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4月12日 <ガラスの王女と褐色の青年>

 新神駅から徒歩3分の所に位置する高級ホテル。

 その最上階のレストランにて、美鈴をそのまま大人にしたような容姿の持ち主『ガラスの皇女』は自身の従者である褐色の青年と共に昼食を摂っていた。


「で、どうやって"絶対善"をこの地に呼び出すつもりだ?」


 青年は水を飲みながら、窓ガラスの向こう側に広がる新神駅周辺を一望する。


「ああ。その件なら、とっくの昔にもう終わったわよ」


 皇女はステーキを頬張りながら、興味なさそうな感じで呟く。


「あんたは気づかなかっただろうけど、"絶対善"は数十分前にここに到着後、すぐに桑原に向かったわ」


 淡々と事実だけを吐く皇女。

 青年は外から目を背ける事なく、彼女に疑問をぶつける。


「どうやって呼び出した?昨日は何も考えていないと言ってただろ?」


「私は何もしてないわよ。ただ今回の件についてのある事ない事書いた報告書を『magica』に出しただけ。多分、彼はそれに目を通したんじゃないの?」


 ガラスの皇女は秘密結社『デウス・X・マキナ』だけでなく、国際魔導機関『magica』──世界中に点在する魔法使い・魔術師・魔導士の管理、国家間の魔導的紛争の解決、及び魔法・魔術によって引き起こされる事件事故を収拾する事を目的にした非公式機関──にも所属している。

 何故、彼女が秘密結社や国際機関に所属しているのかは、従者である青年でさえ知らない。

 恐らく何かしらの目的があるのだろう。

 そう判断した青年は彼女に疑問を呈する。


「……お前は報告書に何を書いたのだ?まさか天使を嗾けたのは自分だと自白したのか?」


 青年は思い出す。

 天使ラファエルを再構築したのは目の前の彼女である事を。

 暴漢に襲われ、ボロボロになった男の身体に天使ラファエルを埋め込んだのは彼女である事を。

 そして、魔女に大規模魔力収集のやり方を教えたのは彼女である事を。


「そんな私にメリットがない事をやる訳ないでしょ。勿論、報告書にはこう書いたわ。"私が駆けつけた頃には事態は収束していた。故に原因不明"って。まあ、細かい所はあの地にいた魔術師達──いや、凡人が報告するでしょう。松島啓太郎……だっけ?ほら、上層部脅して、自分と金郷教信者達を無理矢理『magcica』にねじ込んだイカレ野郎がいるでしょ?多分、そいつが上手いこと誤魔化してくれるわよ」

  

 普段人の名前を覚えない皇女が名前を覚えている事実に青年は震える。

 ガイア神を殺した少年の名前さえ覚えていない彼女が何の取り柄もない男の名前を覚えていた。

 恐らく、彼女にとって、"啓太郎"という人物は警戒すべき人間なのだろう。


「誤解しないでよね」


 彼女は食べかけのステーキを頬張りながら、青年の勘違いを正す。


「別にガイア神を殺した彼を過小評価している訳じゃないわ。けど、松島啓太郎は、あんたやあの少年と別の意味でやばいのよ。あんたは"神域"に至って、まだ日が浅いから分からないと思うけど、ああいう"自分が凡人である事を自覚している凡人"は私たちにとって天敵なのよ。足元掬われるから」


 青年は皇女の言っている意味が分からずに押し黙る。

 凡人である事を自覚している凡人が何故厄介な存在になり得るのだろうか。

 その疑問を解消しようと自問自答する。

 しかし、どう考えても彼女が警戒する程、男に松島啓太郎という人間に価値はないように見えた。


「それはただの驕りよ」


 かつて神の座にいた女性は事実だけを告げる。


「格上相手に挑戦状を叩きつける凡人の怖さを知らないから、あんたは凡人を見下す事ができるのよ。気をつけた方が良いわ。その慢心があんたの命取りになり得るのだから」


「委細承知、足元を掬われぬように精進しよう」


 青年は躊躇する事なく、主人の忠告を胸に刻み込む。

 主人である皇女は彼の従僕振りに満足したのか、にんまり微笑むと、窓の外の風景を一望する。


「一応、念のために聞かせてもらう。何故、お前は報告書を書いたのだ?お前にあれを書くメリットはなかっただろう?」


 彼女は視線を窓の外に向けながら、ぶっきらぼうに答える。


「あの泥棒猫に嫌がらせするためよ」


 ガラスの皇女はつまらなそうに呟きながら、赤ワインを口に含む。


「あの泥棒猫と繋がりがあると思われる"人狼"の存在を国際魔導機関に教えるためだけに、私は報告書を書いたって言えば良いのかしら?先日、あの女が私達を特定できたのは十中八九、人狼一族の力を借りたからだと思うわ。どういう繋がりなのかまでは把握してないけど、まあ、牽制しといた方が今後のためになるでしょ」


「……なら、何で"絶対善"はここに来たんだ?お前の話を聞けば聞く程、奴がここに来るとは思えないのだが」


「さっきも言ったじゃない。私の報告書に目を通したからかもって。もしかしたら、別の狙いがあって、桑原に向かっているかもしれない。正直、予想はできても今の段階で真実を知る事はできないわ。"絶対善"が私の報告書に食いつくなんて期待はしていても、予想はしてなかったし。幾ら彼が"魔族"嫌いだと言って、私の報告書なんて読む訳ないって勝手に結論を下していたわ。『magica』では私の地位なんてあってないようなものだからね。正直彼に関しては別の策で動かそうと考えてたんだけど、まさか平社員の報告書をそれなりに地位がある彼が読むなんて。流石の私でも予想できなかったわ」


 らしくない困惑した様子の彼女に青年は不信感を募らせる。

 そして、自分の不安を解消するために、彼は言葉を紡いだ。


「……本当にお前はあの女に嫌がらせするためだけに、報告書を出したのか?」


「ええ、あの絞りカスの手駒を1つずつ着実に潰すためにね。『magica』に目をつけられたら、流石に人狼達も自由気ままに動けないでしょう。人狼の存在を言及した報告書を出すだけで、あの絞りカスの戦力を削れるなら出す価値は十二分にあるわ。あ、別にあんたを騙そうとしている訳じゃないから。私は本気で言っているから、そこら辺はちゃんと理解しておいてよね」


 青年は水を口に含みながら、外にいる敵に殺気を放ち続ける。

 しかし、敵は彼の殺意に気づく事なく、静止していた。

 否、敵は彼が放つ殺気に気づいていないのだろう。

 それくらい敵の気配は動く事なく、1つの場所に留まり続けた。


「なるほど、結果的に一石二鳥になったという事か」


「ええ、まさか二鳥目が自ら当たりに来るとは思わなかったけど。……一体、こんな辺境の地に世界一の魔術師を送り込んで『magica』は何がしたいのかしら?」


 流石の彼女も自分の目論見通りに事が進んでいるのに違和感を抱いたのか、眉間に皺を寄せる。


「……駄目ね、幾ら考えても答えが出ない。予想はできるけど、確信までに至りそうにないわ。情報量が少な過ぎるから、一旦パスで。この先を考えるのは"神殺し"と"絶対善"を闘わせてから決めるわ」


「そうか。お前がそう言うなら、俺は素直に従おう。……で、どうやって彼等を闘わせるつとりだ?」


「闘わせる前にやる事があるわ」


「やる事?それは何だ?」


「ただの確認よ。本当に"神殺しの英雄"が私の期待通りの力と特性を持っているか確かめとかないと」


 そう言って、皇女は懐から試験管を取り出す。


「それは何だ?」


「天使ウリエルの媒体となる女が入った試験官よ」


「お前、あの少年に天使ウリエルを打つけるつもりなのか?」


「当たり前じゃない。あの英雄君が神域に至っているのか、それとも神域一歩手前で踏み留まっているか確認しないと何も始まらないからねえ」


「もし少年が"神域"に至っていなかったら、どうするつもりだ?」


 青年は懐から天使ウリエルの核である宝石を取り出す皇女に疑問を呈する。


「どうもしないわよ。もしあの少年が"神域"に至っていなかったら、この辺りが火の海になるだけだろうし。こんな極東の都市が1つ消えた所で計画に何の影響はないわ」


「自分が天使ウリエルに殺される事は考えていないのか?」


 昼食を食べ終わった皇女は持っていたハンカチで口を拭くと、試験管の中を横目で見る。


「考えていないわ。だって、あんたがいるんだもの」


 青年への信頼の言葉を告げると、皇女は試験管を窓目掛けて放り投げる。

 魔術の力で窓を透過した試験管はそのまま地面目掛けて落ちていった。


「ソウスケ、これは命令よ。どんな手を使ってでも私を天使ウリエルから守りなさい」


 皇女は自分本位で独善的な命令を飛ばす。

 それを聞いた青年は躊躇いもなく、こう言った。

「委細承知、どんな手を使ってでも俺はお前を守ろう」


 新しくブックマークしてくれた方、過去にブックマーク・評価してくれた方、そして、いつも読んでくれている方、本当にありがとうございます。

 みなさんが読んでくれているお陰で、また、ブックマークや評価ポイントをしてくれるお陰でいも高いモチベーションを保ったまま、創作活動に励む事ができています。

 この場を借りて、厚くお礼を申し上げます。

 また、本日の更新は13時頃にも予定しております。

 よろしくお願い致します。

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 厚かましいと自覚しておりますが、感想、レビュー、ブクマ、評価、お待ちしております。 小説家になろう 勝手にランキング
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