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4月9日(29) "魔女と四季咲と俺と"の巻

「こんな所に看板、あったっけ……?」


 今にも倒れそうな身体を引き摺るように走っていると、住宅街の四つ角に昭和レトロ看板──和服の女優さんがボンカレーを持ってにっこりほほ笑む看板が放置されていた。

 俺の記憶が正しければ、さっき四季咲と通った時にはなかった筈だ。

 看板に真新しい紙が貼られているのに気づいた俺はそれに近寄る。

 紙には聖十字女子学園までの道順が記載されていた。


「……もしかして、これ、俺のために用意してくれたのか……?」


 一体誰が用意したのだろう。

 啓太郎か?

 鎌娘か?

 それともキマイラ津奈木か?

 魔女と四季咲が用意したものとは考え難い。

 加えて、俺はこの紙に書かれている個性的な丸文字を何処かで見た覚えがある。

 以前、これを見た俺はちょっと読み難いという感想を抱いたような記憶がある。


「考えても、……仕方ないか」


 今はこの地図を用意してくれた名も知らない人に感謝しよう。

 恩人探しはこれが終わった後でいい。

 看板から紙を引き剥がした俺は地図に従って、女子校に向かって走り出す。

 地図に導かれるまま走っていると、女子校の校舎が見えて来た。

 あとちょっとで魔女と遭遇すると思うと恐怖心を抱いてしまう。


(今の状態で勝てるのか……?)


 既に満身創痍の状態な上、相手は魔法を使う事ができる。

 キマイラ津奈木達の前では、ああ言ったが、勝てる見込みは一切ない。

 さっきみたいにサイコキネシスみたいな力で吹き飛ばされるのがオチだ。

 よしんば、接近できたとしても今の身体じゃ思う通りに動かない。

 最初の一撃を躱されたら、間違いなく死んでしまうだろう。


(どうするのがベストなんだ……?)


 勝つための方法を足りない頭で考える。

 だが、そんな方法、幾ら考えても答えは出なかった。

 それもその筈。

 俺は元来頭の良い方ではない。

 テストでは英語以外全部赤点取っているし、将棋やオセロなどのボードゲーム系は小学生に負けるくらい弱いし、仮に異世界転生したとしても現代知識で無双できる程、知識が豊富という訳でもない。

 同年代と比べておつむが弱い方だと自覚している。

 そんな男が幾ら策を練った所でロクな案しか生み出さない。


(いつも通り、行き当たりばったりでやるしかねえか……!)


 結局、俺は無策の状態で魔女の下へ行く事を決める。

 女子校まで辿り着いた俺は裏門から女子校の敷地内に侵入した。

 俺は四季咲と魔女の姿を探しながら、敷地内を駆け回る。

 走っている最中、静寂に包まれたどこからこんな声が聞こえて来た。 


「……頼む、私はどうなっても構わない。だから、他の生徒達は助けてくれ」


 聞こえて来たのは四季咲の声だった。

 今にも泣き出しそうな声で、今にも消えてなくなりそうな声で彼女は元凶に生徒達の救済を願う。

 そんな惨めな発言をさせる程、彼女を追い込んだ自分と魔女を俺は心の底から呪った。


「何でお前の言う事を聞かなきゃいけないんだ?」


 魔女の憎たらしい肉声が静寂に包まれた校内に響き渡る。

 俺は走りながら、彼女達の会話に耳を傾けた。


「私はお前らよりも優れた生き物なんだぞ。だから、お前の言う事なんて聞く必要はない。お前がなんと言おうとも、私は力でお前を黙らせる事ができるからな。それに弱肉強食は自然の摂理を知らないのか?お前らが私に様々な価値を奪われたのも、私にこれから先ずっと虐げられるのも全部お前らが私より弱かったのがいけなかったただけの話だ。なのに、何でお前らは自分の弱さを棚に上げ、奪ったもんを返せとしか言わないのか?どうして自然の摂理として受け入れられないのか?この世の生き物はそうして生きてきたのに。何故お前ら人間は弱者であるのに自分の権利ばかり主張する?返して欲しければ、力づくで奪い取れ。もっとも今の搾りカスみたいなお前に負ける筈はないけどな」


 土地勘のない俺は中々運動場に辿り着く事ができなかった。

 舌打ちしながら敷地内を駆け回る。


「……分かった。な、……なら、力づくで返してもらおう」


 四季咲の震えた声が校舎の壁に反響する。

 その声はとてつもない覚悟が秘められていた。


 「お前自分が今どうなってるのか自覚してないのか?逆立ちしたって私には敵わにゃいぞ」


「……それでも引けないんだ」


 四季咲のか細い声が木霊する。


「たとえ今の私に何の価値がなくても、親から受け継いだ才能が全て奪われたとしても、お前に虐げられている人達を見捨てる事はできない。……こんな私に価値を見出してくれた人達を不幸のままにしておけない。……たとえ何の力がなくても、私はみんなを助けなきゃいけないんだ。だって、彼等は怠惰で愚かな私と違って、幸せになるべき人達なのだから」


 彼女の声は震えていた。

 恐怖、悲観、悲嘆、哀愁、諦観、そういった負の感情の裏に彼女の決意と慈しみが滲み出ていた。


「なら、お前の言う幸せになるべき相手を徹底的に不幸にしなきゃな。あの俺に逆らった所為で死んでしまったクソガキのように」


 魔女の蔑みの声と共に爆発音が鳴り響く。

 四季咲の悲鳴が辺り一面に木霊した。

 その音により、ようやく俺は彼女達がいる場所を特定できた。

 運動場に辿り着く。

 運動場はドーム球場2つ分くらいは余裕にあるくらい広さかった。

 現場に辿り着いた俺が見たのは、禍々しい衣装を着込んだ魔女とへたり込んだ四季咲の姿だった。

 四季咲が立っている周囲の大地は爆撃でもあったかのように抉れており、土は焼け焦げていた。

 魔女が放った魔法が爆発すると共に砂埃が舞い散る。

 爆発の衝撃により四季咲は物凄い勢いで地面を転がり始めた。

 俺の身体は無意識のうちに動き出すと、砂埃の中に突っ込む。


「無価値で無意味で無様な搾りカスが私に勝てる訳ないだろ!!もうお前が何しようがこの状況をひっくり返す事はできない!俺と遭遇した時点でお前はどうしようもなく詰んでいるんだよ!!」


「さあ?それはどうかな」


 魔女の言葉に反論の言葉を呈しながら、砂埃を掻き分けた俺は、地面を転がる四季咲を両手で受け止める。 


「四季咲が勇気を振り絞ったから、俺は四季咲と巡り合えた。あんたが四季咲から優しさを奪わなかったから、俺は四季咲の事を信じる事ができた」


 俺の腕の中で四季咲の肩が震えた。

 元凶である魔女を睨みつける。

 砂埃が晴れると同時に視界に飛び込んで来たのは、目を点にした魔女の姿だった。


「四季咲が立ち上がった時点で、あんたはもうどうしようなく詰んでんだよ」


「い、生きていたのか……お前……!!」


 魔女は俺の姿を見るや否や歯軋りを始める。

 肌に突き刺さる程、鋭利な憎悪が俺の身体に押し寄せる。

 俺は右の拳を握り締めながら、魔女を睨み返した。


 いつも読んでくれてありがとうございます。

 ブックマークが増えていたので、この場を借りてお礼を申し上げます。

 また、いつも読んでくれている方、変わらずブックマークしてくれている方、本当にありがとうございます。

 そろそろ破章:魔女騒動編も終わりますが、引き続き読んで頂けると嬉しいです。


 あと、この場を借りて報告したい事がもう一つ。

 本日から短期連載が始まりました。

  題名は「異世界から追放された悪役令嬢は今日も元気に肥える〜無理なダイエットを始めた所為でチョコも渡せないし、長生きできないかもしれない〜」

(https://ncode.syosetu.com/n1448gu/)です。

 知っている人は知っているかもしれませんが、以前投稿した短編の続きみたいなものです。

 本日から二月十四日までの短い期間ですが、こちらの方もよろしくお願い致します。


 これからも頑張っていきますので、応援よろしくお願い致します。

 

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 厚かましいと自覚しておりますが、感想、レビュー、ブクマ、評価、お待ちしております。 小説家になろう 勝手にランキング
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