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4月11日<彼等の企み>

「お前はあの少年が近くにいる事を知っていたのか?」


 ホテルのレストランにて、天使ウリエルと戦闘を始めた少年を超人的な視力で観戦していた褐色の青年は"ガラスの皇女"に聞こえるかどうかの声量で呟く。

 レストラン内にいた客や従業員は天使ウリエルが暴れ始めた時点で全員避難していた。

 残されたのは彼等だけ。

 皇女は欠伸を浮かべながら、青年の疑問に答える。


「知る訳ないでしょ。下手にあの少年に突っかかってたら、あの絞りカスに私の狙いを知られかねないし。"絶対善"と違って、マークし辛いのよねえ、彼」


「……お前はあの少年がいる事を知らずに天使を放流したのか?」


「ええ。適当に天使を放流しとけば、いつか巡り合うって思って。彼、この辺りに住んでいるみたいだし」


 周囲の被害を省みない自己中心的な皇女の発言に青年は"彼女らしい"という感想を抱く。


「まあ、今の改竄された世界における天使は合理的かつ非感情的なロボットみたいな存在だから、ほっといても彼の下に行くのは火を見るよりも明らかだったんだけどね。自分を壊せるものの存在を放っておく程、天使は愚かじゃないし」


 天使ウリエルと闘う少年を見て、青年は確信を抱く。


(奴だ、俺が先程から脅威として認識していた気配は。俺がずっと殺気を放ち続けたのに関わらず、微動だにしなかった"敵"は)


 青年は彼が自分と同じ領域に至っている事実を把握する。

 しかし、その事実を主人である皇女に敢えて伝えなかった。

 この闘いを最後まで見たい。

 それだけの理由で青年は抱いた確信を胸の内に沈める。


「にしても、天使ラファエルを倒した割には手こずっているわね。もしかして、あの少年じゃなくて、絞りカスが何かしたのかしら?」


 天使ウリエルは少年の攻撃が届かない上空に移動すると、そこから遠距離攻撃を放ち続ける。

 少年は攻撃を右の籠手で弾き飛ばしながら、脚力のみで隣のビルの屋上へ移動した。

 皇女は疑問の声を上げた。

 "どうして天使を瞬殺しないのかしら"と。

 彼女は気づいていない。

 少年が街にいる人を守りながら闘っている事を。

 彼女は理解できていない。

 少年は逃げているのではなく、人々が被害を被らない場所に移動している事を。

 もしも彼が人の迷惑を考えなければ、強引なやり方で天使ウリエルを瞬殺しているだろう。

 彼と同じ領域に立っている青年は彼の意図を完璧に理解する。

 しかし、1つだけ理解できない事があった。


(何故、奴は籠手の力に頼っている……?)


 自分の確信が真なら、あの少年は籠手の力に頼らなくても天使の攻撃を捌ける筈だ。

 神域に至った者であれば、神の真似事である魔法なんて無効化にして当然の所業。

 わざわざ神造兵器なんていう玩具に頼る道理はない。


(あの少年……もしかして、自分がこちら側に至っている事を自覚してないのでは?)


 青年が考察している間に戦況は一変してしまう。

 ビルとビルの間を跳び回りながら、天使の放つ攻撃を空に向かって弾き飛ばしながら、少年は誰も巻き込まない場所に移動し続ける。

 しかし、少年は何かを思い立ったのか、足を止めた。


 すると、少年の身体は右の籠手から生じた白雷の効果により、宙に浮き始める。

 宙に浮いた少年の身体は砲弾のように宙を駆け抜けた。

 弾丸と見間違う速さで空を翔けると、上空から攻撃していた天使に肉薄する。

 天使は急接近する少年に四大元素を駆使した魔法を繰り出した。

 しかし、その攻撃は呆気なく少年の手によって、跳ね返されてしまう。


「へえ、あの籠手にそんな使い道があったのね」


 興味なさそうに呟きながら、皇女ら財布から札束を取り出す。

 籠手から生じる白雷によって空中戦を可能にした少年は、引力を駆使して天使と五分以上の闘いを繰り広げた。

 天使は少年が身につける籠手を警戒するあまり、籠手以外の攻撃──左拳と蹴りを無視して攻撃を仕掛ける。

 少年は天使にカウンターを浴びせながら、確実に着実に天使を追い詰めていく。

 彼の徒手空拳はまさに暴風そのもの。即死級のフェイントに混ぜて、放たれるジャブと蹴りは肉塊である天使の急所を的確に突いていた。

 天使は即死級のフェイントを免れるためだけに少年の本命の攻撃をただ受け続ける。

 青年にとって天使が取った選択肢は自殺行為以外の何物でもなかった。


(そろそろ決着が着くな)


 少年の踵落としをモロに喰らった天使は翅の動きを止めてしまう。

 意識を失い、地面に落ちるだけとなった天使を少年は籠手の力で強引に引っ張り上げると、右の拳で思いっきり天使の身体を殴りつけた。

 それにより、新神の空は真っ白な閃光によって埋め尽くされてしまう。


(なるほど、ようやく理解できた。あの少年、ここにいる人達を守るために手こずっていたのか)


「ふーん、あんなクソみたいな玩具使っているのに中々やるじゃない」


 いつの間にか掛けていたサングラスを用いて、皇女は地面に落下する少年を視界に捉える。

 少年は籠手の力で天使から解放された女を引き寄せると、そのまま女達を高層ビルの屋上に着地させた。


「へえ。街の人だけじゃなくて、天使の媒体になってた奴等も救ったんだ。まさかあんな舐めプしといて、苦戦する事なく無傷で切り抜けるなんて予想だにしてなかったんだけど、まあ、これくらいやってのけないと、世界一の魔術師と闘うなんて到底できないわよねえ」


 どうやら皇女は"籠手がなかったら少年は天使に負けていた"と勘違いしているようだ。確かにあの少年は籠手の力を十二分に扱う事で勝利をもぎ取った。

 しかし、あんな籠手がなくても、少年なら余裕で勝てた筈だ。

 ──あの少年は自分がこちら側にいる事を自覚していない。

 故に"自分がただの人間だから"という誤った認識により、彼はあの籠手に頼りっきりになっているのだろう。

 いや、もしかしたら、あの籠手が少年の認識を人の領域に留めているかもしれない。

 あの籠手が少年の手元にあるから、少年はこちら側に至っているという事実を把握できないのだ。


(そう考えると、あの籠手は少年にとって重荷以外の何者でもない。いや、何者かが敢えてあの籠手を少年に与える事で少年を人の領域に押し留めている、……のか?)


 いずれにしても、自分達にとって不都合極まりない事には変わりない。

 あの少年が神域に至ってくれなければ、皇女の目的を達する事も青年の欲を満たす事もできないのだ。


(……いや、この事実を指摘するのはまだ早いか)


 あの少年が皇女のプランの中心に添えられてから話すのがベストだろう。

 彼女の見立てによると、"絶対善"もこちら側に至っていてもおかしくないと聞いている。

 ならば、あの少年が"絶対善"と衝突した後にこの事実を告げてるのが良いだろう。

 もしかしたら、世界一の魔術師と闘う事で、あの少年は自身がこちら側に至っている事を自覚するようになるかもしれない。


「天使ラファエルを倒した奴を確認できたし、そろそろ移動するわよ。長居してたら、あの泥棒猫に捕捉されかねないし」


 テーブルの上に食事の代金を置いた皇女はゆっくりと店の外へ向かい始める。


「何処に移動する気だ?」


 青年は窓の外にいる少年を眺める。

 彼は無事に着地できたのか、傷1つ負っていなかった。

 自分と同じ所にいる少年を青年は遠目で観察し始める。


(年齢はおよそ10代。身体能力は人間の中で高い方だが、人間の領域を逸脱していない。顔は離れ過ぎて分からないが、奴が身に纏う雰囲気は離れていてもよく分か──っ!?)


 5キロ離れた所にある交差点の真ん中にいた少年は振り返る。

 そして、ホテルの最上階のレストランにいる青年を"見た"。


「…………面白い」


 青年は自分が嗤っている事に気づいてしまう。

 気配は消した。

 視線が悟られないように工夫をした。

 にも関わらず、あの少年は自分の姿を視界に捉えた。

 偶然ではない。

 まぐれでもない。

 少年は間違いなく自分を"見ている"。

 その事実に青年は闘争本能を刺激されてしまった。


 いつも読んでくれて本当にありがとうございます。

 また、新しくブックマークしてくれた方、そして、新しく評価してくださった方、本当にありがとうございます。

 みなさんのお陰でまたまたアクション文芸日刊ランキング30位以内に入る事ができました。

 過去にブックマーク・評価してくれた人も含め、この場を借りて厚くお礼を申し上げます。

 本当にいつも読んでくださってありがとうございます。 

 本日の更新は13時にも予定しております。

 あと、前日の後書きでも書いたように明日の更新は12時と13時と14時、21時、22時と23時を予定しております。

 また、新章人狼騒動編は27日土曜日0時頃から投稿します。

 土曜日は3話分投稿しますので、具体的な時間が決まり次第、最新話の後書きかTwitter(@Yomogi89892)でお知らせ致します。

 これからもよろしくお願い致します。

 

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 厚かましいと自覚しておりますが、感想、レビュー、ブクマ、評価、お待ちしております。 小説家になろう 勝手にランキング
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