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4月17日(2) 「口とロの区別がついていないような顔をしているぞ!」の巻


「前が見えねえ」


 朝から寮長の右ストレートを顔面に受けた俺は伊紙丸の手を借りて、ようやく校門前に到着する。


 (ちなみに現在、俺は制服ではなく学校指定用ジャージを着て授業を受けている。何故ジャージを着ているのかというと、蜘蛛女との喧嘩により制服を焼失してしまったからだ。新しい制服が来るまでの間、俺は学校指定用のジャージを着て生活せねばならない状況に追い込まれているのだ)


 文芸部に所属しているため、古川と違って朝練がない伊紙丸と共に登校した俺は自分の靴箱を開ける。

 すると、中から夥しい程の封筒が出てきた。


「正統派の果し状が18通、ラブレター風味の果し状が11通に、狂気を感じる封筒が8通、……か。いつも通りだな」


「それをいつも通りにしている辺り、ツカサン異常やわ。ワイなんか決闘状どころか普通の手紙さえ靴箱越しに貰った事ないで」


「こんなん幾ら貰った所で勲章の1つにさえ、ならねぇよ。てか、決闘状はマシな方だ、見ただけで内容が分かるからな。問題はこの凶々しいオーラを放っている奴だ」


 そう言いながら、俺は狂気を感じる封筒の中を開く。案の定、縮れた髪の毛──何故か金髪──が入っていた。


「げ、何か知らない毛が入ってるやん」


「髪の毛程度、どうって事はねぇよ。問題は手紙の内容だ」


 伊紙丸に手紙を手渡す。

 彼は恐る恐る本文に目を通すと、狂気の世界に足を踏み入れた。


「えー、『ねえカトゥルルッテ。ハルベールの二次元論って信じている?私的にはノルパールを感じたくて、いつも尻にバルケードを貼っているんだよ。気づいてくれたかな?同じミッチェルのカトゥルルッテなら気づいてくれていると信じているよ。ところで昨日一緒にいた幼女はなに?私達のアルマゲロには存在しないツールなんだけど。カトゥルルッテに限って、そんな事はしないよね?カトゥルルッテ、ねえ、トルゲニーヨしてよ。カトゥルルッテが信じてくれないから、私穴という穴に泥を押し込んでいるんだよ?何で信じてくれないの?一緒にアルマゲロを超越するハルベールにゴトウゲしようよ。カトゥルルッテはコルゴールドとデオシするためにドゥカルムネするために生きているンデカルネ?私はキバネ、ゴットンギガルバ。でも、子宮にはビビーン精液ビヤードボルケニーノ。バババババ・ドロロロン・口口口口口、カトゥルルッテロロロロロロロン。ねえ、カトゥルルッテ、私はね、カトゥルルッテ口、ロロロロロロ、口口口口、ロロロロロロロロロロ…………』」


 怪文書を読むにつれ、伊紙丸の口から人の言葉が出て来なくなる。

 これ以上は不味いと判断した俺は彼を現実に引き戻すため、怪文書を取り上げた。

 

「おい、伊紙丸大丈夫か!?口とロの区別がついていないような顔をしているぞ!!」


 伊紙丸の瞳に理性の火が灯るように祈りながら、彼の肩を揺さぶる。

 彼は意識を取り戻すと、吐き気を催しながら俺に抗議し出した。


「何ちゅうもんを読ませるんや!?危うく理性が溶けかけたで!!」


「大丈夫だ、理性が溶けるのは序の口だ。やがてロと口どころか天と地の区別さえつかなくなり、トゥトゥルートに導かれる」


「トゥトゥルートって何なんや!?もうツカサンも狂気に呑まれてしまったんか!?」


「まあ、この縮れた髪の毛を入れてくる奴はまともな方だ。この花柄の封筒の奴なんかもっと酷いぞ。一見、意味の分からない文字列だけど、ちゃんと読めば一定の法式が読み取る事ができてな。解読していくにつれ、自分の事を人間ではなく高位的存在だと錯覚──」


「ツカサンは毎朝何を読まされているんや!?」


「殺意と狂人の慟哭」


「狂気しかねえ!!」


 適当に手紙に目を通しながら、俺は伊紙丸と共に教室に向かう。

 教室に辿り着くと、自分の席に座った委員長が深い溜息を吐き出しているのを目撃してしまった。


「うっす、委員長。どうしたんだ?そんな険しい顔をして」


「ああ、神宮。ちょっと悩んでいてね」


 そう言って、委員長は物憂げに溜息を吐き出す。


「んだよ、悩みって。あ、もしかして、便秘か?」


「死ねば良いのに」


 委員長から純粋な殺意を殺意を向けられる俺。

 伊紙丸は"ツカサンは女心が分かってないな"と呟きながら、俺の肩を叩く。


「ワイは分かるで、委員長が何で悩んでいるか。──生理やろ?」


「死ね」


 委員長は馬鹿力で自分の机を持ち上げると、伊紙丸目掛けて放り投げた。

 伊紙丸は断末魔を上げる事なく、撃沈してしまう。


「ったく、あんたらは本当女心が分かってないわね……!」


「で、物憂げな顔をして、なに悩んでいたんだよ。話してみろよ、ちょっとは楽になれるかもしれないぞ」


 委員長は伊紙丸の血がついた机を元の位置に戻しながら、俺の質問に答える。


「いや、大した事じゃないんだけど」


「大した事ないのに悩んでいたのか?」


「ええ、どうやったら男達を取っ替え引っ替えできるモテ女になれるのかな、って……」


 しょうもない事で悩んでいた。

 俺は自分の席に座りながら、長い溜息を吐き出す。

 そんなくだらない事で悩んでいたのか、お前は。


「ねえ、神宮。どういう女が男にモテると思う?」


「金髪爆乳外国人」


「あんたに聞いた私が馬鹿だったわ……!!」


 そこら辺にいる中学生と発育度が変わらない委員長は俺の主張を聞いた途端、頭を抱える。


「逆に聞くけど、委員長、どういう男が女にモテるんだ?」


「白馬の王子様」


「お前に聞いた俺が馬鹿だった」


 50歩100歩だった。

 いや、性欲に忠実な分、俺の方が酷い。


「あんたの好みじゃなくて、客観的な意見が欲しいのよ。どういう女の子がモテると思う?」


「おっぱ………」


「おっぱいデカい子とか言ったらぶっ殺すから」


 血の池に沈む伊紙丸を横目で見ながら、俺を脅す委員長。

 死にたくない俺は急いで方向転換した。


「一般的に語られるモテる女ってのは、美人で料理ができて、優しくて、おっ……、包容力ある奴だな」


「その定義だとモテる女になっちゃうのよねえ、私」


「どこがだ……いえ、おっしゃる通りです、はい」


 委員長が片手で自分の机を持ち上げ始めたので、渋々彼女の意見に同調する。


「なのに、この私がモテないなんておかしい。……おかし過ぎる。世界が間違っているのかしら?それとも、周りの男達の見る目が無いのかしら?」


 ナルシストである鎌娘と似たような事を言い出した委員長から目を背ける。

 もう色んな意味で見ていられなかった。


「ねえ、神宮。何で私はモテないんだと思う?」


「致命的に母性が足りないからだろ」


 あまりにもムカつく事を言っていたので、つい本音が出てしまった。

 やべえ、机投げられるとビクビクしながら、委員長を見る。

 彼女は呆気に取られたような表情を浮かべると、"なるほど"というジェスチャーをやった。


「確かにあんたの言う通りだわ。私は生娘だから、経産婦と比べて母性が足りない。つまり、母性を身につければ、老若男女を支配できるって訳ね」


「母性って王権か何かだったっけ?」


「私に足りないものは大体理解したわ。神宮、これは委員長命令よ。楽して母性を稼げる行為を教えなさい」


「んな事言われても………そんなに楽して母性身につけたいなら、母乳でも飲めば良いじゃねえか。ほら、あれ母性の象徴って言うじゃん。母乳飲めば、大抵の母性は身につくんじゃねえか?知らないけど」


 適当な事を言って、この場を切り抜けようとする。

 しかし、あろうことか、委員長は俺の適当なアドバイスを鵜呑みにしてしまった。


「なるほど、母乳を吸えば母性を稼げるのね。大体理解したわ。じゃ、今からおっぱい吸って来る!!」


 委員長はそう言うと、そろそろチャイムが鳴りそうな時間帯にも関わらず、何処かへ走り去ってしまった。


「え!?そんな近くに歩くミルクサーバーがいるの!?」


 俺もおっぱい飲みたさ──と、言うより、この学校に経産婦がいる事実に衝撃を受けたので、誰が母乳を出せるのだろうという純粋な知的好奇心に突き動かされるまま、委員長の後を追いかける。

 彼女は3年生のフロアに向かうと、会長がいる3年A組の扉を開け、受験勉強に勤しんでいた先輩達の視線を独占する。


「た、……太刀川さん……?どうしたんです?そんな深刻そうな顔をして。何があったんですか?」


 会長はペンを動かす手を止めると、委員長の下へ歩み寄る。

 そんな彼女に委員長は土下座をかました。


「会長!お願いです!!おっぱい飲ませてください!!!!」


「貴方は何を言っているんですか!!??」


 突然の委員長の奇行により、会長はパニック状態に陥る。

 けど、今の俺には彼女の動揺よりも凄い衝撃を受けていた。


「会長、いつ妊娠したんですか!?」


「していません!!何で私が母乳出る前提で話が進んでいるんですか!?事の顛末を話してください!!」


 元凶である委員長は会長の問いに答える。


「へ?なんとなく」


 どうやら何も考えずに会長の所に来たらしい。歩くミルクサーバー (けいさんぷ)出会えると思ったので、俺はガッカリしてしまった。


「なんとなくで母乳が出る女にされたんですか、私は!?」


「じゃあ、会長の胸からは何が出るんですか!?ミサイル!?それともレーザービーム!?嘆かわしい、これが母性を喪失した現代日本美女大和撫子の有様だなんて……!」


 委員長は土下座を止め、ガッカリポーズをとる。


「太刀川さんは私の胸を何だと思っているんですか!?何も出ませんよ!!」


「ミルクサーバーでなければ、兵器でもない。会長、貴方は何ができるんですか!?」


「胸から何も出ないだけで、何故ここまで罵倒されなきゃいけないんですか!?」


 委員長は勝手な言い分で会長を詰り続ける。

 会長のクラスメイト達は様々なパワーワードが飛び交う所為で母乳と兵器を口遊むロボットに変わり果ててしまった。


「おい、委員長。これ以上、会長に強請っても母乳は出てこないぞ。大人しく森に帰ろう。そして、2度と日の当たる場所に出て来るな。ここはお前の居場所じゃないんだ。だから、これ以上文明社会に傷跡を残すのは止めろ」


「じゃあ、私は何処で母性を身につければ良いのよ!?」


「貴方は母性を身につけるためだけに私に母乳を強請ったんですか!!??」


 会長が委員長の考えを理解できず、頭を抱える。

 大丈夫だ、会長。俺にも理解できていない。


「……だって、こいつが母性を身につけるには母乳しかないって言ったから」


「神宮っ!!」


「待て、誤解だ!確かに母性身につけたいなら母乳でも飲めみたいな言い方はしたが、誰も会長の乳を飲みに行けとは言っていない!!」


「あ、そうよ。わざわざ会長みたいな普乳を飲まなくても、去年ミスコンを獲った奴の乳を飲みに行けば良いじゃん。母性も手に入る上、モテ力も手に入りそうだし。……あと、胸を萎ませる事で相対的に私の世界ランク上がりそうだし」


 名案を思いついたような顔をすると、そのまま3年A組の教室から出る。

 俺と会長の顔は真っ青に染まった。


「……会長、去年のミスコン1位って誰だっけ?」


「確か小鳥遊さん……って、そんな事を聞いている場合ですか!?早く止めないと、あの暴走列車、罪なき生徒を裸にひん剥いた挙句、乳まで貪り尽くしますよ!!」


 会長に促されるがまま、俺らは委員長を止めるために走り始める。

 こうして、俺と会長は朝から委員長を止めるために奮闘した。



 ……1限目の授業に遅れた事は言うまでもない。


 新しくブックマークしてくれた方、そして、新しく評価してくれた方、ありがとうございます。

 そして、過去にブックマークしてくれた方、過去に評価してくれた方、いつも読んでくれている方、日ごろのご配慮に頭の下がる思いです。

 これからもよろしくお願い致します。


 次の更新は本日14時頃です。


 

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