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4月9日(11)魔法陣はどこにある?の巻

 ギャーギャー喚く寮長を置いて、俺はこの場から離れる。


「……いいのか?君のとこの寮長、怒り狂ってるぞ」


「いいの、いいの。もう既に門限破りしてるし。今更罪が1つ2つ増えた所で変わりないって」


「いや、結構変わると思うんだが……」


 彼女の太い手を引いて、とりあえず俺は寮から離れる。

 そして、誰も通らない裏道に彼女を連れ込んだ。


「じゃ、とりあえずこれを着てくれ。これなら勘違いされなくて済むだろうからさ」


 持っていた布留川のジャージを彼女に手渡す。


「わ、……分かった」


 彼女は大きなサイズのジャージを見た途端、少しだけ傷ついたような表情を浮かべると、聖十字女子学園の制服を脱ごうとする。

 が、俺が視線を逸らさないのを見て、彼女は脱ぐのを中断した。


「……すまない。私を無条件に信じてくれた君にこんな事を言うのは申し訳ないと思うが、……その、少しの間、私から目を逸らしてくれないか?」


「ん?俺に気を遣わなくてもいいぞ」


「いや、君に気を遣ってるんじゃなくて、君に気を遣って貰いたいんだが。……こんな醜い身体だが、一応、私は女の子なんだぞ?」


「大丈夫だ、そこら辺はちゃんと理解しているから」


「やっぱりタチが悪い!もしかして、君はB専って奴なのかい!?今の私の身体に欲情するタイプの変態さんなのかい!?」


「いや、そういう訳じゃなくてな。もしかしたら、お前の身体に魔法陣あるかもって思って」


「魔法……陣?」


 今から1週間前──4月1日から4月4日の間──、俺は魔法使いや魔術師を名乗る奴等と遭遇し、この目で魔法や魔術といった超常的な力を目の当たりにした。


 彼等の多くは魔法陣みたいなものを身体に刻んでおり、その魔法陣を妖しく輝かせる事で魔法を行使していた。

 そして、今の科学が蔓延る世界では考えられないような、まさにゲームやアニメでしか見られないような奇跡を俺はこの目で見たのだ。

 俺が彼女の話を嘘と切り捨てないのは、そういった摩訶不思議な力を実際にあるものだと認識しているのも一因である。


「俺も魔法とか詳しくないから、よく知らないけど、そういう摩訶不思議な力があるらしい。んで、俺もちょっと前までその摩訶不思議な力を扱える事ができたんだ。もしお前の身体に魔法陣みたいなのがあったら、もし俺がまだその力を扱えるんだったら、もしかしたら、その魔法陣を消せるかもしれない」


「……消せるのか?」


「分からない。けど、やる価値はあるだろ」


 俺もつい先日、一時的にだが、魔法や魔術に似た力を使えるようになった。

 その力の名はアイギスの籠手──全ての魔を退ける効果を持っているらしい神造兵器。

 あの力さえ使えれば、彼女を元の姿に戻せるかもしれない。

 あの時、目覚めた力を使おうとする。

 だが、幾ら踏ん張っても俺は魔法のまの文字さえ使う事ができなかった。


「どうしたんだ……?」


 右腕を乱暴に振る俺を見て、彼女は首を傾げる。


「ちょっとした確認だ」


 あの時の力があれば彼女が言ってた魔女の存在を証明できたかもしれない。

 けど、無い物ねだりした所で状況は好転しない。とりあえず、今できる事をやる事にする。


「じゃ、とりあえず目に見える範囲で良いから身体に魔法陣があるかどうか確かめてくれ。背中とかは俺が確認するからさ」


 それだけ告げて、俺は彼女に背を向ける。

 欠伸をしながら待っていると、彼女は俺に魔法陣があったと報告した。

 彼女の許可が出たから振り返る。

 すると、彼女の大きなお腹にマークみたいなのがついていた。

 彼女の脂肪だらけの腹に刻まれたマークは少しだけ発光しており、俺が先日見たのと同種の力が働いているのだろう。

 彼女が嘘を吐いていない事も確認できたため、俺は次の確認をする事にした。


「触っていいか?」


 彼女の確認を取り、俺は右手──不思議な力が宿っていた腕──で、彼女の腹に触れる。

 だが、うんともすんとも言わなかった。どうやら俺はあの摩訶不思議な力を失ったらしい。

「ど、どうだった……?」


「悪いな、ぬか喜びさせて。どうやら不思議な力は発動しないみたいだ。と、言うかさっぱり分からん。けど、俺の知り合いにこういうの詳しそうな奴がいるから、今からそいつにこれの事聞きに行こうぜ」


 宗教関係について詳しいバイトリーダーと先週遭遇した魔法使い・魔術師達の顔を思い浮かべる。

 1番正確に魔法陣を解析できるのは後者だろう。

 とりあえず、彼等と連絡を取るために桑原交番に行く事にする。


「本当にこれをどうにかできるのか……?」


「さあ?その可能性があるだけで絶対とは口が裂けても言えない。けど、大丈夫だ。俺がなんとかしてやるから」


 暴力は何も生まないが、大抵の事は解決できる。

 だから、彼女に魔法をかけた奴を殴り飛ばせば、彼女の腹にある魔法陣は消えるだろう。

 彼女は布留川のジャージを羽織りながら、俺に質問を投げかける。


「君も、……本当にあの魔女と同じ力を持っているのか……?」


「あの魔女が誰なのか知らねえけど、魔法や魔術に似た力は"持っていた"。まあ、今はもう使えないみたいだけどな」

 

 あの力は思い通りの力を持っていた頃の美鈴から授けられたものだ。

 恐らく美鈴が力を消失した所為で俺もあの摩訶不思議な力を扱えなくなったのだろう。

 不便ではあるが、まあ、何とかなるだろう。

 五体満足なら何処にでも行けるし、何でもやれるから。


「……そうか」


 彼女はホッとしたような表情を浮かべる。

 まるで俺が魔法を扱えない事を喜ぶかのように。


「てか、そろそろ落ち着いたんなら事情を教えてくれよ。あの魔女って何だよ?何でお前はそんな魔法にかけられたんだ?」


 着替え終わった彼女は悲痛そうな顔をすると、胃を決したように重い口を開き出した。


「……4月5日の事だった。私があの魔女と会ったのは」


 俺の腹から物凄い音量の唸り声が聞こえて来る。そういや、夜ご飯食べていなかったんだっけ。


「とりあえず、交番に行こうぜ。腹減った」


「何でそこでレストランではなく、交番がでて来るんだ!?もしかして、私を突き出すつもりか!?」


「いや、知り合いのお巡りさんにたかった方が安上がりかなって思って」


「そんな理由で交番行くの世界で君くらいだぞ!?」


 そんなこんなで、俺は彼女から事情を聞くのを再度保留にして、桑原交番に行く事にした。


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