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4月9日(10)振り返ると奴がいたの巻

 チビデブ男にしか見えない女子高生を連れて、俺は一旦寮に戻る。

 彼女が人目につくのを嫌がったので、俺は彼女の意思を尊重して人目のない裏道を選んだ。

 その所為で時間がかなりかかってしまい、寮に着く頃には既に日は暮れ、寮の門限もとっくの昔に過ぎていた。

 正確な時間は知らないが、多分、夜ご飯の時間は過ぎているだろう。


「じゃ、とりあえず俺の部屋からジャージ取って来るから、あんたはそこで待機してろ」


 まだ名前も知らない彼女にそう言うと、俺は寮の壁に張り付くように設置されている外配管を利用して、4階にある自分の部屋へと移動する。

 普段なら寮長に怒られる覚悟でロビーに突入するが、今回は人を待たせている。

 寮長からの有難い説教を貰う暇はないのだ。

 ベランダからは入れないため──いつも鍵を閉めて出て行ってるから──、布留川と伊紙丸の部屋のベランダに侵入しようとする。

 彼等の部屋のカーテンから灯りが漏れていた。

 話し声も聞こえるから、彼等は部屋の中にいるのだろう。

 特に躊躇う事なく、開けっ放しだった掃き出し窓をスライドさせ、部屋の中にいる布留川達に声をかける。


「ちーす、布留川。お前のジャージ貸してくれね?」


「お前は何処から入って来てんだ」


 部屋で宿題に勤しんでいた布留川と伊紙丸は驚いたような表情をしながら、ベランダから入って来た俺を眺める。


「そういや、ツカサン、晩飯の時おらんかったな。もしかして、また門限破ったんか?」


「ちょっと生徒会長の用事に付き合ってな。で、これから用事あるから一旦帰って来た」


「こないだ買いそびれたエロ本買うためにまた出るのか?」


「あー、あのダッチワイフ付きのな。ツカサン、今の時代、わざわざ買いに行かなくてもネット通販で買えるんやで。そんな事も知らへんのか?」


「何でお前ら、俺がエロ本買いそびれた事知ってんだよ!?秘密にしてたのに!!」


「そりゃお前の部屋の壁にかかっているカレンダーにエロ本の名前がデカデカと書かれていたからな。寮生みんな知っているぞ」


 布留川の言葉にうんうんと頷く伊紙丸。

 かなり初歩的なミスで俺のプライバシーが露出していた。

 やだ、かなり恥ずかしい。


「で、何で俺のジャージが必要なんだ?」


「ちょっと着替えが必要な奴が外にいてな。俺のジャージじゃ多分サイズ小さいだろうから、ビッグサイズのジャージが必要なんだ」


「どんな大男を待たせてるんや?」


「身長は伊紙丸と同じくらい小柄だよ。横幅は布留川と同じくらい大きい」


「未来から来た猫型ロボット待たしてるのかよ、お前は。ほれ、ジャージ」


 布留川は俺に大きなサイズのジャージを投げ渡す。

 俺は素直にそれを受け取ると、彼に感謝の言葉を告げた。


「あんがとな、この借りはいつか返す」


「返さなくて良いぞ。今日のお前の夕飯食べちゃったから」


「おい、今日って確かプリンの日だったよな?プリン食べたのか?お前、俺のプリン食べちゃったのか!?」


「美味かったぞ」


「色々言いたい事はあるが、それどころじゃねぇ。とりあえず、覚えてろ。食べ物の恨みは恐ろしいって事を教えてやる」


 俺はそそくさと彼等の部屋から退室する。


「あ、ツカサン!そういや、寮長が──」


 伊紙丸の話を最後まで聞く事なく、俺は自分の部屋に戻る。

 俺の部屋は電気が点いておらず、真っ暗だった。

 それもその筈。

 この部屋にはルームメイトがいないのだから。

 トイレと風呂が並んでいる廊下を通過した俺はリビングの戸を開く。

 中には案の定、誰もいなかった。


「とりあえず、俺もジャージに着替えるか」


 布留川のジャージを持ったまま、俺はいつ寮長が入って来ても逃げられるよう、ベランダの窓を全開しようとする。

 その時だった。

 突如、開けっ放しだった戸が独りでに閉まり出したのは。

 窓から入って来た月光のお陰か、窓ガラスには室内の様子が映り込んでいた。

 それにより、室内が現在どうなっているか窓ガラス越しで分かる訳で。

 だから、部屋の異変を察知できる訳で。

 まあ、何が言いたいのかと言うと、俺はガラス越しに見ちゃったのだ。


リビングの戸に隠れていた寮長の顔を。


 躊躇う事なく窓ガラスを打ち破った俺は、4階の高さから飛び降りる。

 そして、着地時に生じる衝撃を体の各部位に分散させる事で怪我なく着地した俺は、慌てて四季咲の下へ走った。

 

「だ、大丈夫かっ!?今、4階から飛び降りたように見えたんだが!?」


 外で待たせていた彼女は俺を心配するかのような声色で俺に疑問を呈する。


「じ〜ん〜ぐ〜ううううううう!!!!」


 俺の部屋から寮長の叫び声が聞こえて来る。

 血の気の引いた顔で寮長の方を見ると、俺の部屋のベランダに鬼のような形相をした寮長が立っていた。


「戻って来やがれええええええ!!!!今日という今日は許さねえからなあああああ!!!!」


 黙ってれば美人とよく言われる彼女は女子力の欠片もない雄叫び声を上げると、俺を目で殺せるくらいの勢いで睨みつける。

 そんな彼女に俺はこう言った。


「寮長ー!今日は帰って来るつもりないんで、俺の代わりに外泊届け出してくださーい!」


「んな事する訳ねえし、許す訳ねえだろ!!このボケがああああ!!!!すぐ戻って来おおおおい!!この寮則破りの常習犯!!じゃなきゃ、この世の地獄を見せる事になるぞおおおおおお!!」


「伝えたんで、俺もう行きますねー!」


「だから、許してねえって言ってるだろうが!!戻って来い、このんだがどっこい!!」


 ギャーギャー喚く寮長を置いて、急いで俺はこの場から離れた。

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