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4月11日(5) 「お前が寮則を破ったからだああああああ!!」の巻!!」

 5階の西病棟を歩いていると、四季咲の病室を見つける事に成功した。

 蛇女達の時の反省を生かして、俺は扉を叩く。

 すると、中から凛とした女性の声が聞こえて来た。


「どうぞ、入ってくれ」


 聞き覚えのない声の所為で、ここが四季咲のいる病室からどうかもう1度確認してしまう。

 立て札には四季咲の名前が記載されていた。


(多分、あいつのお母さんがいるんだろう)


 そう思いながら、四季咲家が貸し切っている個室の中に入る。


「うっす、四季咲。お見舞いに来たぞ」


 ベッドの上には見慣れないプラチナブロンドの髪をお嬢様結びした少女が座っていた。

 容姿だけで金を稼げそうなくらい美しい少女の姿に思わず驚いてしまう。

 枝毛が一切ない上品な髪。

 エメラルドを想起させるような瞳に芸能人が嫉妬しそうなくらい小さな顔。

 顔のパーツは理想的な位置に配置されており、10人が10人振り返ってもおかしくないくらいに美人だった。

 体型は入院着の所為でよく分からなかったが、ぱっと見引き締まっているように見える。

 少女は俺の顔を見るや否や驚いた表情を浮かべた。


「すみません、別の四季咲と間違えました」


 少女に見覚えがなかったので扉を閉める、もう1度、病室の立て札を見る。

 そこには四季咲楓と書いてあった。

 多分、同姓同名の別人だろう。

 再び四季咲の病室を探し始める。

 すると、病室にいた少女は慌てた様子で退室すると、瞬く間に廊下を歩く俺に追いついた。


「いや、合ってるぞ!!君がお見舞いに来た四季咲は多分、私で合っている!!」


「いや、俺が知っている四季咲はあんたみたいな別嬪さんじゃねえ。腹太鼓でフルコンボ狙える逸材だ。男みたいな容姿しているけど、あれはあれで愛嬌のある素晴らしいポンだポン」


「それが私だと言っているんだ!ほら、魔女に美点を全て獲られたって言っただろ!?それが戻った結果、あの姿じゃなくなったのだ!!」


「いやいや、それにしては面影なさ過ぎるというか何というか。あ、さてはお前、美人局だな?四季咲の振りをして、俺から金を騙し取ろうとしてんだな?だが、残念だったな。もう俺の全財産は500円も残っていない!!絞り取ろうにもこれ以上絞り取れないぞ!!どうだ、参ったか!!」


「私が君にそんな事をする訳ないだろう!どう見たら私が美人局に見えるんだ!?」


「そりゃあ、そんな見目麗しい容姿してたら。そう思うのが当然……」


 ふと、少女の胸に視線が吸い寄せられてしまう。彼女の胸は──女子高生の中では平均的なサイズなだけで──そこまで大きくなかった。


「訂正させて貰う。あんた(のおっぱい)じゃ、俺を魅了できねえよ」


「そんな最低な台詞を私の乳房を見ながら言うな!」


 少女は俺がおっぱいをガン見しているにも関わらず、隠す事なく堂々としていた。

 その動作により、俺はこの少女が四季咲である事を確信する。


「……その反応、……お前、本当に四季咲なのか?」


「セクハラの反応で確信を抱くな!どう反応したら良いのか分からなくなるだろ!」


「笑えば良いと思うよ」


「それじゃ、私も変態になってしまうじゃないか!!」


「人間、須く変態なんだよ」


「また須くを誤用している!!」


 無意識のうちにバイトリーダー達と話す感覚で四季咲と接してしまう。

 蛇女達の件といい、この大雑把さが彼女達の反感を買うのだ。

 今後は意識して話さなければ。そんな事を考えながら、元の姿に戻った彼女を見る。

 彼女は頬を赤らめたまま、俺から目線を逸らした。


「まあ、何はともあれ元気そうで良かった。で、傷の方は大丈夫なのか?」


「ああ、明日には退院できる。私の場合、傷が深かったというより、栄養失調寸前だったからな。それで入院せざるを得なかったのだ」


「栄養失調……って、お前、もしかして騒動の時、何も食べてなかったのか!?」


「恥ずかしい話、君から貰ったおにぎりとプリン以外はな。食べ物買うお金がなかったのもあるが、騒動で食欲どころじゃなかったのだ」


 平然と言ってのける四季咲に思わず、怒りをぶつけてしまいそうになる。

 が、彼女が何も食べていない事に気づかなかった俺が、言う台詞ではないと気づいたため、グッと堪えた。


「じゃあ、急いで病室に戻ろう。ここにいると、また悪化するぞ!!」


「心配してくれてありがたいが、もう大丈夫だ。今はこの点滴で栄養補給しているから」


 四季咲は持っていた点滴器具を俺に見せびらかす。


「その油断が命取りだ。ていうか、そんな細々な身体で言っても説得力がない。もっと栄養取っとかないと死んじまうぞ。ほら、俺が持ってきた苦瓜食べとけ。多分、良くなるぞ」


「どうして君はよりにもよって、苦瓜をチョイスしたんだ!?」


「いや、リサーチした結果、苦瓜がお嬢様学校内で流行っていると……」


「そんな事実、何処にもない!!」


 目隠し娘から得た情報を顔真っ赤にしながら否定する四季咲。

 俺は何を信じたら良いのか分からなくなった。

 とりあえず、彼女の顔が青白かったため、心配になった俺は彼女を強制的に病室に叩き込む事にする。


「こんな所で話してないで、とりあえず病室に戻ろうぜ。まだ入院してなきゃいけねえんだろ?」


 俺は四季咲をお姫様抱っこすると、病室の中に入る。彼女の身体は羽根のように軽かった。


「──なっ!?なあっ!?」


「お姫様抱っこされただけで興奮するなよ。どんな特殊性癖してんだ、お前」


 病人である四季咲を強引にベッドの上に寝かせる。彼女の顔は湯気が出るくらい真っ赤だった。


「何か食べたい物とかあるか?500円以内のものだったらダッシュで買って来るぞ」


 いつでも5階から飛び降りられるように病室の窓を開ける。


「買わなくていい!ナチュラルに窓から飛び降りる準備をしないでくれ!!心臓に悪いから!!」


「大丈夫だ。5階くらいの高さから飛び降りても、普通の人は死んだりしない」


「普通の人間は5階くらいの高さから自発的に飛び降りる事なんてしない!!気持ちだけ有り難く受け取るから、もう無茶だけはしないでくれ!ドキドキし過ぎて、寿命が縮む!!」 


「四季咲、それが恋だ」


「女子校歴が長い私でもこれが恋の高鳴りではない事を理解している!!」


 四季咲から頼まれたので、渋々彼女の言う事に従う。

 病室に設置されていたパイプ椅子の上に座った俺は赤面した彼女と向かい合う。

 彼女は俺と目が合うと、目を潤ませ始めた。


「……本当、君が無事で何よりだ」


 彼女の純真なリアクションにどう反応したら良いのか分からなかった。


「ああ、お前も元気そうで良かったよ」


 四季咲と向かい合った俺は彼女に頭を下げる。


「すまん、お前が……いや、お前達聖十字女子学園の連中が魔女の被害に遭ったのは殆ど俺の所為だ。俺が天使をちゃんとやっつけなかった所為で、お前らにしなくていい苦労をさせてしまった」


 素直に謝罪の言葉を告げる。

 もしも俺が金郷教騒動の時、天使をキチンと破壊していたら、四季咲達は何も奪われずに済んだだろう。

 四季咲達は苦しむ事はなかっただろう。

 あの時、俺が雑に天使を撃退したが故にこの騒動は起きてしまった。

 啓太郎は俺の責任ではないと言ったが、どう考えても、この騒動の遠因は俺が引き起こしたようなもの。

 だから、俺は彼女達に謝罪をしなければならない。自分がしでかした事の後始末ができないが故に彼女達を──いや、目の前の彼女を悲しませたのだから。


「君は何も悪くない」


 四季咲は事情を知らない癖に知ったような口を叩く。


「話は全部啓太郎さんから聞かせて貰った。魔法の事も金郷教が召喚したガイア神の事も。そして、君が背負わなくて良い事を背負っている事を。魔女も天使ラファエルも偶然起きた不幸な事故のようなものだ。君の所為で起きたものではない」


「でもな……」


「君は私達を助けてくれたのだ。感謝の気持ちはあれど、恨みや憎しみの気持ちは一切ない。もし君に落ち度があったとしても、君はもうお釣りが来るくらい身体を張っている。だから、君は君自身の事を許してやってくれ。君は正しい事をしたのだから」


 四季咲は真っ直ぐ俺の目を見て話す。

 照れ臭くなった俺はそっぽを向いてしまった。

 病室に静寂さんが来室する。

 気まずくなったので、俺はずっと言いたかった事を彼女に言った。


「四季咲。お前はさ、他人を大切に思い過ぎるあまり、自分を蔑ろにしている。そんな事やっても誰も喜ばない。少なくとも俺はお前が不幸になる姿なんか見たくない」

 

 四季咲の目を見て話す。

 彼女は俺と目を合わしてくれなかった。


「"生まれた時から恵まれていた。今まで良い想いをしていたから私は不幸になって当然だ"なんて考えは間違っている。お前は誰よりも幸せになって良いんだよ」


 四季咲は俯いた状態のまま、ピクリとも動かない。

 彼女の表情は俯いている所為でよく見えなかった。 


「これは俺のお願いで、ただの価値観の押し付けだ。無理強いする訳じゃない。四季咲、何もかも1人で抱え込もうとするな。俺じゃ頼りないかもしれないけど、俺じゃお前の事を完全に理解し切れないかもしれないけど、ちゃんとお前の話に耳を傾けるからさ」


 "だから、幸せになる事から逃げないでくれ"の一言を飲み込む。

 これ以上、言葉を重ねたら説教になると思ったから。

 四季咲の方を見る。

 彼女の肩の力が抜けるのを俺は知覚した。


「……そうか。君はちゃんと私の事をいたんだな」


 表情はよく分からない。

 それでも彼女の憑物が落ちた──ような気がした。


「ちゃんと見れているかどうか分からないけどな。だって、俺とお前はたかが半日の付き合いな訳だし」


「それでも良いんだ」

 

 彼女は潤んだ瞳で俺と目を合わせる。


「才能も美点も無い私を君は信じてくれた。私という人間に価値を見出してくれた。たったそれだけで私はこの上なく嬉しかった」


 彼女は息を短く吸い込むと、頬を緩ませる。

 あどけない子どもみたいな表情をした彼女に目線を奪われた俺は思わず惚けてしまった。


「ありがとう、私を信じてくれて。君がいてくれたお陰で私は救われた」


 四季咲は向日葵のような笑みを浮かべる。

 彼女の笑顔を見た事で俺は、ようやく彼女という人間と本当の意味で向き合えたような気がした。

 照れ臭くなった俺は頬を人差し指で掻くと、気恥ずかしさを誤魔化すため、Vサインを四季咲に送る。

 すると、俺と彼女との間に何とも言えぬ雰囲気が漂った。

 この空気に耐え切れなかった俺は慌てて立ち上がると、言い訳を披露し始める。


「そ、そういや、この後予定があったんだっけ!うん、あまり長居する訳にはいかないな!じゃあな、四季咲!また明日な!!」


 予定などないが照れ臭くなったので、とりあえずこの部屋から抜け出そうとする。


「……ああ、また明日」


 四季咲は嬉しそうに微笑むと、小さく俺に手を振る。

 何とも言えぬ空気感から脱出した俺は部屋の扉を開ける。

 扉を開けた俺が目にしたのは、青白い顔をした寮長の顔だった。


「ぎゃあああああ!!!!」


 気配さえ感じない程に疲労し切った寮長を見た俺は思わず腰を抜かしてしまう。

 熱があるのか、寮長はガラスのような瞳で俺を睨みつけると、地獄の底から這い上がってきた鬼みたいな声で俺の苗字を呼び始めた。


「じ〜ん〜ぐ〜うううううう!!!!」


 怪獣のような足取りで俺との距離をじわりじわり詰めていく。

 腰が抜けた所為で俺は立ち上がる事さえできなかった。


「な、何で寮長がこんな所に……」


「それはねえ、じんぐう……!」


 今にもぶっ倒れそうな寮長は俺の顔面にアイアンクローを決めると、そのまま床に俺の後頭部を叩きつけた。


「お前が寮則を破ったからだああああああ!!!!」


「ぎゃああああああ!!!!」


 恐怖で腰が抜けた俺は碌に抵抗することができず、寮長が繰り出すプロレス技をただ受ける事しかできなかった。

 四季咲の心配する声が聞こえてくる。

 が、今の俺はそれどころじゃない。もう痛みに悶える事しかできなかった。


「ぎゃあああああ!!!!!!」


 やはりあの占いは俺が危惧していた通り、かなり当たるらしい。

 次の占いが発表される水曜日まで散々な目に遭う事になるのだが、この時の俺は知る由もなかった。



 いつも読んでくれてありがとうございます。作者の"あけのぼのりと"です。

 魔女騒動は今回更新した話でお終いです。

 ここまでお付き合い頂き、本当にありがとうございます。

 これから土曜日までの間は魔女騒動と人狼騒動を繋げる物語を投稿していく予定です。

 また、金曜日に一万PV達成記念の短編を投稿する予定です。

 これからもよろしくお願い致します。

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