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4月4日(4) 「あんたじゃ俺には勝てねぇよ」の巻

 鳴り響く轟音を肌で感じた途端、俺の視界は真っ白に染まり上がる。

 視覚も聴覚も麻痺したため、今自分がどのような状況に置かれているのか把握できなくった。

 全身に広がるヒリヒリした痛みと右腕に走る激痛のみが今の自分の状態を教えてくれる。


(奴は……今、どうなっている……!?)


 俺の疑問に答える者はいない。

 掌に広がる地面の感覚が俺の現在地を教えてくれる。

 どうやら俺は地面に落ちたようだ。

 高さ100数メートルから落下した割には、痛みは殆ど感じない。

 多分、キマイラ津奈木か鎌娘が地面に直撃しそうな俺を助けてくれたのだろう。

 これなら、まだ走り回れる。

 四肢に力を入れ、何とか立ち上がると、霞んだ視界に無傷の美鈴の姿が映り込んだ。


「標的を■認。■■を持つ危険分■を排除するための方法を再演■。再■算。再■■。■■■、■■■、■■■、■■■──!!」


 壊れたスピーカーのように美鈴の身体の中にいるガイア神はノイズを吐き出す。


(さっきの攻防で中身が殆ど出てしまったのか……?)


 奴がバグった理由を考えていると、突如、奴は白銀のオーラを見に纏う。


(何をするつもりだ……!?)


 俺の疑問に答えるが如く、奴は翼を羽ばたかせると、宙を滑走し始める。

 迫り来る桁違いのエネルギーを纏ったガイア神に俺は右裏拳を浴びせた。技術も作戦も計略も理性もなく、ただ本能に身を任せるがまま突進して来た奴は俺の打撃によって、無様に地面を転がる。


(もしかして、中身が出てしまったからバグったのか……!?)


 何故、奴が壊れたのかは分からない。

 けど、再び奴が思考の読めない危険な災害と変わり果てたのは確かだ。

 否、今のやつは最初期の意思なき災害とは違う。

 今は災害級の力を持つ赤ん坊だ。

 意思はあるが、思考はない。

 意図はあるが、理性がない。

 本能任せに動くただのの赤ん坊。

 それが今の奴だ。


「■■■■■■■■■■■」


 意味のある言葉を話す事なく、ガイア神は我武者羅に腕を振り回す。

 癇癪を起こした子どもみたいな動作だ。

 どれだけの破壊力を秘めていようが、拙い動きの拳では俺を傷つける事は敵わない。

 紙一重で腕を避けながら、俺は奴に張り手を浴びせる。

 美鈴の身体はとても軽く、たった1発受けただけで吹っ飛んでしまった。

 たった一撃殴打を加えただけで俺の右腕に激痛が走る。多分、骨に罅が入っているのだろう。


「理解…….ふのう……りかい、ふのう……りかいふのう……」


 右腕を押さえながら、仰向けに倒れるガイア神を睨みつける。

 奴は唸り声のような独り言を呟くと、妖しく目を輝かせながら起き上がる。

 奴の瞳に再び理性の火が灯った。


「……現状を改めて認識。我が名は第4人類始祖直属大天使ガイア。我は預言者テーベが起こした歴史改変を正すもの。──再演算。正しき歴史を再俯瞰──再演算。正しき歴史にいないものを複数人確認。──再演算。正しき歴史に戻すため、元凶である■■■の排除を最優先します。──現状把握完了、使命再確認、破壊対象183万6528人&神宮司。■■■■の■である■■■の破壊を最優先します。パターン2652『最終断罪』を中断。パターン33333『豊穣の女神』に移行』


 空を埋め尽くす黄金の光塊が地上にいるガイア神に降り注ぐ。


「ぬおっ……!!」


 ガイア神を中心に突風が吹き荒れる。

 エネルギーの余波により、奴の周囲の地形は変貌していく。

 田圃だった焼け野原に地割れが生じ、周囲の空間に亀裂が走った。

 そして、ガイア神を身に宿している美鈴の目から血の涙が零れ始める。

 身体に相当な負担がかかっているのか、美鈴の身体は水風船のように膨れていった。


「フェーズ1からフェーズ2へ移行開始。吸収率2パーセントから8パーセントまで上昇。魔力摂取完了まで残り3分23秒。肉体の最適化まで残り4分11秒」


 ガイア神が膨大なエネルギーを吸収する度に美鈴の身体は異変に苛まれる。

 その異変は素人目でも身体にかなりの負担がかかっている事を理解できた。


(このままじゃ、器である美鈴の身体が壊れてしまう……!)


 全身の穴という穴から血を流し続けながら、全身の肉という肉を膨張させながら、全身の皮膚にひび割れみたいな亀裂を生じながら、それでも尚、空に浮かぶ膨大なエネルギーを吸収しようとする美鈴を見て、これまでにない危機感を抱いてしまう。


 人類滅亡なんて漠然とした危機感よりも美鈴の身体が破裂してしまう危機感の方が、圧倒的に怖かった。

 このままでは美鈴の身体が木っ端微塵に吹き飛んでもおかしくない。


「器である人間の身体ではこれ以上の魔力摂取は不可能。──再演算、器を肥大化・及び最適な形へ改造した場合、全ての魔力を摂取できると判断。このまま魔力摂取を続行」


「させるかよ……!!」


 人類を危機から助けるのではなく、目の前の女の子を助けるために、俺は走り始める。

 そうだ、俺は救国の英雄でもなければ、神殺しの英雄でもない。

 ただの高校生だ。

 たとえ神の力を退ける武器を持っていたとしても、俺がただの人間である事には変わりない。

 だから、俺は世界でも人類でもなく、目の前で死にそうな女の子を助けるために走る。

 世界とか人類のためじゃなく、自分のエゴのため──立派な大人になるために走り続ける。

 誰も救えないかもしれない。

 誰も救われないかもしれない。

 誰かから傷つけられるかもしれない。

 誰かを傷つけてしまうかもしれない。


 それでも、俺は最後まで走り続ける。

 きっとその道を信じて突き進む事が自分という人間も目の前の人達も大事にできるベストな選択だと信じているから。


「うおおおおおお!!!!」


 美鈴の身体が破裂するよりも早く、改造されるよりも速く、俺は地面を蹴り上げる。

 すると、天から幾つもの星が落ちてきた。

 右の籠手で降り落ちる流星から身を守りながら、俺は自分の進むべき道を何とか切り開く。


「神宮司、再始動。最上最適最善最高の攻撃により撃退を開始する」


 人の形を失いつつあるガイア神は亀裂が走った周囲の空間から右手で防げない程の熱量と光量を持った光線を発射した。

 四方八方から放たれた攻撃。

 俺は少しでも身軽にしようと、右腕に纏わりついた籠手を強引に左手で引き剥がした。


「理解不能……!」


 美鈴の身体を借りたガイア神は、初めて人間味を感じさせるような表情を浮かべる。

 そんな神様の態度に構う事なく、俺は走り続ける。


 まともな思考では避け切れない。

 まともな方法では生き残れない。

 だから、俺はその攻撃を──最上最適最善最高の攻撃を最も下劣で、最も不適切で、最も悪い思惑で、最低なやり方で光線を躱し切った。

 無傷の俺が迫り来るのを見た瞬間、ガイア神は人間らしい驚きの声を上げる。


「理解不能、理解不能、理解不能……!何故、あれを躱し切る……!?演算した66666のパターンの下、最上最適最善最高の攻撃を選んだ筈なのに!?」


「避けなかったからだよ」


 ガイア神の疑問に簡潔に答える。

 拳を交えて分かった。

 ガイア神は神であるが故に人間の愚かさを理解できていない。

 だから、奴は愚かな選択肢を選び続けた俺を最期の最後まで理解し切れなかった。

 避ける前提で繰り出された攻撃を避けない事で躱し切るなんて考えもしなかった。

 人間を過大評価し過ぎた。

 それが奴の敗因だった。

 握り締めた拳を──右の籠手を着けていない何の変哲もない拳を膨張し続けるガイア神に振り下ろそうとする。


「理解不能、理解不能……!何故、貴方はそこにいる!?何故、貴方は──!!」


「立派な大人に──に、いや」


 血に濡れた拳を開く。

 そして、奴の膨張した腹部にある宝石目掛けて、全身の力を込めた掌底を叩き込んだ。


「これが俺のやりたい事だから」

 

 渾身の一撃が炸裂すると同時に美鈴の胸の真ん中にあった宝石に亀裂が走る。


「ぐ……あ……!!もう1度、再生を……!神宮司を排除し、……我が勝利を確実なものに……」


「諦めろ、何度やったって同じ事だ」


 今にも壊れそうなガイア神の核(ほうせき)にもう一度拳を叩き込む。


「神様、あんたじゃ俺には勝てねぇよ」


 ガイア神の宝石(かく)を拳で叩き割る。

 神様は絶叫を上げると、空気に溶けるように消滅してしまった。

 膨張していた美鈴の身体は縮小してしまい、元の可愛らしい姿に戻る。

 血に塗れていたが、規則正しい寝息を立てていた。

 彼女の無事を把握した途端、俺は地面に尻餅をつくと、心の底から安堵した。

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