4月12日(4) <小鳥遊神奈子>の巻
「あの雲、おっぱいに似ているな」
天使を倒した俺は、高そうなホテルの向こう側にあるおっぱいの形に似た雲を見て、感心の声を上げる。
あんなにおっぱいそっくりな雲は初めて見た。
この場にスマホがない事が悔やまれる。
クソ、布留川や伊紙丸、委員長にあの雲を見せたい。
「お兄ちゃん!!」
遠くの方から美鈴の声が聞こえて来る。
声が聞こえた来た方を向くと、そこには美鈴と一匹狼の姿が見えた。
「お、お前ら無事だったのか」
「無事だったのかじゃないでしょ!!あんた、どこに行ってた訳!?」
「あー、ちょっとした喧嘩だ」
詰め寄る一匹狼にざっくりとした概要を教える。
天使だとか何とか言っても、魔法使いじゃない彼女には伝わないだろう。
そう判断した俺は言葉を全力で濁らせる。
「にしても、よくここにいるって分かったな、お前ら」
「小鳥遊さんがお兄ちゃんの匂いを嗅ぎ取ってくれたの。だから、お兄ちゃんが何処に行ったのか分かったんだよ」
「ちょ、美鈴ちゃん!!」
「へえ、一匹狼。お前って小鳥遊っていう苗字だったんだ」
俺は初めて彼女の苗字を聞いたので、思わず感心の声を上げてしまう。
すると、一匹狼──改めて小鳥遊は顳顬に怒りマークを表示した。
「ん?どうした、いっぴきおおか……うおっ!?」
何の前触れもなく、彼女は俺の顔面目掛けて蹴りを放つ。
俺は間一髪の所で彼女の蹴りを躱す事に成功した。
「ちょ、いきなり何すんだよ!?」
「あんたが私の苗字を覚えてないから、ムカついたの!!」
「そりゃあ、いつも自己紹介する暇なく、蹴って来るからな!お前の苗字を知る機会がなかったんだよ!!」
「知る機会がなかったんじゃなくて、知ろうとしなかっただけでしょ!!」
小鳥遊の蹴りを躱しながら、俺は彼女と言い合う。
「そりゃあ、一日にどんだけの数の不良に喧嘩を売られていると思ってんだよ!一々、名前覚えていたらキリがないっての!!」
俺の反論にショックを受けたのか、彼女は蹴りを止めると、今にも泣きそうな表情を浮かべる。
流石に赤の他人レベルは言い過ぎたと思った俺は、慌てて取り繕うとした。
「ま、前々から、お前をそこら辺の不良と同じ扱いするのは悪いなーって思ってたんだよ!けど、お前は俺と顔を合わせる度に喧嘩売るから、名前聞くような空気にならなくて!何回かお前の名前を調べようと思ったさ!けど、コソコソと名前を調べるのはストーカーみたいで悪いなーと思ったから、今の今まで名前を知ろうとしなかったんだよ!!」
嘘と本当の事を入り混じらせながら、俺は弁明する。
小鳥遊は悲しみ半分嬉しさ半分みたいな表情を浮かべると、自身の頭を掻いた。
「……小鳥遊、神奈子」
「あん?」
「小鳥遊神奈子、それが私の名前よ」
涙目になった彼女は照れ臭そうに俺から顔を背けると、この場から立ち去ろうとする。
「名前は教えたから。……あと、顔を合わせる度に喧嘩売ってごめん。どうすれば良いのか分からなかったの」
見た事がないくらいにしおらしい彼女を見て、俺は思わず目を点にしてしまう。
「……私、人間の友達なんてできた事ないから」
「は?何言ってんだ、お前……」
「…………また喧嘩売っちゃうかもしれないけど、今度は雑談できるように頑張る。……じゃ」
そう言って、一匹狼は一目散に逃げ出すように駆け出した。
「……何だったんだ?あいつ……」
彼女の発言──人間の友達なんかいない──に呆気を取られた俺は首を傾げてしまう。
「うーん、よく分からないけど、お兄ちゃんた仲良くしたいんじゃないの?」
「うーん、そうかなぁ……まあ、次会った時に聞けばいいか」
そう言って、俺は当初の目的を果たすため、美鈴を連れて、近くにあった店の中に入っていった。
もし、この時小鳥遊神奈子の話を深掘りしていたら。
彼女の後を追いかけていたら。
俺は彼女の危機にもっと早い段階で気づく事ができただろう。
俺と美鈴が彼女の危機に気づいたのは約1週間後の事だった。
いつも読んでくれてありがとうございます。
明日の更新前半の部は12時・13時・14時頃にします。
よろしくお願い致します。




