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4月9日(14) 俺のプリン食べないでくれる?の巻

 コンビニで買った大量のおにぎりを食べ歩きしながら、俺は聖十字女子学園へ向かう。

 そんな俺の背後を四季咲はこそこそしながら尾けていた。


「そんなコソコソするくらいなら堂々とついてくりゃいいだろ」


 おにぎりを食べながら、電柱の裏に隠れる彼女に声を掛ける。


「……気づいていたのか?」


「俺、結構人の気配とか視線とか感じとるの得意なんだよ。何せ夜道歩いているだけで後頭部殴られるからな」


「……知れば知る程、君という人間が分からなくなる。一体、どういう人生を歩んでいたら、夜道を歩くだけで殴られるような人間になれるんだ……?」


 どうやらお嬢様学校に通っている生徒にとって、不良達の常識は彼女達にとって理解し難いらしい。


「喧嘩を買いまくったら俺みたいなロクでなしになれるよ。……で、何でついてきたんだ?別に俺は無敵って訳じゃねえんだぞ。俺よりも啓太郎達についてた方が安全と思うんだが……」


 梅おかかを頬張りながら、彼女に俺から離れろと暗に告げる。


「君1人に任せられる訳がないだろ!?これは魔女を止められなかった私の責任でもある!無関係である君に任せて、私だけ安全圏に避難する訳にはいかない!!」


「もう関係ないって訳じゃねえだろ。故意的じゃないにしろ、あいつらから人の形を奪ったのは殆ど俺の所為だからな」


 もし俺が彼女達を倒さずに逃げていれば、彼女達は魚擬きの姿にならずに済んだだろう。

 いや、もしかしたら逃した罰として姿を奪われていたのかもしれない。

 まあ、どっちにしろ、俺の行動が彼女達を苦しめた事には変わりないのだ。

 だから、俺は彼女達を救う義務がある。

 まあ、ここまではいつもの如く建前だ。

 俺は彼女達も四季咲も見捨てたくないだけ。

 ただ誰かのために走りたいだけだ。

 人の形を失ったあいつらも四季咲も助けたい。

 彼女達を見捨てるような大人になりたくない。

 ただそれだけの理由で俺は動いている。

 ──立派な大人になりたいだけなのだ、俺は。


「だから、そろそろ教えてくれ。何でお前がこの事件に巻き込まれたのかを」


 1週間前、俺は事情を聞かなかったが故に守るべき対象である美鈴を追い詰めてしまった。

 最初、俺は事情を聞かない事が彼女のためだと過信していた。

 それが逆に彼女を追い詰めてしまった訳で。

 だから、俺は四季咲に聞かねばならない。

 四季咲が事情を説明しない自分を責めないようにしなければならない。

 

「嫌なら話さなくていいぞ。お前の人生はお前だけのものだからな」


 ちゃんと逃げ道を用意する。

 四季咲が自分を追い込まなくて済むように。

 彼女は一瞬だけ地面を俯くと、渋々ながら口を開いた。


「……いや、話そう。私の所為で君は巻き込まれたんだ。……君には聞く権利がある」


 とりあえず、俺は彼女を連れて公園へ移動する。

 本当は一刻でも早く魔女の所に行きたい。

 行って魔女の顔面を思いっきり殴りたい。

 殴りたいんだが、今の彼女が抱えている思いを踏み躙る訳にもいかない。

 俺は何よりも自分の思いを大切にしようと決めている。

 しかし、自分を優先させた結果、彼女が傷つくのなら自分の思いを一旦抑えねばならない。

 他人の思いを大事にできない奴が自分の思いを大事にできるとは思えないから。

 ただ、それだけの理由で俺は心のブレーキを思いっきり踏む。

 遊具が1つもないジョギングコースしかない公園に辿り着いた俺達はベンチに座る。

 俺は買っておいたおにぎり十数個を食べながら、彼女におにぎりが入ったビニール袋を差し出す。


「ほら、これ食べろよ。腹減ったら何もできなくなるぞ」


「いいのか?」


「どうせ啓太郎の金で買ったもんだし」


 彼女は昆布おにぎりを手に取る。

 そして、おにぎりを手で弄びながら、何故自分がこのような状況に陥ったのか話し出した。


「4月5日の事だった、私があの魔女と会ったのは」


 彼女の話をまとめるとこうだ。

 4月5日──俺が神様と闘った翌日──、四季咲は生徒会の仕事をしに学校に来ていたらしい。

 その仕事の最中、魔女は唐突に現れた。


『お前の価値が欲しい』


 そう言って、魔女は彼女の容姿・経歴・頭脳・家族・地位を根刮ぎ魔法で奪ったそうだ。

 それでも、彼女は折れる事なく魔女に刃向かったそうだ。

 結果、彼女は性別さえも奪われ、無様で無価値な存在に成り下がったそうだ。

 そして、彼女は魔女の凶行──他の生徒達の価値を奪う行為──をただ眺める事ができなかったらしい。

 それでも、彼女は生徒会長として魔女から奪われたみんなの価値を取り戻そうと、4日間闘い続けた。

 たった1人で。

 誰の力も借りずに。

 けど、魔法という未知の力を使う魔女に太刀打ちできなかったそうだ。


『女装した変態が女子校のゴミ捨て場にいたら、世間はどう思うのかしらねえ』


 敗北した彼女は魔女の手により、古びた跳び箱の中に閉じ込められた。

 魔女が彼女を箱の中に閉じ込め、ゴミ捨て場に捨てたのは彼女を社会的に抹消するため。

 彼女を女装した変質者として、処理するための嫌がらせだったらしい。

 多分、あの時、俺が跳び箱を割ってなかったら、彼女はゴミ業者に見つかってただろう。

 そして、住所不定の変態として社会的に抹消されていただろう。

 話を聞いているだけで、魔女とやらの性格の悪さが分かる。


「私は生まれた時から恵まれていた」


 彼女は目に涙を溜めながら、俺が差し出したおにぎりを食べ終わる。

 すると今度は楽しみに取っておいたプリンに手をかけた。


「欲しいものは何でも手に入った、親が金持ちだから。ちょっとの努力で簡単に結果を得た、親が優秀だったから。ちょっと愛嬌を振り撒くだけで誰からにも愛された、親から受け継いだ容姿が良かったから。……私は人と比べて恵まれ過ぎていたのだ」


「あのー、四季咲さん?それ、俺が買ったプリンなんだけど。啓太郎の財布の都合で1つしか買えなかった食後のデザートなんですけど?」


「私は十分過ぎる程、幸せな人生を送った。だから、今、私に振り返る不幸は当然の事だ。今まで生まれが良かっただけで、何の苦労も苦しみもなく過ごしてきたのだからな。私は不幸になるべくしてなった人間だ。しかし、他の生徒達は違う。彼女達は私と違って、苦労も苦しみも味わってきた。自分の手で、自分の足で、結果を掴み取った人達だ。彼女達は幸せにならなきゃいけない。だから、私はこの命を賭してでも、彼女達を魔女の手から救わなければならないのだ」


 俺のプリンを食べながら、感極まる四季咲。

 俺は食後の楽しみとして、取っておいたプリンを食べられ、それどころじゃなかった。


「だから、頼む。私も一緒に連れて行ってくれ。邪魔はしない。このまま何もせずに待つ事だけはしたくないんだ」


「うん。それは良いけどさ。お前が食べてるそれ、俺のプリンなんだけど。俺が楽しみに取っといたプリンなんだけど」


「ああ、大変美味だった」


「よっしゃ、腹出せ。もう1度フルコンボ叩き込んでやるポン」


 大体、彼女がこうなった原因は分かった。

 だが、彼女はどんな思いで4日間闘ったのかは語らなかった。

 多分、俺に気を遣ったからだろう。

 ただの挫折の話を聞かせて、俺に余計なストレスを抱えさせたくなかったのだろう。

 俺が彼女のジャージの下で眠っている三段腹を呼び起こそうとしていると、公園に肉塊を引きずるような音が響き始める。

 俺と彼女は反射的に音源の方へ振り向いた。

 そこには全長10メートル級の半人半蛇の怪物"ラミア"がいた。

 上半身の身体は聖十字女子学園の制服を着込んでおり、彼女が魔女により姿を変えられた者である事が推測できる。


「優香里……」


 四季咲は目の前の怪物と知り合いらしく、彼女の名前を呆然とした様子で呟いた。

 余程、目の前の怪物が信じられなかったのだろう。

 四季咲の表情には深い絶望が刻まれていた。


「……こんばんは。元会長、そして、ジングウツカサ。女王様の命で貴方達を殺しに来ました」


──かくして、第2戦目が始まろうとした。


 いつも読んでくれてありがとうございます作者の"あけのぼのりと"です。

 今まで1日3話投稿していましたが、明日からは1日1話投稿に変更します。

 本当に申し訳ありません。

 これからもよろしくお願い致します。

 


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