ゴールデンウィーク初日だよ!全員集合!の巻
5月2日。
郵便貯金の日だとか郵便貯金創業記念日だとか緑茶の日だとかエンピツ記念日だとか、誰かにとっては特別な1日でめ、俺にとってはゴールデンウィーク初日でしかないある日の昼下がり。
俺──神宮司は委員長・伊紙丸・ツインテール娘・美鈴・美波・小鳥遊弟と共に、布留川の実家がある『藍島』って名の島で釣りをしていた。
「お兄ちゃん、釣れてる?」
「いや、全然」
防波堤で釣りしている俺を見つめながら、美鈴は首を傾げる。
楽しそうに首を傾げる美鈴を一瞥しつつ、俺は欠伸を浮かべる。
地平線の彼方まで広がる海原が目に入った。
「あっちはどんな感じだ?釣れそうか?」
「委員長さんと美波がアジって名前の魚を釣ってたよ」
「げ、先越された」
同じクラスの委員長と美波──金郷教騒動の時、山口で遭遇した幼女──の方に視線を投げかける。
布留川の指導が良いのか、あっちはガンガン魚を釣り上げていた。
布留川・委員長・美波ペアからちょっと離れた所で釣っている伊紙丸・ツインテール娘・小鳥遊弟──人狼の男の子。小鳥遊神奈子っていうヤンキーの弟──と目が合う。
俺同様、伊紙丸ペアも釣れていないのか、悔しそうな表情を浮かべていた。
「ん? お兄ちゃん、胸ポケット揺れているよ」
そう言って、美鈴は懐に入っているスマホを指差す。
どうやら通知が入ったらしい。
久し振りに手元に戻って来たスマホ──今の今まで寮長に没収されていた──を手に取り、トークアプリを開く。
アプリを開いた途端、先ず目に入ったのはお嬢様学校に通っている四季咲楓のメッセージだった。
『桑原・聖十字生徒会メンバーとラウンドワンに来ているが、何を話したら良いのか分からない。至急、連絡をくれ』
四季咲のメッセージに目を通す。
面倒臭そうなので、既読無視する事にした。
次に聖十字生徒会メンバーである蜘蛛女のメッセージが俺の視線を惹きつけた。
『会長となかなか打ち解けられない(ぴえんの絵文字)。何かいい話題ある?(首を傾げる顔文字)』
面倒臭そうなので、無視する。
次に通知が来たのは、桑原学園生徒会会長。
『四季咲さんの好きな食べ物教えてください』
面倒臭そうなので、無視。
またもやメッセージが送られてきた。
今度は桑原学園のヤンキーであり人狼でもある小鳥遊神奈子。
『父が明後日、あんたらに焼肉奢りたいって言ってるけど予定空いてる?』
焼肉食べたいので、メッセージを送り返そうとする。
"いくいく! 何時から!? 俺は24時間空いているぜ!"みたいなメッセージを送り返そ──うとした瞬間、小鳥遊から新たなメッセージを送られてきた。
『あ、弟に変な事を教えたらぶっ殺すから』
殺意マシマシのメッセージを無視する。
うん、焼肉食わせろ的なメッセージは後で送ろう。
今、送ったら何か変な地雷踏みそうだし。
スマホを胸ポケットに入れようとする。
またまたメッセージが送られた。
今度は寮長からだ。
当然、無視する。
知り合いのヤンキーから『寮長のエロい画像を送ってくれ!』というクソみたいなメッセージが送られる。
当然、無視。
今度はキマイラ津奈木──元金郷教騒動で知り合った魔法使い。ピエロみたいな容姿をしている──が、メッセージと写真を送ってきた。
『肌焼きました』
知るか。
真っ黒焦げになったキマイラ津奈木の自撮りを目にした途端、反射的に彼のアカウントをブロックしてしまう。
うん、これが最適解だ。
キマイラ津奈木をブロックした途端、両親からメッセージが送られる。
送られてきたメッセージは至って単純。
『あんたに弟か妹できるから』
『久しぶりに母さんに逆レイプされちゃった(ぴえんの顔文字)』
「生々しいんだよ!実の息子にする話題じゃねぇだろ!!」
「うわ、急にどうしたの!?」
両親に対して怒りを露わにする俺を見て、美鈴はちょっとだけ跳び上がる。
美鈴に驚かせた事に対しての謝罪の言葉を述べた後、額を伝う汗を拭った。
「にしても、今日は暑いね。長袖着てきたのは失敗だったかも」
「みたいだな。俺も上半身裸になるかどうか本気で悩んでいる」
「海泳いだら気持ち良いかも」
「俺の場合、気持ち良いよりも苦しいの方が勝りそう」
「お兄ちゃん、泳げないもんね」
後々記憶にさえ残らない話題で盛り上がる俺と美鈴。
適当に話を展開していた所為なのか。
いつの間にか、将来の話になっていた。
「私、学校に行きたいかも」
太陽の光を浴びる海原を眺めながら、美鈴は己の希望を口にする。
「学校に行って、楽しい思い出を作りたい。沢山勉強して、沢山の人を助けられるような職業に就きたい。それが今の私の夢」
「沢山の人を助けられる職業ってなんだ? 医者か?」
「弁護士もアリかなーって思ってる。まあ、職業については学校通いながら考えるよ」
「大体承知。ま、美鈴なら何にでもなれるだろ。俺よりも頭良いし」
大物を待ち構える。
が、俺の釣針は大物を引き寄せる気がないのか、欠伸を浮かべていた。
「ねえ、お兄ちゃんは将来何の職業に就くの?」
「俺? 俺は学校の先生だよ」
欠伸を浮かべながら、俺は美鈴の疑問に答える。
「それって、……ううん、何でもない」
途中で何か悟ったのか、美鈴は口から出かけた疑問の言葉を呑み込むと、首を左右に振る。
そんな彼女を横目で眺めながら、俺は頬の筋肉を少しだけ緩めた。
「見ていろ、美鈴。──俺、立派な大人になるから」
「だいたいしょうち。お兄ちゃんもちゃんと見ていてよね、私の事を」
大体承知と呟く。
その瞬間、伊紙丸の声が俺達の視線を引き寄せた。
どうやら大物を釣り上げたらしい。
「お兄ちゃん、早く助けに行こう! じゃないと、美味しいお刺身食べられないよ!」
「分かっているって。行くぜ、美桜っ! 今日の夜はお魚パーティーだっ!!」
「やっはー!」
奇声を上げながら、俺と美鈴は伊紙丸達の下に向かって駆け出す。
初夏の風が俺達の背中を優しく押し上げた。
次回最終回は22時頃に更新予定です。
ラスト1話になりましたが、最後まで頑張って更新するのでお付き合いよろしくお願い致します。




