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4月9日(29) 開戦の巻

 歯軋りをする魔女から目を背け、俺は四季咲の方を見る。

 両腕の中にいた彼女は目に涙を浮かべていた。


「……じんぐう」


「悪かったな、遅れて。けど、もう大丈夫。俺が何とかするから」


 四季咲を地面に座らせながら、俺は彼女の頭を撫でる。

 彼女は目から涙を零し始めた。

 多分、俺が着くまでの間、怖い思いをしていたんだろう。

 自分の不甲斐なさに腹が立つ。

 このミスを帳消しにするべく、俺は魔女と向かい合った。

 魔女は一目見るだけでも分かるくらい、俺に憎悪を募らせていた。

 俺は四季咲を庇うように前に立つと、魔女を睨みつける。

 そしたら、背後から四季咲が俺に疑問を投げかけた。


「……どう、して」


「お前を助けに来た。それ以外に理由は必要なのか?」


「………もういい」


 四季咲は涙声で無謀にも魔女に挑もうとする俺を止めようとする。


「もう、君がこれ以上傷つく必要はない。私の所為で君は死にかけてたんだぞ?今だって動くのがやっとの筈だ。何で私みたいな女のために命を賭けているんだ……?君と私は赤の他人なんだぞ?私は君に何もしてやる事が……」


「そんな自分を卑下するなって」


 彼女の自虐を半ば強引に遮る。


「お前がどんだけ自分を貶しめようが、俺はお前に価値を見出している。たとえ今のお前にこれっぽっちも才能がなかろうが、これといった美点もなかろうが、今のお前しか知らない俺には関係ない。四季咲。お前は親から受け継いだ様々な美点がなくても、十分魅力的なんだよ」


 敢えて振り返らず、俺は四季咲に語りかける。


「だから、もっと自分に自信を持っていいんだよ。もっと自分の事を大切にして良いんだよ。お前がみんなの幸せを願うように、俺もお前の幸せを祈っているんだからさ」


 そう言いながら、痛む身体に鞭を打ち、四季咲の頭を撫でる。


「今までよく頑張ったな。大丈夫、後は俺が何とかするから」


「なんとかする?お前が?」


 魔女は俺の言っている事が可笑しかったのか、俺を露骨に馬鹿にするような笑みを浮かべる。


「もうボロボロになっているお前なんかが何をできると言うんだ?魔法も魔術も使えないお前なんか指1本で殺せるんだぞ」


「あんたに勝てる」


「………は?」


「あんたが奪ったものを全部取り返す事ができる」


「言葉には気を付けろ、人間。死に急ぎたくなかったらな」


 禍々しい装飾が施されたドレスを着込んだ魔女が妖しく微笑む。

 その姿を見て、恐怖心を抱いたのか、四季咲は俺のズボンの裾を力なく掴んだ。


「……逃げてくれ、神宮。君を死なせたくない」


 四季咲の手は恐怖で震えていた。


「君がここに来てくれただけで私は救われたんだ……!もうこれ以上は望まない……!だから、……だから、頼む……!私を置いて逃げてくれ!君に死なれたら、私は……」


 ここで俺が死んでしまったら、彼女は永遠に救われない事を理解する。

 たとえ俺が命と引き換えに魔女から何もかも奪い返したとしても、彼女は今後も自己犠牲的解決方法を選び続けるだろう。

 なら、負ける訳にはいかない。


「大丈夫だ、四季咲」


 四季咲の言葉を半ば強引に中断させる。

 みっともなく泣きべそを掻く彼女を安心させるために、こう言った。


「お前も蛇女も馬女も蜘蛛女も、全部俺が何とかするから」


 魔女は口元を歪めると、腹を抱えて笑い始める。


「ぷっ!お前、まだ俺に勝てる気でいるのか?勝つ気でいるなら……」


 魔女は掌を紫色に発光させるや否や、両手を俺に向けて突き出す。


「この天と地程にある力の差を埋めてからかかって来いにゃ!」


「つべこべ言ってないでかかって来いよ、盗賊女帝」


「そんな口が叩けるのも今だけだ!!」


 魔女は空気の塊を俺目掛けて発砲する。


「神宮……!」


 迫り来る空気砲が背後にいる四季咲に直撃しないことを瞬時に把握した俺は、身体を少し横に倒す事で空気の塊を回避する。

 そして、魔女との間合いを縮めるため、走り始めた。


「遅い!!」


魔女は雷の魔法を俺目掛けてぶっ放す。

 頭上から振り落とされる無数の雷を掻い潜りながら、俺は魔女との距離を着実に縮めていく。


「な、中々やるな!だが、これならどうだ!?」

 

 水の槍が地面と平行になるように振り回される。

 俺はその一撃を前宙する事で難なく躱した。

 後数歩まで迫った俺に恐れを成した魔女は、戦略とか策略とか一切関係なしに炎の波を放ち始める。

 俺は押し寄せて来る炎の波を地面スレスレまで身を屈める事で何とか避ける事に成功した。


「にゃ……!?」


 魔女は目を大きく見開くと、あと一歩まで迫った俺と距離を空けるため、一歩後退する。

 俺は激痛が走る腹部に構う事なく、大きく地面を踏み込むと、魔女の顔面に右の拳を叩きつけた。

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