひったくり野郎、つまりバイクの男が、そう叫んでオレの財布を投げ捨てた。
そうだろうな。金が無いからひったくろうなんて考えたのかもしれないな。
財布を拾い上げると、空っぽのはずの札入れから、何かがはみ出している。
広げてみると、258円でちょうど食べられる、牛丼屋のクーポンが挟まっていた……。
泥棒にも同情されるなんて……オレは本当にちっぽけな……。
いや?あいつ結構いいやつだったんじゃないのか?
オレはクーポン券を握り締め(まともに生きてくれよ)と、心の中で切に願った。