『俺を突き飛ばしたのは』の巻
「司、何か策はあるのか?」
「あるように見えるか?」
始祖ガイアの力を手に入れた『美桜』の攻撃を捌く脳筋女騎士を眺めながら、白く染まった吐息を吐き出す。
「ない訳じゃないだろう? 君が、……いや、君達が攻勢に転じないのは『美桜』に気を遣っているからじゃないのか?」
「かもな」
俺の余裕のない態度を見た啓太郎は頬の筋肉を強張らせる。
脳筋女騎士はというと、『美桜』の身体から掃射される黒い光線を剣一本で弾き飛ばしていた。
「なあ、啓太郎。どれくらい時間を稼げる?」
「君達の出方次第だ」
「そうか。なら、……」
「司、一つだけ確認する」
力強い言葉で啓太郎は俺の注意を惹きつけると、今まで見た事のないような厳しい眼差しで俺を見つめる。
その目を見た途端、啓太郎が今の俺を『子ども』ではなく、『大人』として見ている事に気づかされた。
「今、君がやろうとしている事は『未来の君』が誇れるものなのか?」
俺の事を一人の大人として扱ってくれる啓太郎に視線を向ける。
啓太郎は俺の顔を見ると、微笑を溢し、俺の選択を受け入れた。
「──集え、白雷よ。我は花を束ね(統べ)し者」
籠手を纏っていた右腕を前に突き出す。
その瞬間、『美桜』の視線が俺の顔を貫いた。
「拠りて担うは雷と鎧」
──切札発動まで残り60秒。
異変に気づいた『美桜』は脳筋女騎士から切札を切ろうとする俺に標的を変える。
「白雷を分かつ事なけ……」
右の籠手から迸った白雷が世界に根を張り始める。
空から降り落ちた黒い雷雨が俺の切札を阻害しようとする。
「──原初に叛し燭光の剣っ!」
脳筋女騎士──アランが振るう剣から白金の光が放たれる。
斬撃の形をした白金の光は黒い雷雨を焼き尽くし、黄ばんだ空を貫く。
空から降り落ちた黒い雷雨を退けた白金の光斬は天を衝くと、爆炎と突風を巻き起こした。
「なるほど、それが貴女の切り札なのか」
──切札発動まで残り55秒。
アランが切った切札が世界に多大な影響を与える。
地面に生い茂っていた草が燃え、地面に罅が入り、空気が震撼する。
山肌を覆っていた木々がへし折れ、大地が縦に揺れ始める。
多分、草原だけじゃなくて、周囲にあった町にも多大な影響を与えたのだろう。
ただ空目掛けて放っただけだというのに、直撃していないというのに、彼女が切札を繰り出しただけで、草原は荒野と化してしまった。
「魔力の残量から察するに、貴女の切札は連射可能な代物。でも、この世界にいる人を巻き込んでしまうから、地上にいる私を切札で討つ事はできない」
「それはどうだろうな?」
──切札発動まで残り50秒。
これ以上、時間を稼げないと判断したのか、脳筋女騎士は武力だけでなく言葉で時間を稼ぎ始める。
だが、彼女の言葉に耳を傾ける程、『美桜』は慢心していなかった。
「もう貴女の底は見えた。貴女を倒すのに2秒もいらない」
──残り49秒。
『美桜』の身体が消える。
脳筋女騎士は自らの背後目掛けて斬撃を繰り出す。
が、脳筋女騎士の斬撃は『美桜』の身体を覆う目に見えない何かによって阻まれてしまった。
「えい」
──残り48秒。
『美桜』が指を鳴らす。
その瞬間、脳筋女騎士──アランの身体を纏う鎧が粉砕し、彼女よ身体が遥か後方に吹き飛んでしまう。
「──!?」
宙を舞うアランの姿を眼に焼き付ける。
彼女の身体からは夥しい量の血が流れ出ていた。
ただ指を鳴らしただけ。
たったそれだけの行為で歴戦の猛者である脳筋女騎士──アランは戦闘不能状態に追い込まれてしまう。
『何をした』という疑問よりも先に『もう彼女は闘えない』という結論が頭を過ぎった。
それと同時に背後から『美桜』の声が聞こえて来る。
「私の邪魔をした貴方達が悪いんだよ」
気づいた時には遅かった。
──残り47秒。
俺の背後を取った『美桜』はトドメの一撃を繰り出そうとする。
だが。
「……っ!」
身体が突き飛ばされ、地面に倒れてしまう。
案の定、俺を突き飛ばしたのは隣にいた啓太郎だった。
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次の更新は2月10日(金)22時頃を予定しております。
今月中に完結は厳しいですが、最後まで更新していきますので、お付き合いよろしくお願い致します。




