此処にいるの巻
蛇の頭を象った黒い雷が次々に射出される。
俺は右腕を動かすと、迫り来る無数の黒雷を白い花吹雪で弾き飛ばした。
「……っ!」
始祖ガイアの力を手にした『美桜』は顔を引き攣らせる。
そして、両手を突き上げると、再び無数の武器を造り上げた。
短刀、長刀、大剣、短剣、双剣、銃剣。槍、両槍、戟、矛、突撃槍、薙刀、鎌、大鎌。斧、杖、棍棒、金棒、鞭 槌。
黒い雷を纏った様々な種類の武器が、夕焼けに照らされた花園を駆け抜ける。
「無駄だ」
短く息を吐き出した後、白銀の花園から無数の花弁を引っ張り出す。
引っ張り出した白銀の花吹雪を操作する事で、迫り来る無数の武器を押し返した。
「無駄じゃない」
背後から聞こえる幼い声。
視線のみを背後に向けた瞬間、黒い盾を構えた美桜と目が合った。
「貴方の心器は二つの弱点を抱えている」
振り返りながら、白銀の花弁を黒い盾目掛けて掃射する。
白銀の花吹雪が盾に直撃した途端、再び背後から『美桜』の声が聞こえてきた。
「弱点その1」
『美桜』の放った蹴りを紙一重で避ける。
右に大きく跳ねた後、周囲にあった白銀の花弁を手元に引き寄せる。
「貴方は白銀の花弁を完璧に操れていない」
白銀の花弁を用いる事で、『美桜』の身体を拘束しようとする。
が、背後から飛んできた黒い盾が俺の行動を阻んだ。
「だから、超速戦闘にも奇襲にも対応できていない」
黒い盾が背中に直撃してしまった所為で、集中力が途切れてしまう。
手元に引き寄せた白銀の花弁達は霧散すると、跡形もなく霧散してしまった。
「弱点その2」
『美桜』の視線により次の攻撃を予知した俺は、身体を右に傾ける。
その瞬間、矢を象った黒い雷が左脇腹を掠めた。
「君の心器は、ただ大きいだけの防具。幾ら手を変え品を変えたとしても、敵の攻撃を防ぐ以上の役割を担う事ができない」
天から降り注ぐ黒い雷。
それを視認した途端、霧散した筈の白い花弁が俺の頭上を覆い隠した。
雨粒を弾く傘のように白い花弁は黒い雷を弾く。
『美桜』はあっという間に俺の目と鼻の先まで迫ると、俺の額目掛けて張り手を繰り出した。
「くっ……!」
『美桜』の張り手が額に突き刺さ──る寸前、白雷を纏った半透明の壁を目と鼻の先に展開する。
しかし、造り上げた半透明の壁はあっさり破られ、彼女の掌は俺の額に直撃してしまった。
「ねえ、何で私の邪魔をするの?」
花園の上を転がりながら、『美桜』の言葉に耳を傾ける。
「私よりも悪いヤツはいっぱいいるじゃん。何で私の時だけ現れたの?何で私だけが悪者扱いされなくちゃならないの?」
「別にお前の事を悪者扱いしている訳じゃねぇよ」
ズキズキ痛む額を抑えながら、ゆっくり上半身を起き上がらせる。
「お前を止めようとしているのは、自分のためだ。俺は、自分の意地と理想のため、お前を止めようとしている」
「大人達に虐げられるの我慢しろって言いたいの?」
「お前は自分達を虐げヤツと同じ事をやりたいのか?」
花園の隅に居座っている石像に視線を向けながら、肺の中に溜まっていた息を吐き出す。
「やりたくてやっているように見えるの?」
「だから、俺は此処にいる」
再び『美桜』に背後を取られる。
俺は右肘で彼女の張り手を受け止めると、思った事を口にした。
「金郷教のアジトに行った」
ゆっくり振り返りながら、目を大きく見開く『美桜』に視線を投げかける。
「お前の物語を何となく理解した」
自分の打撃を止められると思っていなかったのだろう。
彼女は驚いた様子で俺と自分の両手を交互に見ていた。
「お前が何を背負っているのか、どういう感情を抱いているのか、想像はできても、理解する事はできなかった。お前がやっている事が正しい事なのか、そもそも何をやろうとしているのか、俺には分からない」
「なら、……!」
「でも、これだけは理解できる。たとえお前のやり方で世界を救えたとしても、お前自身が救われない。お前は、近い将来、憎んでいる大人と同じ事をやった自分を、赦せなくなる」
ゆっくり噛み締めるように、『美桜』に事実を突きつける。
今の今まで避け続けた事実に直面した途端、『美桜』は顔を歪ませる。
歪んだ彼女の顔は怒っているようにも泣いているようにも見えた。
「このまま突き進んだ所で、お前に待ち受けるのは絶望だけだ。世界を救えたととしても、沢山の子ども達を救えたとしても、お前のやり方じゃ、お前自身が救われない」
「……じゃあ、どうしろって言うの……!?」
我儘を喚き散らす子どものように、『美桜』は地団駄を踏む。
彼女の身体から溢れ出る『熱』は夕陽によって和らぐと、周囲の空気に溶け込んでしまった。
「私が救われない? じゃあ、私にどうしろって言うのよ!!」
彼女の身体から溢れ出た黒い雷は、俺に届く事なく、霧散してしまう。
それを目にして、彼女はようやく把握した。
俺の心器の中では全力を発揮できない事を。
「ああ……!もう、貴方なんて嫌い……!私達が苦しい時は出て来なかった癖に……!なんで、今になって現れるのよっ!!」
俺に顔を見せないように俯きながら、『美桜』は黒い盾を手元に誘き寄せる。
「…………最後まで付き合ってやるよ」
俺は腕を前に突き出すと、周囲にあった白い花弁を白銀の盾に造り替えた。
「──イージス・」
「──アイギス・」
黒い雷を纏った黒い盾が、白い花弁だった白銀の盾が、夕陽に照らされた花園でぶつかり合う。
俺は目蓋を閉じた後、黒い盾の向こう側にいる『美桜』と向き合うため、覚悟を決めた。
「──キルクルス・ラクテウスっ!!」
「──リンカーネイションっ!」
ぶつかり合う白雷と黒雷。
その瞬間、花園に轟音が──雷の落ちる音──が鳴り響く。
視界が真っ白に染まると同時に、俺は花園を勢い良く蹴り上げた。
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