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4月9日(4)寮のロビーでの出来事の巻

「あ、お兄ちゃん」


 寮のロビーに辿り着いた俺の前に現れたのは、美鈴と生徒会長だった。

「お、美鈴。今日、退院だったのか?」


 西洋人形みたいな容姿をした少女──美鈴に声をかける。

 約1週間前、とある事情で新興宗教金郷教に追われていたこの少女を守るため、俺は魔法使いや魔術師と呼ばれる奴等と喧嘩し、最終的には神様と対峙する事になった。

 つい先日の事を軽く思い出しながら、俺は“よく生き残れたな”と心の中で思う。


「うん。だから、その報告を兼ねてここにやって来たの」


「1人で?」


「いや、途中までお姉ちゃんに送ってもらったよ。今、お姉ちゃんは寮長さんとお茶しててここにはいないけど」


 美鈴のいうお姉ちゃんとは俺の知り合い──元金郷教信者であるバイトリーダーの事を指す。

 詳しくは知らないが、金郷教騒動の後、美鈴はバイトリーダーに引き取られたらしい。


「そうなのか。で、何で会長と一緒にいるんだ?てか、会長、明日入学式だろ?準備しなくていいのか?」


「2人で貴方を待っていたんです。私もこの子も貴方に用があって、ここに来たんですから」


 反射的に背筋が伸びてしまうような凛とした声が俺の耳に届く。

 会長は少し前まで入院していたのが嘘みたいにシャキッとしていた。


「用って……何かあるんですか?」


「再来月末にある聖十字女子学園との合同合唱コンクールの打ち合わせです。その打ち合わせに同行してもらいたいと思いまして」


「打ち合わせ?こんな入学式前日にやらなくても……てか、どうして俺が?」


「私がまとめた書類や楽譜を持ち運んで貰うためです。今は生徒会にありますが、それが結構重くて。とてもじゃないですが、私1人では持ち運べなくて」


「タクシー呼べば良いじゃねえか」


「経費で落ちないので無理です」


「他の生徒会メンバーは?」


「彼等は彼等で入学式の準備があるので……もしかして、迷惑でしたか?」


「いや、全然。そういう事情なら荷物持ちでも何でもやりますよ」


「え!?お兄ちゃん、もう行っちゃうの!?昨日約束したじゃん!亀吉のお家買いに行くって!」


 亀吉とは彼女が山口の金魚掬い屋で掬い上げた亀の名前である。

 確かに俺は昨日、彼女と亀郎のお家である水槽を買いに行くと約束していた。


「それ、休日の話だったよな?」


「?そうだよ。え、もしかして、今日は休日じゃないの?」


 どうやら彼女は特殊な環境下で生まれ育った所為なのか、曜日感覚がないらしい。


「残念だが今日は平日だ。あと、2〜3回眠ると休日になるから亀吉の家は暫く我慢してくれ」


「だいたいしょうち」


 聞き分けの良い美鈴は聞いているこっちが気持ち良くなるような返事をしてくれた。

 俺らの一部始終を見ていた会長は戸惑いながら、俺と美鈴に質問を投げかける。


「あの、よろしいんですか?水槽を買いに行かなくて」


「良いっすよ。結局、元々休日に行く約束でしたし。それに、今から買いに行こうにも時間がありません。この辺りにはペットショップなんてないから、東雲市まで行かなきゃいけないし」


「なるほど。ここから隣の市まで電車で移動しても結構時間かかりますしね」


 会長も納得したようなので、俺は荷物が置いてある生徒会室へ向かおうとする。


「じゃあ、美鈴。明日辺りに電話するから」


「はーい。じゃ、私、お姉ちゃんの所に戻るね」


 そう言って、彼女は寮長の部屋に向かって走り出す。

 1週間前の悲痛そうな彼女の姿は何処にも見当たらなかった。

 それを見て、俺は安堵の溜息を吐き出す。


「神宮、どうかしましたか?」


 会長が不思議そうな顔をしながら、俺を見つめる。俺は簡単に答えた。


「いや、何も」


 

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