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決着の巻


 ……ここからが本番だ。

 始祖ガイアの力を手にした少女──『美桜』の絶叫が花園を揺るがす。

 『美桜』の動き1つで夕空(やね)は裂け、花園(だいち)が割れる。

 けど、俺が願うだけで夕空(やね)花園(だいち)も元の状態に戻った。

 『美桜』の行き場のない怒りが俺の身体を突き動かす。

 彼女の暴力を受け止めようと、今まで積み重ねてきたものを行使し続ける。

 大人になるって、こういう事だろうか。

 大人になった人達もこの重圧と闘っていたのだろうか。

 答えのない疑問が花園に吸い込まれる。

 『美桜』は考察に耽る俺を否定するかの如く、漆黒の雷雨を浴びせる。

 俺は次々に浮かび上がる無数の選択肢の中から、たった1つだけを選択し続けた。

 この選択が間違っているのか分からない。

 けど、走り続けるしかない。

 たとえ頭の中がごちゃごちゃしていても。

 たとえ俺が立派な大人になれなかったとしても。

 選んだ選択肢が間違いだったとしても。

 俺達は今を生きなければならない。

 

 闘って、防いで、抗って。

 それを延々と繰り返す。

 『美桜』の攻撃を防ぐ度、心器(きりふだ)の使い方を学習した。

 『美桜』の攻撃を受け流す度、心器(きりふだ)を効率的に使えるようになった。


 防いで、防いで、防ぎ続けて。

 永遠に続くと思っていた雷雨は、唐突に終わりを告げた。


 とうとう『美桜』は最後の一線を超えてしまった。

 俺に殺意を向けた瞬間、『美桜』は自分の中にあった全ての『力』を黒い盾に注ぎ込む。

 『力』が注がれる度、黒い盾は高密度で膨大な黒雷を纏い始めた。

 

「………集え、白雷(ひかり)よ」


 右腕を前に突き出し、散らばっていた白銀の花弁で竜の骨格を造り始める。

 宙に浮いていた花弁は瞬く間に竜の骨格を形作ると、白雷という肉を纏い始めた。


「──我は、(かみの)(みや)を司る者」


 白雷(にく)を纏った白銀(りゅう)花弁(ほね)夕空(やね)に頭を擦り付ける。

 全長数十メートル程の竜を造り上げたにも関わらず、俺の身体に負荷はかかっていなかった。

 否、負荷がかからないように竜を造り上げた。

 

(身体に余計な負荷がかかったのは、骨も肉も造り上げようとしたからだ。なら、骨だけ造れば、身体に負荷はかからない)


 息を短く吐き出した後、前を見据える。

 『美桜』の姿は黒い盾の陰に隠れて分からなかった。


「……この竜が喰うのは不思議な力だけだ」


 生身の人間に傷一つつける事ができない竜の形をした盾を仰ぐ。

 今、俺が考え得る最高の盾は哀しそうな眼をしていた。


「全てぶつけろよ。お前を救う事はできねぇけど、お前の怒りを受け止める事だけはできるから」


 俺の声が届いたのか、或いは俺の声に耳を傾けていないのか、『美桜』は絶叫を上げながら、黒い盾から龍を象った黒い雷を発射する。

 俺は右の掌を前に突き出すと、白雷を纏った花弁(りゅう)を突き動かした。


「──花束は(アイギス・)誰がために(ドラグーン)」




 力尽きた『美桜』を米俵のように担ぎ、先生がいる駐車場に戻る。

 気がつけば、空は満天の星で彩られていた。

 夕空(やね)ではない本物の夜空を仰ぎ、白い息を口から零す。

 気絶した美鈴を抱えた啓太郎も、酒乱天使も、脳筋女騎士も、俺に声を掛けなかった。


「……終わったのか」


 無駄に広い駐車場で待っていた先生が俺を出迎える。

 俺の顔を見た途端、先生は辛そうな表情を浮かべた。


「……………先生、あとは頼んだ」


 そう言って、俺は先生に『美桜』を託す。

 先生はゆっくり首を縦に振ると、辛そうな表情を浮かべたまま、『美桜』を受け取った。


「……今の『美桜』に始祖ガイアとやらの力は残っていない。ただの女の子だ。もう今回のような事件を引き起こすだけの力を持っていない……だから、」


「……あとは私達に任せろ。時間はかかるだろうが、必ず彼女達を救ってみせよう」


 先生から眼を逸らした途端、不思議な力が身体に作用した。

 透け始めた右掌を見た途端、『大きな力』が俺達を元の世界に戻そうとしている事を感覚的に把握する。

 『美桜』を止める役割を果たしたのだ。

 多分、『大きな力』は俺に美桜を止めさせるため、違う世界から来た俺達をこの世界に留まらせたのだろう。

 その役目を果たしたから、この世界に留まれなくなったのだろう。

 ……なんとなく分かっていた。

 『美桜』を止めた後、元の世界に戻らなきゃいけなくなる事を。

 違う世界からやって来た俺達にできるのは、『美桜』を止める事だけだという事を。

 だから、俺は『美桜』と対峙する直前、先生に頼んだ。

 『美桜』含む金郷教の大人達に虐げられていた子ども達を救って欲しい、と。

 ……本音を言うと、最後まで『美桜』に付き合ってやりたかった。

 『美桜』が真の意味で救われるまで、彼女に寄り添ってやりたかった。

 けど、此処は俺がいた世界じゃない。

 『大きな力』は『美桜』を止める事を許しても、『美桜』を救う事まで許してくれない。

 いや、『大きな力』が作用しなくても、俺は『美桜』を救う事なく、元の世界に戻っていただろう。

 元の世界にいる両親や寮長達を心配させる訳にはいかない。

 かと言って、『美桜』を元の世界に連れて行った所で、彼女の救いになり得ない。

 この世界に留まったところで、腕っ節が強いだけの俺では何もやり遂げる事ができない。

 先生夫妻に『美桜』達を託すのが最善のやり方だ。

 ……結局、暴力を振るわなかっただけで、やっている事はいつもと変わらなかった。

 ……………こんな中途半端なやり方で、俺は立派な大人になれるのだろうか。

 結局、俺は『美桜』を止める事ができたけど、自分に勝つ事はできなかった。

 ただ暴力を振るわなかっただけ。

 問題を有耶無耶にしただけで、問題の根本部分は触れる事はできなかった。

 身体が徐々に透ける。

 透ける度に意識が徐々に遠退いていく。

 

「……じゃあな、先生。お別れだ」


 先生と向き合った途端、違和感を覚える。

 よく見ると、先生は俺よりも小さかった。

 いつの間に先生の背丈を越していたのだろうか。

 憧れの感情が消え失せた所為で、ようやく本当の意味で先生と向き合う事ができた。


「………司」

 

「……先生、身体には気をつけろよ」


 見下ろす程に小さくて弱々しい先生から眼を逸らし、踵を返す。

 先生の前から立ち去ろうとしたその時だった。

 先生の弱々しい声が俺の背中を貫く。

 先生か必死になって紡いだ言葉は、物凄く重くて、俺にとって懐かしいものだった。

 晩夏の風を思い出しながら、振り返る。

 先生は今にも泣きそうなくらい儚げな笑みを浮かべながら、あの時と同じ質問を口にした。

 あの時と同じ答えを口にする。

 それを聞いた途端、先生は──

 いつも読んでくれている方、ここまで読んでくれた方、ブクマしてくれた方、評価ポイントを送ってくださった方、感想・いいねを送ってくださった方、そして、新しくブクマしてくれた方に感謝の言葉を申し上げます。

 今回の話で今月の更新+ラスボス戦は終了です。 

 次の更新は4月10日以降に予定しております。

 公募小説に注力するため、来週再来週の更新はお休みさせて貰います。

 次の更新の具体的な日時は現時点では決まっておりません。

 ただ4月中旬〜下旬に本作品を完結させたいと思っております。

 更新予定日が決まり次第、Twitter(宣伝垢:@Yomogi89892・雑談垢:@norito8989)で告知致しますので、最後までお付き合いよろしくお願い致します。

 

 

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 厚かましいと自覚しておりますが、感想、レビュー、ブクマ、評価、お待ちしております。 小説家になろう 勝手にランキング
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