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4月11日 <神域> <始祖> <生存競争>

 


「今回は君のお陰で助かったよ」


 桑原交番から100メートル離れた所に位置する駄菓子屋にて、司からバイトリーダーと呼ばれている女性は少女にお礼の言葉を述べる。


「別にどうって事はないわよ。私達の縄張りに怪しい連中が入って来た事をあんたに教えただけだし。それに、私達一族はあんたに返し切れない程の借りがある。私があんたを助けるのは当然の事じゃない」


 日暮市の不良界隈にて、"一匹狼"という2つ名で恐れられている少女は鼻を鳴らしながら、バイトリーダーからラムネを受け取る。


「にしても、あいつらは何者なのよ。得体の知れないというか、何というか、……正直臭いを嗅いでいるだけで寒気がしたわ」


「へえ、君は彼女達がいる次元をなんとなく理解できるんだね」


 バイトリーダーはラムネを飲みながら、人間の枠にいる少女を賞賛する。


「君を信用して真実をぶっちゃけるけど、あれは人類の叡知じゃ説明できない代物だよ。外の世界における『始祖』と呼ぶべきかな?今は力の殆どを失っているから、『始祖』とは呼ばないんだけどね。隣にいた男性も彼女同様『神域』に至っているから、今の人類に勝てる相手じゃないよ」


「『始祖』……?『神域』……?何よ、その単語。初めて聞いたんだけど」


「人類の理解から外れている生命体の総称だよ」


 少女は彼女が言っている事を把握できず、首を傾げる。


「じゃあ、私達と同類って事……?」


 "一匹狼"と呼ばれる少女は困惑しながら、疑問に思った事をそのまま口に出す。


「全然違うよ。君達は人外なだけで人類の理解から外れた存在じゃないからね。2次元のキャラクターが3次元に位置する読者を認知できないのと同じで、人類は『神域』に至った者達を完全に理解する事ができないんだよ。残念な事に」


 少女は彼女の言葉を完全に理解する事はできなかった。

 だが、自分達の縄張りに侵入して来た正体不明の2人組がヤバい存在であった事とそんな奴らがわざわざこの地に来る理由があった事だけは理解した。


「……じゃあ、あいつらは何のためにここに来たのよ」


「それはお姉さんにも分からない。けど、まあ、大体は予想できるんだけどね。多分、自分達と同じ所に位置する化物を探しに来たんだと思う。神様や天使を瞬殺できるような化物をね。だから、彼女達は天使ラファエルをこの地に放ったんだと思う」


「……神や天使を瞬殺できるような奴を探しに来た……?」


 生まれてこの方、神や天使をこの目で見た事ない少女は、それらの実在よりも神殺しを成し遂げる存在の方を疑ってしまう。


「本当にいるの……?そんな出鱈目な奴」


「いるよ。彼等がいるから世界は存続しているんだよ。人類史に残らないような出鱈目な奴が存在しているお陰でね」


 右耳に嵌めているワイヤレスイヤホンに似た何かから誰かの声を聞かながら、バイトリーダーを名乗る女性は呟いた。




<???>


「ふーん、本当に天使ラファエルを5分で倒しちゃうなんてねえ」


 桑原病院の屋上にて、夕暮れに沈む町を眺めながら、ガラスの王女は独り言を呟く。


「あのいけ好かない女が、どんな手を使ったのか知らないけど、天使ラファエルを討伐できる存在がこの地にいる事を観測できたから、まあ、良しとしましょう」


 王女の隣に立っていた褐色の青年は疑問を呈する。


「で、この後どうするつもりだ?」


「確認するに決まってるでしょ。次の天使を……いや、"絶対善"を神域に至らせるわ」


「世界一と称されている魔術師を?どうやって神域に至らせるんだ?」


「まだ何も考えていないけれど、やり方は幾らでもあるでしょ。まあ、何も思いつかなかったら、次の天使を召喚すれば良いだけだし」


「……そんな行き当たりばったりで大丈夫なのか?」


「良いでしょ、今の私は何の力もない人間なんだし。それに完璧な計画を立てたら、あの絞りカスに私達の目的を悟られちゃうじゃない」


 ガラスの王女は忌々しく舌打ちをしながら、手摺りについていた盗聴器を破壊する。


「と、まあ、あの泥棒猫に安心感を与えた所で本題に入りましょうか。勿論、私もそれなりに策は練っているわ。先ずはあの泥棒猫のお気に入りの少年に天使をけしかける。もしも彼が天使を倒す事ができる力を有していたら、"絶対善"と闘わせる。"絶対善"が神殺しの少年と闘えば、否応なしに神域に至るでしょう」


 夕暮れに沈もうとする町中。

 王女達はボロボロになった少年が病院から出て行くのを目撃する。


「──さあ、生存競争を始めましょう。最後に嗤うのは一体誰なのかしらねえ」





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