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交渉決裂の巻

話は数十分前まで遡る。


「え、啓太郎も着いて来るの?」


 先生が運転する車から降り、九音遺跡とやらに降り立った俺は助手席から降りた啓太郎に声を掛ける。


「ああ。君一人に任せると、厄介な事になりかねないからな」


 車から降りた啓太郎は靴紐を結びながら、白い息を吐き出す。

 田舎だからなのか、或いは黄ばんだ空の所為なのか、風はとても冷たかった。


「大丈夫だ、彼女が僕の事を守ってくれる。君は僕の事を気にせず、やりたい事をやればいい。僕は君ができない事をやる」

  

 彼女──脳筋女騎士アランに視線を送りながら、啓太郎は靴紐を結び終える。


「えー、着いて来んなよ。腕っ節弱々な啓太郎が着いて来た所で、足手まといにしかならないっての」


「司、君は僕の事を舐め過ぎている。勝算のない闘いを僕がやると思っているのか?」


 そう言って、啓太郎は車から降りて来た先生を睨みつける。


「……光さん。貴方は美鈴(この子)と一緒にいて下さい」


 苦虫を噛み潰したような表情を浮かべ、先生に美鈴の面倒を押しつける。

 先生は顔を青褪めたまま、視線を地面に落とすと、首を縦に振った。


「え、私、置いて行かれるの?」


 自らを指差しながら、美鈴は困ったような表情を浮かべる。


「そりゃそうだろ、お前、喧嘩慣れていないし」


「そうだけど、……」


 この世界の『美桜』に思う所があるのか、美鈴は不服そうに俺の顔を仰ぐ。


「美鈴は先生と一緒に此処で待ってろ。大丈夫、美鈴が考えているような事は起きないから」


 必要最低限の言葉を述べた後、俺と啓太郎と脳筋女騎士は美鈴と先生を九音遺跡の駐車場に置いて、『美桜』の下に向かう。

 『美桜』は九音平野と呼ばれる何の変哲もない場所で、燻んだ空を仰いでいた。


「あ、来たんだ」


 平野に辿り着いた俺達は半壊した石像を踏みつける『美桜』──この世界のバイトリーダーと正面から睨み合う。

 俺は右の拳を握り締めると、白い息を口から吐き出した。


「何をしている?」


「貴方達には関係ない事だよ」


 俺の疑問を軽く流した後、『美桜』も白い息を吐き出す。

 心境が変化したのだろうか。

 彼女の目は澱んでいた。


「ねえ、何で貴方達は私の邪魔をするの? 別世界の貴方達には関係ない事で……」


 『美桜』──この世界のバイトリーダーの話を聞き流しながら、俺は身体の奥深くにいる『ガイア神の分体』に語りかける。


(……よし、共同戦線開始だ、ガイア神とやら。作戦通り、俺が『美桜』の気を引く。その間に、お前は『美桜』からガイア神とやらの力を抜き取ってくれ)


(おい、ちょっと待てやコラ)


 自らのキャラを捨て、俺の中にいる始祖ガイアの分体とやらは抗議の声を上げる。


(理解不能。確かに私は貴方に協力し合うと約束しました)


(ああ、そうだ。お前は『美桜』から自分の力を取り戻すため、俺は『美桜(アイツ)を止めるため、俺とお前は手を組んだ)


 金郷教本部に殴り込みに行った後、バスの中で分体と約束を交わした事を思い出す。


(……これは協力と呼べるのでしょうか? 私の負担が大きいような気がしますが)


(気のせいだ。さあ、俺がアイツの注意を惹きつけている内に力を取り戻すんだ)


(不可能。そんな大雑把な作戦で取り返せるのなら、私は貴方と組んでいません)


(やる前から諦めるなよ。頑張れば上手くいくかもしれないだろ?)


(今の私は彼女よりも力が劣っています。そんな私が彼女に干渉した所で、逆に取り込まれるのがオチです)


(じゃあ、どうしろって言うんだよ)


(提案。貴方の力で彼女を戦闘不能状態に追い込んでください。衰弱し切った彼女なら、今の私でも力を取り戻す事が可能です)


(大体承知。要はお前は俺を利用して美味い汁だけ啜るつもりなんだな)


 俺の中にいる分体を追い出すため、かめは○波の溜めポーズを行う。

 俺の隣にいた啓太郎と女騎士が『え、お前何してんの?』みたいな目で俺を見つめた。


(静止、静止。なに私を追い出そうとしやがっているんですか、ふざけないでください)


(ふざけてんのは、お前の方だろ。んな一方的な要求で俺が動くと思ってんのかよ。人間舐めんじゃねえぞ、クソ神)


(いや、貴方も一方的な要求を突きつけていましたよね? なに自分の事を棚に上げて、被害者面してるんですか。殺しますよ)


「かーっ!」


 使い物にならなかったので、ガイア神とやらの分体を追い出そうとする。

 俺の突然の奇声にビックリしたのか、啓太郎と脳筋女騎士と『美桜』が身体を硬直させた。


(うぇい! うぇい! うぇい! ちょっと落ち着きましょう。人間は対話できる素晴らしい生き物でしょう? 話し合いましょう。大丈夫です、私達は理か……)


「めーっ!」


(後悔っ! 憑く人間違えたっ!!)


 俺の中で嘆くガイア神の分体とやらを外に出そうとしていると、『美桜』と目が合う。

 彼女は怒りを堪えているかのような面持ちで俺を睨みつけていた。


「……ねえ、私の話を聞いてた?」


「ああ、ごめん。聞いてなかったわ」


 正直に本当の事を話す。

 その瞬間、『美桜』は敵意と殺意を滾らせると、超巨大な黒い雷の塊を俺目掛けて放り投げた。

 いつも読んでくれている方、ここまで読んでくれた方、ブクマしてくれた方、評価ポイント・いいね・感想を送ってくださった方、そして、新しくブクマしてくれた方に感謝の言葉を申し上げます。

 次の更新は1月20日(金)22時頃に予定しております。

 来月頃に完結できるように更新していきますので、最後までお付き合いよろしくお願い致します。

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 厚かましいと自覚しておりますが、感想、レビュー、ブクマ、評価、お待ちしております。 小説家になろう 勝手にランキング
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