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4月9日(13) VS魔法を使うお嬢様の巻

 啓太郎のゴーサインと共に、俺は光弾が飛んで来た方向に向かって駆け始める。

 土煙の向こう側──交番前にある田畑にいたのは聖十字女子学園の制服を着た女の子達だった。

 飛んでくる魔弾を避けながら、俺は彼女達との距離を詰めていく。

 そして、走りながら敵の実情を把握する。

 目の前にいる女子高生達の数はざっと見、20人程度。

 彼女達はみんなアンティーク調のナイフを持っていた。

 あのナイフは見覚えがある。

 金郷教の魔法使い達が使っていたナイフだ。

 多分、魔女とやらが彼女達に奪った力を託したのだろう。

 

「なっ!?あの魔女とやら、奪った力を他人にやる事ができるの!?そんな魔法聞いた事ないんだけど!?」


 遠くから鎌娘は20人近くいる彼女達──いや、魔女の力に絶句する声が聞こえて来た。


「彼女達が本当に魔術を使えるのなら危険です!!ここは逃げるべきです!!」


 現在進行系で魔術を使えないキマイラ津奈木は戦略的撤退を呼びかける。

 すると、拡声器を通して、啓太郎の声が聞こえて来た。


『あー!あー!マイクテスマイクテス、えー、聞こえていますかー?僕は警察だ。それ以上、魔術を行使するなら器物損壊、傷害罪で君らを逮捕す──』


 彼女達は啓太郎の警告に構う事なく、光弾をぶっ放す。


「啓太郎っ!!」


 啓太郎は情けない回避の仕方で何とか光弾を避けた。


『どうやら彼女達に国家権力は通用しないようだ!司、後は任せた!!』


「なら、余計な事せずに最初から俺に任せとけよ!!」


 俺は魔術を行使しようとする彼女達目掛けて再び走り始める。


「無茶です!!今の彼女達は小さい軍隊なら即座に壊滅できる力を持っています!!丸腰で突っ込むのは無謀過ぎる!!」


 キマイラ津奈木が何か言っているが、全部無視。

 こういうのは後手に回ってたら、厄介な事になってしまう。

 なら、厄介事は処理できる時に処理するべきだ。

 彼女達は迫り来る俺にナイフの鋒を向けると、一瞬だけ躊躇いを見せる。

 だが、一瞬で覚悟を決めると、持っていたナイフを輝かせ始めた。

 

「女王の命の下、四季咲元会長を回収させて頂きます」


 これからの行為を正当化するように呟くや否や彼女達は俺目掛けて光弾を発射し出した。

 1発でも当たれば爆死しそうな光弾が頬を掠める。

 それでも、俺は構う事なく突っ走った。


「うおおおおおおおお!!!!」


 時速100km/hくらいの勢いで接近する光弾の嵐を掻い潜り、俺は彼女達との距離を確実に詰めて行く。

 雨のように降り注ぐ光弾は地面に直撃する度にその身を爆散させた。

 骨の髄にまで響き渡る爆音を受けながら、俺は懸命に足を動かす。

 爆風により地面から引き剥がされた土砂が、俺の身体に直撃する。

 その度に激痛が脳を揺さぶった。

 俺は身体から発せられる痛みに耐えながら、光弾が作った爆煙の中を駆け抜ける。

 砲撃は爆煙により四方八方見えなくなる頃には止んでいた。

 多分、俺が何処にいるのか分からなくなったからだろう。

 攻撃が止んでいる間に俺は爆煙の中を通り抜ける。

 そして、やっとの思いで、俺は彼女達の元へ辿り着いた。


「この距離なら、迂闊に魔法を使えねえよな……!!」


「ひぃ……!」


 彼女達が短い悲鳴を上げている隙に俺は右の拳を握り締め──1度閉じた拳をまた開いた。

 拳が届く距離まで迫る事ができた俺は1番近くにいた女子生徒の顔面に張り手を叩き込む。


「ぐぶっ……」


 俺の張り手をまともに喰らった彼女は白目を剥くと、その場で気絶してしまった。


「「「「なっ!?」」」」」


 20数名の驚きの声が夜の田畑に響き渡る。

 多分、自分達が殴られるなんて考えもしなかっただろう。

 俺はそのままの勢いで呆気に取られていた彼女達を次々に張り手を喰らわす。

すると、遠くの方から四季咲の声が聞こえてきた。


「頼む!その子達は魔女に強要させられているだけなんだ!!殴らないでくれ!!」


「大体承知っ!」


 殴らないでくれと頼まれたので、俺は近くにいた短髪の女子高校生にローキックを浴びせた。


「いや、そういう意味じゃなくて!!」


 蹴りも禁止させられたので、仕方なく、今度は近くにいたおさげの女子高校生を投げ飛ばす。


「投げ技ならしていいって事ではない!!」


 投げ技も禁止させられたので、サイドテールの女の子の額に頭突きした。


「頭突きもダメだ!!」


 今度はプロレス技である脳天砕きをツインテールの女の子に披露した。


「プロレス技も禁止!!」


 絞め技、寝技、飛び技、浴びせ技、思いつく技を片っ端からナイフを持つ女子生徒達に浴びせる。

 全ての技を禁止された頃には、魔法使い擬きである彼女達は白目を剥いて気絶していた。


「よっし、片付いたぞ」


 手についた土を払いながら、地面に伏せている女子生徒達を一望する。

 彼女達は全員白目を剥いて気絶していた。

 いつの間にか俺の近くまで駆け寄っていた四季咲が、この惨状を見るや否や項垂れてしまう。

 俺は彼女の肩を叩き、こう言った。


「どんまい」


「君がそれを言うか!?」


「大丈夫だって。峰打ちだから」


「人間の身体に峰という箇所はない!!」


 彼女は両手を振り上げ、プンスカ怒り出す。

 だが、俺の頬についた傷を見た途端、彼女は表情を曇らせてしまった。


「……すまない、君は私を……いや、私達を守ってくれたというのに……」


「そんなの気にするなって。知り合いが殴られたんだ、怒るのは当然の反応だ」


 本当は四季咲の言う通り、殴らないという選択を取りたかった。

 が、彼女達は俺や啓太郎達殺す気満々だったため、暴力で止めるしかなかったのだ。

 とりあえず、魔女とやらの情報を引き出すため、1番近くで倒れている女子生徒を叩き起こそうとする。

 俺が動き出そうとした瞬間、彼女達の身体は影みたいなものに覆われた。


「ぐ、があ、あああああああ!!!!!」


 彼女達は人目を憚る事なく、喉が張り裂けるような勢いで悲鳴を上げ出す。

 彼女達を覆う影の中から生々しい肉の音が聞こえてきた。

 俺は急いで影の中から彼女達を救い出そうと手を伸ばす。

 俺が影に触れようとした途端、彼女達を覆っていた影は跡形もなく消え去ってしまった。


「な、……嘘、だろ……」


 四季咲の悲鳴に似た呟きが背後から聞こえる。

 彼女が絶望するくらい、影の中に囚われていた女子高校生達は悲惨な姿になっていた。


 彼女達は人の形を失っていたのだ。

 今の彼女達の姿は魚の形をした人と言ったら分かりやすいだろう。

 腕は赤ん坊のよりも短くなり、2本の足は1つに纏まっている。

 顔も魚のような間抜けなものになっており、とてもじゃないが見ていられなかった。

 ただの肉塊と言っても過言じゃない彼女達を見て、思わず絶句してしまう。

 魔法というものは、ここまで人間の尊厳を貶しめる事ができるのか。

 まな板の上の鯉みたいに動く事しかできない魚擬きの彼女らを見て、ふつふつとまだ見ぬ魔女とやらに怒りを滾らせる。

 すると、突如、何の前触れもなく、四季咲は急に自身の頭を押さえ始めた。


「なっ……!?何だ、この声は!?」


 いつの間にか俺達の近くまで駆け寄って来ていた啓太郎、鎌娘、そして、キマイラ津奈木も頭を押さえ出す。


「これは、……女性の声……!?」


「おい、啓太郎!?どうしたんだ!?」


「恐らく、情報伝達魔術です!何者かが私達の頭に直接話しかけているんです!」


「この声、聞覚えがあるわ……!私達から魔法の力を奪ったあの女よ……!!」


「え?何!?お前らなんか感じ取ってんの!?俺、何も聞こえないんだけど!?」


 何処からか電波を受信した彼等はそっちの方に意識を傾ける。

 そんな怪電波を受け取っていない俺は狼狽える事しかできなかった。


「おい、一体何が起きて……」


「司、今は黙ってろ!今、何言ってるのか分からなくなる……!!」


「本当、今だけ黙ってて!!今、大事な所なんだから!!」


「……はい」


 啓太郎と鎌娘にガチのトーンで怒られた俺は魔女とやらの話が終わるまで、体操座りの状態で待ち続ける。


「………、そんな」


 電波の受信が終わったのか、四季咲は絶望感に満ちた声色で呟くと、その場にへたり込む。

 啓太郎は特にいつもと変わらない素振りで、俺にこう言った。


「司、魔女からの伝言だ。"そこに転がっている彼女達を人間に戻して欲しければ、キマイラ津奈木達の力を取り戻したければ、そして、四季咲楓を元の姿に戻して欲しければ、聖十字女子学園に来い"っさ。どうする?」


「大体承知。んじゃ、ちょっくら魔女の所に行ってくる」 


 立ち上がった俺はすぐさま行こうとする。だが、俺の行動は制服の袖を掴まれた事で中断させられた。


「待て!危険だ!!わざわざ場所を指定するとか罠以外の何者でもない!何か思惑があって、君を呼び出した筈だ!!」


 四季咲は女子高に向かう俺を言葉だけで引き留めようとする。


「大丈夫だって、俺が何とかするから。罠だろうが何だろうが、全部まとめてぶっ壊せばいいだけだし」


「筋金入りの脳筋なのか、君は!?」 


 俺の選択が納得いかないのか、彼女は袖を離そうとしない。

 そんな彼女を鎌娘はあっけらかんな表情で諭そうとする。


「いや、こいつなら余裕っしょ。だって、小さい軍団1つ潰せるこいつら瞬殺できたんだし。私的にはさっさとこいつに魔法の力を取り戻して欲しいんだけど」


「君は自分の事しか考えないのか!?」


「私も四季咲さんと同じ意見です。もう少し慎重になって動くべきだと考えます」


「じゃあ、その慎重になって動いている間、あの子達に我慢してもらうのか?」


 魚の形と化した彼女達を指差す。彼女達は口を懸命に動かしながら、何か俺に伝えようとする。

 その姿はとても儚げで惨めだった。


「魔女がどういう奴か、魔女が何を言っていたのか、どういう事情で何が起きているか、俺は全く知らない。けどな、今、目の前で苦しんでいる人がいるんだ。こいつらがこんな姿になったのは俺の所為でもある。なら、さっさと助けた方が良いだろ」

 

 魚擬きにさせられた彼女達の瞳から涙が零れ落ちる。

 それは救いを懇願しているようにしか見えなかった。


「それはなんの考えもなしに突っ込む理由にはなり得ません。それこそ敵の思う壺です」


「大丈夫だって。俺、かなり運が良い方だから」


「……運が良い人はこんな立て続けに魔法絡みの事件に……しかも魔法使いや魔術師から見ても異常な事態に巻き込まれたりなんかしません」


「いや、こいつの場合、巻き込まれるんじゃなくて巻き込まれに行ってるんでしょ」


 キマイラ津奈木と鎌娘の呆れた声が聞こえて来るが、全部無視する。

 誰に言われようが、俺は運が良い方なのだ。

 それに罠だろうが何だろうが、受け身になったり、迷ってたりする方が敵の思う壺だ。

 俺はもう金郷教騒動の時みたいに逃げたり、迷ったりなんかしない。

 そうしている間に、どんどん不利な状況に追い込まれるから。

 袖を掴む四季咲の手を振り払った俺は、魔女の下に行こうとする。


「んじゃ、ちょっと魔女とやらと喧嘩して来る」


 俺との付き合いがそこそこ長い啓太郎はこうなる事をある程度予想していたのか、特に驚く事なく俺の言い分を受け入れた。


「そう言うと思ったよ。なら、これを持って行くといい」


 彼はポケットからワイヤレスイヤホンみたいなものを取り出す。


「通信用の魔術イヤホンだ。これを嵌めているだけで遠く離れていても僕らと会話可能になる」


「ん?キマイラ津奈木も鎌娘も魔法の力奪われたんだろ?これ使えるのか?」


「魔力までは奪われていないからね。僕らはあの魔女に手も足も出す事はできないが、口だけは出す事ができる。何か魔法とか分からない事があったら、このボタンを押すといい。僕らはファミレスで美味しいものを食べながら、君の帰りを待つ事にするよ」


「知識よりも食糧をくれ。話はそれからだ」


 ファミレスという単語を認知した途端、今の今まで忘れていた空腹が押し寄せて来る。


「慎重に動いている暇はないんだろ?なら、さっさと行くんだな」


「はあ!?お前、腹が減ったら戦はできねえって諺知らねえのか!?手も足も出ないけど、口と金だけは出せるだろ!?」


「知ってたか?僕は魔女に手も足も出ないと言ったが、君には口だけではなく手も足も出せるんだぞ」


「喧嘩売ってるのか?なら、遠慮なく買ってやるぞ?」


「ふっ、君や雫さんの影に隠れていたが、僕もやる時はやる男なんだ。たかが高校生如き、暴力で黙らせる事なんて動作もない」


 啓太郎はへっぴり腰でシャドーボクシングを始める。


「上等だ、オラ!俺が勝ったらお前の財布奪ってやるからな!!」


「はっ!奪えるものなら奪ってみるがいい!言っとくが、僕は柔道剣道書道全部初段だからな!!おしっこチビっても知らないぞ!!」


 かくして、第1戦目である俺と啓太郎の闘いが何の脈絡もなく始まった。


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