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思惑

「なるほど……。市場活性化のご褒美がそれか」

 けれどもやっぱり彼は。僕の目の前に座る同期の研究員は。このグループワークの意図にたどり着いたようだった。


「あの、どういうことですか? そうじの免除って。私たち、何か褒められるようなことをしましたか?」

 最前列の女性社員から質問が飛び、神宮寺さんは小さな苦笑いを浮かべる。


「できれば、そこにはあなた方自身に気が付いてほしかったのですが……。あなたたちは、今、周りに見える他の班と競い合うと同時に、見えない他の研修室の班とも競い合っていたということです。判定基準は、どれだけその部屋の競争を加速させられたか。具体的には、全ての班の総生産額がどれだけ引き上げることができたか、です。そしてあなたたちは見事他の研修室のそれを上回りました」


「えっと、競争を加速させられたか、ですか? どうしてそれが判定基準に?」

 再び質問を投げた、女性社員に。一瞬考えるような仕草を見せてから神宮寺さんが問い返す。


「あなたたちは、私たちの会社が果たすべきもっとも大事な使命は何だと思いますか」


「え……。えっと……。化粧品や医薬品を通じた社会貢献、でしょうか?」


「社会貢献。確かに大事です。でも、違います。最も優先すべき私たちの使命は利潤を得ることです」

 その答えに、神宮寺さんはにこりと愛想のよさそうな笑みを返す。


「り、利益第一主義ということですか?」


「ええ」

 一見攻撃的とも思える言葉を、事も無げに神宮寺さんは告げる。


「ですが、それは余りに……」


「いいですか? 私たちの会社は何千、何万という人々を雇用しています。雇用している以上、それらの方々に賃金を払う義務があります。当然、私たちの会社はある程度の知名度を誇り、世間の目も向きやすい立場なので、模範的なお金儲けの手段が要求されるでしょう。ですが、それは利潤が出ることを大前提としていなければいけません。社会貢献というのはその手段の一つです。また、逆に考えると、十分な利潤を得られていなければ社会貢献を行うことすらできなくなるでしょう」

 その語り草に、少し研修室は静かになった。彼女自身の言葉として、消化はされているのだろうけれど。これはおそらく学生上がりの僕たちへ向けた会社からのメッセージだ。


「今ここに集った皆さんは確かにこれから共に働く仲間です。ですが、だからといっていつも手を取り合い、談笑しながら成長していけるわけではありません。時には意見をぶつけ合い、互いを置き去りにして先に進む必要もあるでしょう。自社の中でさえ競争に身を置けない人間が、より過酷な会社同士の競争に貢献できる人物になることは難しいでしょうから。そして、そんな過酷な競争の中でこそ、いいモノ創りができます。画期的なアイディアが生まれます。それを覚えておいてください。既に理解していたのであれば構いません。ですが、それが唯一、今日のみなさんに学んでほしいことです」

 厳しかった語り口調を一転、そこで神宮寺さんは結局愛想のよさそうなあの笑みを浮かべていた。


「もしかしたらその結果として、社会貢献や人助けといった理想を実現できるかもしれませんね」

 心なしか全員の表情が、入社式の折よりは少し引き締まったような気がする。そういう意味でこのグループワークは、神宮寺さんをはじめとする先輩社員たちの思惑通りに僕たちに作用したのだろう。


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