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4月9日(22) VS鳥女の巻

 俺と四季咲は夜の町を駆け抜けながら、頭上から降ってくる緑の衝撃波を避け続ける。

 舞い落ちる風の砲弾は骨を容易く折るくらいの破壊力を秘めていた。

 砲弾がアスファルトの地面に直撃する度に、球状の跡が地面に刻まれる。

 あれに当たっても死には死ないだろう。

 けど、暫く病院に通い詰める羽目になるのは火を見るよりも明らかだった。

 それを分かっているから、俺達は懸命に駆け続ける。

 が、隣を走る四季咲は走り始めて1分も経たない内に息切れを起こしていた。

 その足取りも時間が経つ度にかなり重いものになっている。

 とてもじゃないが、逃げ切れそうになかった。


「踏ん張れ!四季咲!!あれに当たったら、めちゃくちゃ痛い思いするぞ!!」


「い、言われなくても……、ハア……分かってる……!」


 もう体力の限界なのか、彼女は今にも倒れそうだった。

 このままでは降り落ちる風の砲弾の餌食になってしまう。

 何とかしたいが、敵は上空100メートルくらいを飛翔しており、とてもじゃないが攻撃しようがない。


「クソ……!このままじゃ、ジリ貧だっての……!」


 俺は今にも倒れそうな彼女を気にかけながら、緑の風と翼を行使する事で夜空を滑空する少女を見上げる。

 すると、何故か頭上にいた筈の彼女は徐々に降下し出していた。

 彼女の降下と同時に風の砲弾も止んでしまう。

 隣で息切れを起こす四季咲をいつでも庇える体勢を取りながら、屋根の上に降り立つ少女を注意深く観察する。


「あり?会長さん、ブサイクになった所為で体力落ちちゃったの?前はかなりスタミナあったのに」


 民家の屋根に降り立ったハーピーは天真爛漫といった感じで俺らに話しかけてくる。


「俺らを生捕りしに来たのか?」


 魔法を扱える彼女を最大限に警戒しながら、出方を伺う。


「んー、そうだよ。だって、この鳥状態、ご飯食べ難いんだから。翼で箸持てないし、犬食いでしかご飯食べれないし。だから、僕はさっさとお前らを生捕りにして、人間に戻って、ご飯を美味しく食べるんだ。あ、異論は認めないから!!」


「そっか、飯のためなら仕方ないか」


 食べ物の恨みは恐ろしい。

 今朝、その事を思い知った俺は溜息を吐きながら、鳥女と向かい合う。


「あ、優香里や花絵みたいに僕を倒せるとは思わないでよね。僕は彼女達と違って、女王様に魔法の力を与えられているんだから」


 俺がこの喧嘩で1番恐れていた事、それは遠距離からの魔法攻撃だ。

 俺1人から躱し続ける事はできそうだが、四季咲を守りながらとなると厄介な事この上ない。


「だから、どうした。お前が魔法を使えるからといって、使いこなせるとは限らないだろ」


「ん?つまり、どういうこと?」


 まさか聞き返されるとは思わなかったので、俺の調子が狂ってしまう。

 すると、隣にいた四季咲が小声で俺にこう言った。


「すまん、彼女は頭があまりよろしくないんだ。もっと噛み砕いてやってくれ」


「大体承知。おい、鳥女!分かりやすいように噛み砕いてやる!」


「よっしゃ来い!!」


「あんたじゃ俺には勝てねぇよ!!」


「んだと、コラー!!」


 屋根の上でプンスカ怒り始める鳥女を横目に俺は四季咲に指示を飛ばす。


「四季咲、お前はどっかに隠れてくれ。速攻で終わらせるから」


「こらこら!コソコソ話してないで、もっと大きな声で話さんか!!」


 俺達の行動が気に食わなかったのか、鳥女は屋根の上でプンスカ怒り始める。


「悪い悪い。ちょっと戯れあっていただけだ。じゃあ、さっさと始めようぜ、鳥のお嬢様」


「あいあいさー!僕もお腹減ってるし、さっさと終わらせるよ!!」


 そう言って、彼女は再び浮上しようとする。

 俺は近くにあった電柱を蹴る事で石塀の上に飛び乗るのに成功した。

 そして、そのまま彼女がいる屋根の上目掛けて駆け出す。


「甘い、プリンくらい甘いよ!!」


 彼女は魔法によって急浮上し出すと、そのまま翼をピンと張り、ゆっくりと落下し始める。

 多分、彼女の腕はペンギンの羽と同じで飛ぶ機能は備わっていないんだろう。

 翼をパラシュート代わりにする事で滞空時間を長くしているだけだと推測する。

 加えて、風の魔法でその滞空時間を更に長引かせているんだろう。

 俺の予想が当たっているなら、この喧嘩はどちらが先に力尽きるかで勝敗が決まる。

 塀の上から屋根の上に飛び移る事で、迫り来る風の砲弾を避ける。

 そして、そのまま俺は屋根から屋根へと飛び移りながら、全力で四季咲がいる地点から離れていく。


「なっ!?お前は忍者か何かか!?」


 民家の上を縦横無尽に駆け回る俺を見て、鳥女は驚きの声を発する。


「パルクールってやつだ!ちょっとした運動神経と近隣住民の迷惑さえ無視すれば、誰にでもできるカッコいい移動法だ!!」


 ちなみにこのフランス軍隊発祥の移動方法をする度に近隣住民の苦情を受ける事は内緒だ。

 そして、その度に寮長からジャーマン・スープレックスを受けているのはもっと秘密だ。


「何それ、カッコいい!!僕もやってみたい!!」


「教えてやるよ!ただし、魔女を倒した後の話だけどな!」


「なら、僕はお前を倒した後に教えを乞う事にするよ!」


「やれるならやってみろ、鳥のお嬢様!!」


 そうして、俺と鳥女の喧嘩が本格的に始まった。

 と、言っても攻守が反転しない一方的かつ理不尽なものだが。

 俺は頭上から落ちて来る風の砲弾を躱すため、民家の上を駆け抜ける。

 俺の足跡をなぞるように、屋根瓦に歪な凹みが次々にできていく。


「狙って当たらないなら、先回りだ!!」


 そう言って、彼女は俺の行手目掛けて、風の砲弾を放ち始める。

 こないだ経験した神様の攻撃と比べると、彼女の攻撃は単純かつ淡白なものだったので、避けるのは非常に容易だった。

 屋根の上から飛び降り、前受け身しながら、アスファルトの地面に着地する。

 そのまま道路の脇に停まっていた車のボンネットに乗った俺は、再び石塀の上に飛び乗った。


「ああ、もう!!ちょこまかと動かないでよ!!倒せないじゃん!!」


 鳥女はイライラした様子で風の砲弾を撃ち続ける。

 降って来る砲弾を、時には石塀の上を走る事で、時には屋根から屋根へ飛び移る事で、時には壁をよじ登る事で、時には高い所から飛び降りる事で、着実に確実に躱し続ける。

 その所為で町の至る所に穴ぼこが生じてしまった。


「お前の所為で町がボコボコじゃん!!これで怒られるのは僕なんだぞ!!」


 緊張感も欠片もない文句が頭上から飛んで来る。

 ……ここまで呑気な相手と喧嘩したのは初めてかもしれない。

 鳥女は自分が徐々に落下している事に気づく事なく、ムキになって、風の魔法を俺目掛けて放ち続ける。


「なら、そろそろ終わりにするか」


 俺は俊敏な動きで屋根の上から飛び降りると、近くにあった高架下トンネルに向かって駆け出す。

 トンネルの高さは約3メートル。

 幅は車1台通れるくらい。

 ここなら彼女のアドバンテージを潰す事ができるだろう。

 何も考えていないのか、トンネルに入って来た鳥女は不敵な笑みを浮かべると、風の砲弾をガトリング砲のように撃ち始めた。


「馬鹿め!こんな狭い所に逃げたら、僕の攻撃は避けられないぞ!!」


 トンネルの地面に平行になるように放たれた無数の砲弾。

 俺は迫り来るそれらを俊敏な動きで避けつつ、彼女との距離を確実に詰める。


「なら、これでどうだ!」


 地面に着地した彼女は思いっきり羽根を羽ばたかせると、巨大な風の塊を俺目掛けてぶっ放した。

 俺はトンネルの壁を思いっきり蹴り上げる──言わば、壁ジャンプ──事で天井に頭が着くかどうかのギリギリの高さまで飛翔する。

 そうする事で、何とか巨大な風の塊を躱す事に成功した。


「う、うそ!?」


 文字通り必殺技を避けられた鳥女は驚愕する。

 着地した俺は瞬時に地面を蹴り上げると、一足飛びで彼女との距離を縮めた。


「はっ!そんな程度で調子に乗って貰っても困るね!まだ僕は奥の手を出していないんだから……!」


 鳥女は負け惜しみみたいな台詞を吐き出そうとすると、俺の拳が届かない空中へ逃げようと試みた。


「おい、飛び上がるのは危な……!」


 ここがトンネルの中である事を忘れ、風の魔法で浮き上がった鳥女は物凄い勢いでトンネルの天井に頭をぶつけてしまう。


「うぎゃあああああ!!!!」


 間抜けで緊迫感のある悲鳴がトンネル内に響き渡る。

 俺は瓦礫と共に落ちて来る彼女をただ眺める事しかできなかった。


「……カツ丼を、箸で、食べたかっ……た」


 鳥女は間抜けかつ切実な捨て台詞を残すと、そのまま鳥の形をした人間に変わり果ててしまう。


「……もしかして、……相当アホなのか、お前」


 当然、鳥女は俺の声に応えない。

 とりあえず、ここに居ても仕方がないので、俺は四季咲の下へ向かいながら、啓太郎に鳥女の事を押し付ける事にした。



 いつも読んでくれてありがとうございます。

 またまたブックマークが増えていたので、この場を借りてお礼を申し上げます。

 そして、いつも読んでくれている方、変わらずブックマークしてくれている方、厚くお礼申し上げます。

 本当にありがとうございます。


 今週は木曜日か金曜日に3〜5話投稿しますので、具体的な日時が決まり次第、最新話の後書きかTwitter(@Yomogi89892)でお知らせ致します。

 これからもよろしくお願い致します。

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