『価値あるものに花束を』の巻
目蓋を開ける。
先ず目に入ったのは大地を覆う白銀の花園。
次に目に入ったのは地平線の彼方まで広がる夕空。
茜色に照らされた入道雲が彼女──『美桜』を見下ろす。
目を大きく見開く彼女を眺めながら、俺はゆっくり自らの心器の名を明かした。
「──価値あるものに花束を(アイギス・アンフィテアトルム)」
生暖かい風が白銀の花々を揺らす。
それを忌々しく見つめながら、『美桜』は口を開いた。
「……まさか世界を塗り替えたって言うの?」
「……やっと俺の事を見てくれたな」
警戒する『美桜』を注意深く見つめつつ、俺は胸の中に溜まった濁った空気を吐き出す。
「…………世界を塗り替えたって無駄だよ。今の私には世界を壊すだけの力がある」
油断も慢心もする事なく、『美桜』は敵意を発する。
しかし、殺す気がないのか、幾ら待っても殺意は飛んで来なかった。
「……世界を塗り替えたって訳じゃない。ただ俺の心器ってヤツがデカ過ぎるだけだ」
そう言って、天と地を見るよう促す。
「俺達の真上にある夕空も真下にある花園も全部作り物だ。今、俺もお前も俺の心器の中にいるんだよ」
「……なるほど。あの夕空の向こう側に本物の空がある訳か」
始祖ガイアの力を用いて、彼女は禍々しいオーラを放つ武器を造り始める。
「アンフィテアトルム……という事は、君の心器は円形劇場って事?」
「正しくは円形劇場の形をした盾だ」
短刀、長刀、大剣、短剣、双剣、銃剣。槍、両槍、戟、矛、突撃槍、薙刀、鎌、大鎌。斧、杖、棍棒、金棒、鞭 槌。
傷つける事に特化した形をした武器が『美桜』の周囲を取り囲む。
「それで? 私をこの中に閉じ込めてどうする?」
『美桜』の周りで浮いている無数の武器が黒い雷を放ち始める。
何かを仕掛けるつもりだ。
それよりも先に俺は大地を覆っている白銀の花を操作した。
「……っ!?」
駆け抜ける白雷。
白い稲妻を纏った花吹雪は、瞬く間に『美桜』が造り出した武器を飲み込む。
花吹雪に飲み込まれた無数の武器は、一瞬で白雷と化してしまった。
「一体、何が起きて……⁉」
白雷となった自分の武器だったものを見て、『美桜』は大きく目を見開く。
それを眺めながら、俺は自分の手の内を馬鹿正直に話した。
「この雷は遍く奇跡を喰らい尽くす。どれだけお前が高尚な武器を造ろうが、始祖の力を行使しようが関係ない。この雷は全ての魔力を取り込み、跡形もなく消滅させる」
俺の意思1つで花吹雪が巻き起こる。
白雷を纏った白銀の花弁は縦横無尽に宙を駆け抜けると、眉間に皺を寄せる『美桜』を煽った。
「……でも、貴方の心器は切札だったとしても、決定打になり得ない」
そう言って、『美桜』は腕を振るう。
たったそれだけで突風が巻き起こり、白銀の花弁は呆気なく後方に吹き飛ばされてしまった。
「貴方の心器は魔法・魔術を無効化できても、奇跡以外のものを無効化する事ができない」
ゆっくり両拳を握り締め、『美桜』は俺を睨みつける。
「貴方の心器は円形劇場の形をした盾。私の繰り出す奇跡を否定できても、私に傷一つつける事はできない」
俺の心器を分析し終えた後、『美桜』は、何処からともなく盾の形をした大砲──イージスって名前の『心器』を手に取る。
そして、複雑な感情が入り混じった笑みを浮かべると、こんな事を言い出した。
「──貴方じゃ私には勝てないよ」
今の『美桜』の顔と恩師──光洸太の顔が重なる。
俺はゆっくり目蓋を閉じると、右の拳を握り締め──る事なく、ゆっくり開いた。
「──お前じゃ俺には勝てないよ」
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3月の更新予定日は10・17・24日の22時頃です。
31日の更新は公募小説に注力するので、休ませて頂きます。
今月も週一更新ですが、ちゃんと今やっている番外編完結させますので、最後までお付き合いよろしくお願い致します。




