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4月9日(19) コンビニのアイスって美味しいよねの巻

 隣町のコンビニに辿り着いた俺と四季咲。

 そんな俺達を出迎えたのは"桑原の1匹狼"──名高い女ヤンキーだった。


「らっしゃいま……って、うええええ!!??何であんたがこんな所にいんのよ!?あんた、寮生でしょ!!??」


 "一匹狼"は吐き気を堪える俺を見るや否や驚きの声を上げる。 

 こんななら動揺している彼女を見るのは初めてかもしれない。

 慌てて髪の毛を整えようとする彼女を眺めながら、俺は彼女の質問に端的に答える。


「色々あって、今、世界平和のために闘ってんだよ」


「はあ?あんた、どっかで頭打ったの?大丈夫?病院行く?」


「彼の言っている事は本当だ。私が証人になる」


「2名様病院に案内しまーす」


「てか、何でお前がコンビニの制服着て、レジの前に立ってんだよ。ウチの高校、バイト禁止だっただろうが」


「だから、こうして隣町のコンビニで働いてるじゃない」


 彼女は無駄に偉そうに胸を張りながら、どうでいい事を仰々しく言い張る。


「言っとくけど、先生にチクったらぶっ殺すから」


「ヘイヘイ、誰にもチクりませんよーだ」


「で、何であんたがここにいる訳?てか、そいつ誰よ。いつもつるんでる奴らじゃなさそうだけど」


「聖十字女子学園現生徒会長」


「んな嘘信じる程、私は純真じゃないっての。そいつ男じゃない。しかも、桑原学園のジャージ着てるし」


「俺は自分の保身以外嘘を吐かない男だぞ」

「それ、1番最悪じゃない」


 珍しく彼女は喧嘩越しじゃなかった。

 まあ、バイト中なのに職務放ったらかしで喧嘩始めたら間違いなくクビだから当然か。


「そういや、お前1人で働いてんのか?」


「もう1人は奥の方で寝てるわ。なんか急に具合悪くなっちゃったらしくて」


 もう1人が倒れた理由を察する。魔女に魔力を吸われたからだろう。

 一匹狼がピンピンしている事を察するに、啓太郎達の言う通り、吸われ易い人と吸われ難い人がいるらしい。

 多分、俺や四季咲は魔力を吸われ難い人なのだろう。

 そんな事を考えながら、俺は"一匹狼"にお願いする。


「なるべく休ませてやれ。暫く起きないだろうからさ」


 俺の言っている事が分からず、彼女は首を傾げる。

 とりあえず、俺は"一匹狼"を放置して、四季咲と共に胃薬を買う事にした。


「神宮。幾らくらい持っているんだ?」


「啓太郎の財布の中はすっからかんだな。俺の財布には5千円あるけど」


 こないだの入院によりお年玉を殆ど使い果たした俺は、溜息を吐き出す。


「じゃあ、ここは立て替えてくれ。後で私が払うから」


「え?マジ?いいの?後で払ってくれるの?金銭的にキツイ俺としてはその申し出、めちゃくちゃありがたいんだけど」


「君がお腹を壊したのも回り回って私の責任だからな。これくらい払うのは当然だ。……と、言っても親が稼いだお金を君に提供するという情けない話なのだがな」


「いや、それが当たり前だろ。俺もお前もまだ未成年だからさ」


「?親の金を自分の金と言い張る訳にはいかないだろ?私が稼いだお金ではないのだから」


 帰省する度に両親に金を強請っている俺とは大違いだ。

 もっと小遣いくれと催促している自分が恥ずかしいくらい、彼女は眩く見えた。

 彼女のご厚意に甘えて、俺は胃薬を手に取る。

 そして、レジに向かおうとした瞬間、ふとアイスクリームが食べたい衝動に駆られた。

 俺は四季咲を連れて、アイスクリームコーナーに向かう。

 そこには多種多様なアイスが冷やされていた。


「コンビニのアイスって高いけどさ、定番のしか置いてないスーパーと比べると、美味しそうだよな」


 俺は新発売のプリンアイスキャンディーを眺めながら、四季咲の同意を求める。


「私はあまりそういった嗜好品とか食べないから、その言葉に同意できないな」


「え?そうなの?アイスとか食べないのか?」


「アイスもお菓子も食べない方だな。どちらかというと酢昆布とかそういった甘くないものを食べる事が多い」


「へえ、意外。お嬢様学校の生徒ってパンの代わりにケーキ食べてる印象が強いから、てっきり甘いもの好きだと思ってたよ」


「何だ、その偏見は。別にお嬢様みんなアリー・アントワネットという訳ではないぞ。中には金銭感覚が狂っている者もいるが、殆どの生徒は庶民派だ」


「へえ。んじゃ、庶民派お嬢様は長期休暇の旅行とかも近場で済ますのか?」


「いや、13泊14日で沖縄に行くのが大半だ」

「2度と庶民派名乗るんじゃねえぞ、お前ら」


 最低ラインが沖縄13泊14日とかどういうレベルだよ。

 めちゃくちゃムカつく。俺みたいな農家の子供の家族旅行は、隣の県の温泉宿1泊2日程度が限界なのに。

 てか、修学旅行以外で2泊以上した事ねぇよ。

 お嬢様の価値観を目の当たりにした俺は、ムカムカを募らせる。

 けど、目の前のプリンアイスが気になり過ぎて、ムカつきはどっか飛んで行ってしまった。


「なあ、四季咲。アイス買ってもいいか?」


「ダメだ、君は今吐き気を催してるんだろ?お腹を冷やす真似は止めといた方が良いと思うんだ」


「えー、良いじゃん。俺、今めちゃくちゃアイス食べたいんだよ」


「後で苦しくなるのは自分なんだぞ。ほら、悪い事は言わん。冷たいアイスじゃなくて温かいココアでも買っておけ。こっちの方がお腹に優しいぞ」


「あんたはこいつのオカンか」


 レジから"一匹狼"の不機嫌そうな声が飛んで来たが、無視する。


「でも、お前、さっき俺のプリン食べたじゃんか。あの時、プリン食べてたら食べ過ぎで吐く事なんかなかったぞ、多分」


「プリン食べてたら、もっと吐くリスク高まってたじゃない」


「う、……それを言われると何も言えなくなる」


「いや、言えるわよ。だって、そいつ食べ過ぎで吐いたんだから。プリン食べてたら、間違いなく吐瀉物の中にプリン混ざってるから」


 レジから飛んでくる声を無視して、俺はプリンアイスキャンディーに手を伸ばす。

 それを見た四季咲は溜息混じりに許可を出した。


「全く、後でお腹痛くなっても知らないからな」


「だから、あんたはこいつのオカンかっての」


 俺は胃薬とアイス、そして胃薬飲む用の水を持ってレジに向かう。

 "一匹狼"が手慣れた手つきでレジ仕事をこなしているのを眺めながら、俺は彼女に疑問を呈する。


「そういや、お前、明日学校あるのに夜勤入って大丈夫なのか?午前中、眠たくなるだろ」


「明日は入学式だから学校休みよ」


 そういや、そうだった。

 すっかり忘れていた。


「あんた、明日暇なら顔貸しなさいよ。今までの借り返してやるから」


「今日は徹夜コースだから無理だな。明日は爆睡するつもりだ」


「なら、直接あんたの部屋に殴り込みに行くわ」


「止めろ、それだけは止めろ」


「じゃあ、明日の12時にここに集合ね。逃げたらタダじゃ済まないから」


 彼女は俺に脅しをかけながら、ビニール袋に入れた商品を俺に差し出す。

 俺は何も言わずに受け取った。

 もしここで"ああ"とか"うん"とか言ったら、同意とみなされそうだったから。

 愛想笑いしながら、俺は四季咲と共にコンビニを出る。

 寮に戻ったら戸締りしっかりしようと誓いながら。


 コンビニから少し離れた所で胃薬と水を飲み干した俺は、買ったプリンアイスを食べ始める。その横を歩いていた四季咲はこんな事を聞いてきた。


「随分仲良さそうだったけど、君はあの子とお付き合いしてるのか?」


「そんな関係じゃねえよ、ただのクラスメイトだよ」


 俺は"一匹狼"の本名さえ知らない。

 今の今まで名前を聞く機会がかかったから当然なのだが、俺は彼女と顔見知りなだけでそれ以外の事を何も知らないのだ。

 まあ、同じクラスになったんだ。

 否応なしに知る機会が訪れるだろう。

 今がその時でなかった、ただそれだけの話。


「知り合いにしては随分仲良さそうに見えたぞ。ちゃっかりデートの約束もしてたしな。私には君らが恋人同士に見えたぞ」


 プリンアイスを食べながら、俺は顔を顰める。

 ただ話していただけなのに、何でそう見えるのだろうか。


「もしかして、お前、小中高ずっと女子校通ってたのか?」


「ん?そうだが。それが何か問題でもあんのか?」


「いや、恋愛価値観が小学生で止まってるなって。ほら、小学生って男と女が話しているだけで男女の関係だって囃し立てるじゃんか。それと似ているというかなんというか」


 プリンアイスを齧りながら、彼女の恋愛精神年齢が小学生と同レベルな事を指摘する。


「なっ……!?それはあまりにも言い過ぎではないのか!?」


 彼女は心外と言わんばかりに頬の肉を揺らしながら反論する。


「いいか、四季咲。俺が通ってた中学なんか、恋人同士じゃなくても普通に○○○○やってたんだぞ」


「なっ!?」


 ○○○○の話が出た途端、彼女は脂肪塗れの頬を真っ赤に染め上げる。


「そ、それは乱れ過ぎではないのか!?というか、その行為は男女にとって究極の行為だろ!?それをやっても恋人じゃないなら何をやったら人は恋人同士になれるんだ!?」


「○○○○○○○○」


「それ恋人通り越して夫婦になっちゃうだろ!?」


「まあ、要するに○○○○○○○○してない男女は恋人関係じゃないって事だ」


「流石にそれは言い過ぎだろ!?プラトニック・ラブという言葉があるくらいだ!清くお付き合いしている男女だっている筈!!」


「それは漫画だけの世界だ。俺の母校の中学校だと、男女の関係になった奴は須く○○○○○○○○してた」


「須くを誤用してるぞ!!須くは"当然、ぜひとも"という意味だ!決して全てとか皆とかいう意味ではない!というか、そんな子どもができる真似を中学生がしていいのか!?まだ責任取れる年齢ではないだろう!?」


「大丈夫、殆どのやつが中学中退して子育てに励んでいるから。俺が昔好きだった近所の姉ちゃんも幼馴染も全員中2の時に腹ボテ状態になっているから。でも、大丈夫。姉ちゃんも幼馴染も誰の子か分からない子どもを育てているから。ちゃんと産んだ責任は取っているから」


「そういう問題なのか……!?いや、責任取ってるから、そういう問題なのか……あれ?そういや、私達は何の話をしていたのだ……?」


「愛を育むのは大変だって事だ」


「そういう話ではなかったような気がするんだが!?」


 彼女は衝撃を受けている割にはどこか楽しそうな態度だった。

 数時間前の暗い雰囲気が嘘みたいだった。

 俺は彼女の気を紛らわせた事を確信し、ちょっとだけ安堵する。


 いつの間にか隣町と隣の隣町を分ける河川敷まで到着していた。

 夜の河川敷は夕方来た時と違い、恐ろしいくらい静まり返っていた。

 遠くから聞こえる筈の車のエンジン音も民家から漏れる生活音も一切聞こえない。

 唯一聞こえるのは川のせせらぎと蹄の音のみ。

 導かれるように俺達は蹄の音が聞こえて来る方向に視線を向ける。


「待っていたぞ、ジングウツカサ。さあ、果たし合おうではないか」


 隣町と隣々町とを繋ぐ橋の上にいたのは、半人半馬の化物ケンタウロスだった。


 新しくブックマークしてくれた人、評価してくれた人、ありがとうございます。

 この場を借りてお礼申し上げます。

 そして、いつも読んでくれている人、変わらずブックマークしてくれている人達にも感謝の意を申し上げます。

 本当にありがとうございます。

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