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4月9日(36) 啓太郎の策の巻

 魔女の魔力が尽きるまで残り7分。

 だというのに、俺は3分間の攻防だけでヘロヘロになっていた。

 いつもなら無駄のない動きで体力の調整ができるのだが、先読みし辛いため、ずっと全力で動かなければならない。

 そのため、常に全力で動かなくてはいけない状況に陥っていた。

 とてもじゃないが、あと7分攻撃を躱し続ける事はできそうにない。


(一か八か攻撃を仕掛けねば……)


 右の籠手で攻撃を受け流す時に殴れば、上手くダメージを与えられるかもしれない。

 が、4足歩行で動く魔女の動きを見抜けていない俺にとって、カウンターはリスクが高過ぎる。

 最悪、即死だ。

 幾ら右の籠手が万能だからって俺自身が万能という訳ではない。勝つ手段は幾らでもあるが、全て高いリスクが存在する。

 そんな事を考えていると、突如、校舎の3階渡り廊下の方から窓ガラスが割れた音が聞こえて来た。

「なんだ!?」

 魔女と俺は同時に音源の方に視線を傾ける。

 渡り廊下の窓ガラスを割ったは人間サイズの鳥だった。

 見間違う訳がない、あれは鳥女だ。

 鳥女は何故かセクシーポーズを披露しており、ウグイスみたいな鳴き声で俺らの注目を集めようとしている。

 彼女の意図が全く理解できず、俺は困惑しながら首を傾げた。


「ピィイイイイイ!!!!」


「……何やってんだ、お前」


「うるさい!」


 鳴き声を発する鳥女を煩わしく思ったのか、魔女は彼女目掛けて口から魔弾を放つ。

 ほぼノーモーションだったため、発射を止める事はできなかった。


「ピイイイイイ!!!!」

 間一髪の所で魔弾を回避した鳥女は地面に落下する。

 俺は落下する鳥女を受け止めるために、全速力で駆け出した。

 何とか落下する鳥女を受け止める事に成功する。

 が、その隙を見逃す程、魔女は優しくない。

 奴は俺が鳥女をキャッチすると同時に間合いを詰めると、頭突きを繰り出そうとする。


「………!!」

 

 右の籠手で何とかしようとした瞬間、唐突に魔女の横っ腹にトラック並みに大きい何者かがタックルを打ちかました。


「ぐにゃ……!!」


 横から大きな衝撃を加えられた事により、バランスを崩した魔女は地に伏せてしまう。


「ヒヒーン!」


 魔女にタックルを打ちかましたのは馬と化した馬女だった。


「早く乗ってください!!」


 彼女の背に乗っていたキマイラ津奈木は俺に手を差し伸べる。

 俺はキャッチした鳥女を彼の胸目掛けて投げつけると、勢い良く馬女の背に乗った。


「キマイラ津奈木、ここに来たって事は何か考えがあるんだな!?」


 俺が馬女の背に乗った瞬間、馬女は体育館の方に走り出す。


「ええ!啓太郎さんが考えた奇策ですけどね!!」


「なら、当てにならねえな!!俺は降りさせて貰うぞ!!」


 啓太郎の策は"下手な鉄砲も数撃ちゃ当たる"を体現したかのようなものばかりで、質はかなり悪い。

 かかれば儲けもんとしか思っていない策を頼りにしたら、痛い目に遭うに決まっている。


「降りた所で何か策はあるのですか!?」


「あと、5分……いや、3分、奴の動き見りゃカウンターを放つ事ができる!……かもしれない……!だから、それまで奴の動きを観察すれば……って、うおっ!?」


 背後から嫌な気配を感じ取る。振り返りながら、俺は背後から迫り来る炎の塊を右の籠手で跡形もなく消し去った。


「なら、その時間を私達に稼がせてください!!」


「無茶言うなっ!馬女達もそうだが、お前だって今魔法使えないだろうが!!そんな奴等がどうやって時間を……っと!」


 馬女の背に乗る俺らに光弾の群れが襲いかかる。

 俺は右の籠手から発生する白雷を薄く展開させる事により、俺達に当たりそうな光弾だけを防いだ。


「任せてください!考えがあります!!」


「だから、その考えが啓太郎のものだから降りるって言ってんだよ!!お前らはあいつを過大評価し過ぎだ!!あいつ、かなりアホだぞ!!案山子をボンキュッボンな美女と見間違うくらいアホなんだぞ!!んな奴の案に乗ったら碌な目に遭わないっね!!こんな所に居てたまるか!!俺は降ろさせて貰うぞ!!」


「なに死亡フラグ立ててるんですか!?貴方、本気で死にたいんですか!?」


「俺、この喧嘩が終わったらエロ本買いに行くんだ!!」


「史上最低な死亡フラグ立ててどうするんですか!?」


 魔女は4本の脚で大地を踏み鳴らしながら、俺らの跡を追いかける。

 馬女の脚力では引き離せないと判断した俺は彼等に指示を飛ばした。


「くそ……!!俺に構わず先に行け!絶対に追いつくから!!」


「だから、死亡フラグ立てるなと言ってるでしょうが!!」 


「何言ってるんだ!?俺が死ぬ訳ないだろ!!!!」


「毎秒死亡フラグ立てないと気が済まないんですか、貴方は!?」


 馬鹿な掛け合いをしている内に、魔女は空に向かって跳び上がる。

 そして、駆ける馬女目掛けて尾を振り下ろした。


「「ぎゃああああああ!!!!」」


 俺とキマイラ津奈木の絶叫が重なる。この窮地を救ったのは鳥女だった。


「ピィイイイイ!!!!」


 鳥女が放った風の砲弾が宙に浮いた魔女のバランスを崩す。奴が身に纏っている黒い魔力の所為で、全然ダメージにならなかったみたいだが、何とか危機を脱する事に成功した。


「花絵さん、もう少しスピードを上げてください!!」 


「ぶるふ……!」


 キマイラ津奈木の指示に従った馬女は、ほんの少しだけスピードアップする。


「お前ら、一体どこに向かってんだよ!?」


「ピィー!!」


「いや、ピィーじゃ分からねえから!!」


「ぶるふ!」 


「ぶるふでも分からねぇよ!!」


 鳥女と馬女が何か説明をしたようだが、彼女達の身体は声帯も動物のものに変化しているので、何を言っているのかさっぱり分からない。


「キマイラ津奈木!説明責任を果たせ!!」


「シャー!!」


「人の言語を放棄してんじゃねえよ!!お前はこいつらと違って、声帯奪われてねえだろうが!!!!!」


 彼の頭を叩いている内に俺達は体育館近くに辿り着く。


「逃げても無駄だ!!お前らはここで死ぬ運命だからな!!」

 

 そう言いながら、魔女は漆黒に染まった魔力の塊を吐き出す。

 馬女の背中から飛び降りた俺は、飛んできた破壊力に満ちた攻撃を右の籠手で受け止める。

 魔力の塊は跡形もなく籠手から生じた白雷に食い尽くされた。

 霧散する漆黒の魔力を眺めながら、魔女は舌打ちをする。   


「やっぱ、お前が1番厄介だな、クソガキ……!!」


 忌々しく俺の籠手を睨みつけながら、奴は呟く。


「いいや、1番厄介なのは司じゃない。この僕だ」


 体育館の屋根の上から聞き慣れた声が聞こえて来る。

 案の定、屋根の上にいたのは啓太郎だった。

 彼は何故か得意げな表情を浮かべており、見るからに胡散臭かった。

 まともな思考能力さえあれば、今の彼に考えなしに突っ込むのは無謀だと判断するだろう。 

 しかし、魔女はあろう事か、ほぼ条件反射で歯を食い縛ると、屋根の上にいる彼に襲いかかった。


「ぼ、んじ、んんんんんんん!!!!」


「今だ、優香里君!」


 啓太郎が蛇女の名前を呼ぶと同時に彼の背後に潜んでいた蛇女が彼の背後から飛び出す。


「魔女、1つだけ忠告しよう。僕は君が思っているよりも数倍ズル賢いし、数十倍頭が悪い」


 飛び上がった蛇女は魔女の頭上を取ると、そのまま尾を奴の背中に大振りの一撃を加える。

 その隙に啓太郎は屋根の上から飛び降りた。


「そんな攻撃、効く訳ないだろ!!」


 蛇女の攻撃を受けた魔女はバランスを崩しながら屋根の上に落下する。

 屋根は落下した魔女の体重に耐え切れず、崩れてしまった。

 体育館の中に入った奴を棒立の状態で眺めていると、落下中の啓太郎が指示を飛ばす。


「今だ、司っ!!今すぐ体育館の中に入れ!って、うぎゃああ!!!!」


 着地に失敗した啓太郎は思いっきり脚を挫いた。

 彼の左足首は変な方向に曲がっており、とてもじゃないが、いろんな意味で見ていられなかった。


「無駄にカッコつけて飛び降りるからだ!この馬鹿っ!!」


 無駄な怪我を負った啓太郎を尻目に俺は体育館の中に入る。

 体育館の中は粘着質な糸が至る所に張り巡らされていた。


「おのれ……!!こんな小細工、俺に通じる訳はいだろ!!」


 粘着質な糸に拘束された魔女は毒吐きながら、何とか糸から逃れようともがく。

 ステージの上に立っていた鎌娘は声を張り上げると、俺に指示を飛ばした。


「その糸は魔力で構築されたものよ!!その糸にあんたお得意のビリビリを流し込みなさい!!」


「大体承知!」


 魔女が魔法の力で糸を焼く前に、俺は右の籠手で入り口付近の糸に触れる。

 糸に触れた瞬間、籠手から生じた白雷が糸に流れ込んだ。


「に゛ゃ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!」


 真っ白な閃光と魔女の絶叫が体育館内を埋め尽くす。

 膨大な量の白雷を浴びた魔女は体育館の床に落下すると、悶絶するかのように身を捩り始めた。


「やったか!?」


 鎌娘は空気を読む事なく、魔女復活フラグを立てる。

 案の定、奴はまだ魔力の塊を身に纏っていた。

 糸に流し込んだ白雷如きでは致命傷になり得ないと悟った俺は、奴が悶えている隙に間合いに入り込もうとする。


「にゃ……ああああ!!!」


 魔女は口から氷の飛礫を吐き出す。

 飛礫を右の籠手で受け流しながら、俺は奴との距離を着実に確実に縮める。


「く、……来るな……!!」


 魔女は前脚を俺目掛けて振るう。

 先程と比べると、攻撃はとても鈍いものだった。

 スライディングで奴の攻撃を避けると、ようやく奴の間合いに入り込む事に成功する。


「にゃあ……、あ……!!」


 魔女は怯えた表情を浮かべながら、迫り来る俺の右の拳を見つめる。

 俺は啓太郎達が作った隙を潰さないように、右の拳を奴の身体に叩き込む。

 右の拳が奴の身体に触れた途端、強烈な閃光が迸った。


 次の更新は11時頃です。

 よろしくお願い致します。

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