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4月9日(2)久しぶりの学校の巻

(2)

 4月9日木曜日。

 今日は大仏の日という何の記念日かわからない特別な日だそうだが、俺にとっては新学期翌日の日でしかないそんなある日の早朝。


 諸事情で4月8日に登校できなかった俺にとって、初めて高校2年生として学校に登校する特別な日であった。


「──今年こそ俺は勉強しまくって、立派な大人になるんだ」


 寮の自室にて身支度を整えながら、俺は新年度の目標を口に出す。

 前年度は全国各地のヤンキーから喧嘩を売られたり、通っている高校の不祥事に巻き込まれたり、ヤクザの抗争に首突っ込んだり、委員長の手作りという産業廃棄物を食べさせられたり、挙句の果てには新興宗教が不思議な力で神様を召喚した所為で、ろくに勉強できなかった。

 このままではロクな大人にならない。

 それどころか高校を卒業できないかもしれない。

 だからこそ、俺は高校2年生こそは勉強に明け暮れた日々を送らねばならないのだ。

 立派な大人になるために。


「俺はやればできる子。りぴーとあふたみー、俺はやればできる子」


 制服に着替えた俺は呪文を唱えながら、部屋の外へ。

 外に出ると、隣の部屋から出てきた大男──布留川と小男──伊紙丸と鉢合わせた。


「神宮、もう傷は良いのか?」


「ああ、もう完治した」


 ドヤ顔で胸を大きく張りながら、俺はVサインを彼等に送る。

 4月1日。

 俺は金郷教と呼ばれる新興宗教がやろうとした儀式を妨害するために走り回っていた。

 もし彼等が普通の人間だったら俺は入院する程の怪我を負う事はなかっただろう。

 しかし、彼等は普通の人間ではなかった。

 彼等は魔法使い或いは魔術師と呼ばれる特別な力を有した人間達だった。

 俺は1人の少女の命を守るため、そして、自分のため、特別な力を持つ彼等に喧嘩を売った。

 それの所為で、俺は電車事故に巻き込まれ、魔法で作られた土蛇に捕食されかけたり空中要塞に閉じ込められた挙句、教主を名乗る男に電撃ビリビリされ、ガラスの塔に潜む強敵(?)達と喧嘩する羽目になり、最終的には世界三大宗教の一つであるガイア教の神様と一戦交える事になった。

 ……何を言っているか自分でも分からないが、全部事実だ。

 俺は突如目覚めた不思議の力──神造武器とやらのお陰で、何とか事件を解決に導く事ができた。

 本当に解決できたのかどうかは分からない。

 もしかしたら、一連の事件はまだ続いているかもしれないし、そもそも始まってなかったのかもしれない。

 ただ、俺からしてみればあの事件は終わったもの以外の何者でもなかった。

 もしかしたら、第3者から見たら何も解決していないように見えるかもしれない。

 入院中、あの事件について何度か振り返ったが、色々分からない所だらけだ。

 元信者達は何で金郷教と敵対していたのか。

 何故、神様は突然現れたのか。

 まあ、終始蚊帳の外だったから仕方ない。

 加えて、俺は他の人の過去(ものがたり)にあまり興味はない。

 大事なのは今から。

 恐らく今後も金郷教騒動の全容知る事はないだろう、多分。

 そんな事を考えていると、伊紙丸は自分が過ごした春休みの事を聞いてもいないのに話し始める。


「ワイなんか折角の春休みだって言うのに何もあらへんやったで。強いて人に話せるんは、クラスみんなで花見した事しか思い出があらへん」


「俺も似たようなもんだな。部活してた記憶しかねえ」


「俺も似たような感じだぞ。そんな人に話せるようなイベントなんて何一つ起きなかった」


 春休みの思い出を思い返す。

 潰したヤクザの組の残党から喧嘩を売られた春休み初日。

 2日目は委員長のお料理教室に付き合わされこの世の地獄を垣間見、3日目から5日目は全国各地から全国制覇を目論む暴走族の長から喧嘩を売られたかと思えば、6日目は悪霊(?)と拳を交え、7日目から10日目は金郷教騒動。そして、11日目から13日目は暇で退屈な入院生活。

 ……とてもじゃないが、楽しい春休みとは口が裂けても言えなかった。

 昨日は昨日で元金郷教の信徒であった名もなき少女を助けるため、水の蛇を操る金郷教幹部とやらに喧嘩を売る事態に陥っちゃったし。

 本当、何かと殴り合う事が多い春休みだった。

 特に酷かったのが委員長のお料理教室。

 まさか委員長お手製の虫食料理を食わされるとは思いもしなかった。

 思い返すだけで吐きそうになる。


「あー、美少女との出会いが欲しいなあ。せや、今日の占い見るの忘れてもうてたわ」


 そう言って、伊紙丸はポケットに入れていたスマホを取り出すと、画面を凝視し出す。


「美少女じゃなくてもいいから、俺は女の子と付き合いたい」


 布留川は謙虚な願いを口に出す。

 俺はというと、彼女よりもこないだ買いそびれたダッチワイフ付きエロ本を心の底から欲していた。

 今日の放課後、ダメ元でエロ本を探しに行こう。

 そう決意しながら、学校目指して歩き始める。

 寮から出た瞬間、歩きスマホをしていた伊紙丸が興奮した様子で俺の肩を叩いてきた。


「見てみ、ツカサン!このアプリによると、魚座なツカサンは今週1週間美女に会えるチャンスがあるらしいで!!」


 伊紙丸は今流行りの占いアプリを俺に見せびらかす。


「おい、伊紙丸。俺はどうなんだ?」


「フルヤンの星座は……確か水瓶座やったな。恋愛関係は大人しく待てとしか買いてないで」


「待てってなんだよ。俺は生まれてこの方ずっと待ってるんだぞ」


「んなワイに凄まれても困るんやが。文句あるんならアプリの開発者に言わなあかんで。で、ツカサンは魚座やったな……げ」


「どれどれ……げ」


 布留川と伊紙丸はスマホの画面を見た途端、マズいものでも見たかのような声を上げる。


「げ、って何だよ。俺の運勢、そんなに悪いのか?」


伊紙丸のスマホに表示された俺の運勢に目を通す。

 このアプリは今週の運勢を100点満点で表しているらしく、俺の運勢は0点に等しかった。


「恋愛運3点で残り全部0点じゃねえか!?健康運は腹に気をつけろ。金運は思わぬ出費するかもで、仕事運は動かない方が吉!?唯一点数ついた恋愛運も"巡り合った美女に全財産奪われるかも!?美人局に要注意!"って、全然嬉しくねえんだけど!?」


「でも、総合運の方を見てみ?ほら、"沢山の女の子にハートを狙われるかも!?ラッキーアイテムは鎧だよ♪"だってさ。良かったやん、ツカサン!女の子にモテモテやで!」


「ぜってー、この文章的にハートって心臓の事だわ!だって、ラッキーアイテム鎧だし!これで心臓守れって事だろ!?え、何!?俺、今週1週間女の子に命を狙われる事になんの!?」


 他の星座も見る。

しかし、俺の星座である魚座が致命的に低いだけで、残りの星座は70点〜100点くらいの点数だった。


「このアプリ開発者は魚座に何か恨みでもあんのか!?」


「まあまあ、落ち着け神宮。占いは占いだ。お前は占いなんかに負けない力がある筈。だから、そんなに振り回されるな」


「布留川………」


 俺を励ます布留川の優しさに思わず涙目になってしまう。

 その時だった。

 俺の背後から凄まじい殺気を感じたのは。


「じんぐううううううう!!!!」


「うおっと!?」


 間一髪の所で後頭部に迫り来るドロップキックを躱す。

 ドロップキックを放ったのは1年の時同じクラスだった委員長──太刀川美子だった。


「あんたねええええええ!!弁当屋に私達の弁当取りに行くよう頼んでたじゃん!!なのに、何で当日すっぽかしたのよ!!??お陰で私達はお腹空かしたまま、花を見る事になったのよ!!!どうしてくれるのよ!!??」


「あ、そういやそうだったな。忘れてた、てへぺろ」


「忘れてたじゃないわよ!!この落とし前どうしてくれるの!?」


「いや、悪いとは思ってるんだけど……てか、何で委員長達は弁当取りに行かなかったんだ?弁当屋に行けば良かっただろ?何で空腹のまま花見してたんだ?」


「爆発事故の所為で弁当屋が焼けたからよ!あんたが約束通り朝イチに取りに行けば弁当屋が焼ける前に弁当を確保できたのに!!」


 爆破事故と聞いて、金郷教騒動を思い出す。

 知り合いのお巡りさん曰く、この辺りは魔法使い達が暴れた所為で爆破事故が相次いだらしい。

 まさか金郷教騒動の余波が委員長の所まで及んでいたとは予想だにしなかった。

 流石に罪悪感を抱いた俺は素直に謝る。


「メンゴ⭐︎」


「ぶっ殺す!!食べ物の恨みは恐ろしいと思い知れ!!」


 委員長は鉄板入り通学鞄を俺の額目掛けて振り上げる。

 俺はその攻撃を紙一重で避けると、慌てて学校に向かって走り出した。


「待てええええええええ!!!!食べ物の恨みいいいいいいいい!!!!」


 俺達が通っている高校は寮から徒歩10分の田舎道を歩いた先にある。

 何で寮と学校がこんな離れているのかは分からない。

 お陰で俺達は夏の暑い日も冬の寒い日も周りが田畑で囲まれているアスファルトの一本道を行き来しなければいけないのだ。

 学校の隣に寮を作らなかった設計者に一言文句言ってやりたい。

 学校の隣に寮があれば、俺は授業が始まるギリギリまで寝ていられるのに。


 暫く走っていると、改造学ランを着ている集団と鉢合う。

 俺の記憶が正しければ、この学校の番長を張っていると自称している何ちゃら先輩率いる不良集団だ。


「よお、神宮!ここで会ったのが100年目。こないだ受けた仕打ちは100倍にして返すぜ!」


 改造学ランの群れの中から猪みたいな外見のリーゼント男が出てくる。

 自称番長の子々野先輩──"桑原の黒猪"と名高い不良──だ。彼は拳を鳴らしながら、俺に睨みを効かす。


「番長、もう神宮の奴に喧嘩売るのを止めた方が……」


「黙れ!!あいつに舐められっぱなしだと番長としての格が保てねえだろうが!!」


「ひい!」


 子分達に汚い唾を飛ばしながら、奴は拳を構える。

 とりあえず通行の邪魔だし、相手もやる気満々だったので遠慮なく殴り飛ばす事にした。


「邪魔だ!!」


 すれ違い様、自称番長の顔面に右ストレートを叩き込む。

 俺の1撃を受けた自称この学校の番長は1発で気絶してしまった。


「「「番長おおおおおおおお!!!!」」」


「邪魔よ!!」


「「「ぎゃあああああ!!!!!」」」


 俺の後に続いて、鉄板入り通学鞄を持った委員長が何も悪い事をしていない子分達を蹴散らしてしまう。

 可哀想に。

 もしかしたら、あいつらも俺と同じ魚座なのかもしれない。


 そんなこんなで、俺は委員長の怒りが収まるまで逃げ続けた。

 彼女の怒りがようやく収まったのは──今日の学食を奢るという条件を取り付けた事で怒りは何とか収まった──、朝のHRが始まる直前だった。



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