「ちょっと話がしたい」の巻
◇ジングウside
異空間。
世界と世界の間にある狭間で、ジングウも赤光の魔導士はガラスの竜と闘っていた。
「──誰がために鈴は鳴り」
黒い炎を纏ったガラスの竜が両腕を振るう。
美鈴とよく似た美しい女性は自身の周りに現れた数十本の硝子の剣に呼びかけると、遠く離れたジングウと赤光の魔導士に人差し指を向けた。
「──誰がために罪を為す」
数十本の硝子の剣が大砲のように撃ち出される。
その瞬間、赤光の魔導士はジングウの背後に隠れた。
「──踊れるモノは久しからず」
ジングウの前に現れた白銀の縦が硝子の剣全てを引きつける。
そして、盾に衝突した剣の群れを音速の速さで跳ね返した。
「──仇桜は欲深き者の喉を貫き」
ガラスの竜の身体から黒い炎が放たれる。
跳ね返された硝子の剣達は黒い炎に灼かれると、ガラスの竜の身体に纏わりついた。
「仇桜は骸を傀儡とす」
「おい、白雷。アイツ、切り札を切るつもりだぞ」
ジンクウの背後に隠れた赤光が欠伸を浮かべながら、忠告を口にする。
ジングウはその忠告を軽く聞き流すと、前方に展開されている盾を籠手の形に戻した。
「──踊れ、躍れ、戯れ。業に濡れし唇よ。腐敗を招きし安寧が常世に爪を立てる」
黒い炎に包まれたガラスの竜の身体が膨れ上がる。
白い肌は黒く染まった硝子の鱗に変わり、美鈴とよく似た美しい頭部は竜のものに成り果てる。
ガラスの竜の変化をジングウは黙って見続けた。
まるで『ガラスの竜の変化が終わる』のを待ち望んでいるかのように。
「──争え、業深き者達よ。我は時を持て余す者。我は永き夢を視る者なり──!」
黒い炎が爆ぜ、ガラスの竜の身体が変質する。
ジングウと赤光の魔導士の眼に変わり果てた敵の姿が映し出された。
全長10メートル級の硝子の塊。
黒を貴重とした硝子で構築された身体は、竜を象っており、瞳はルビーのように煌めき、鱗である硝子は黒い炎を纏っていた。
「なるほど。吸収した純粋悪の力で強引に始祖の権能を再現したのか」
造形魔術で生み出した弓矢を握り締めながら、赤光の魔導士は笑みを溢す。
『ええ、そうよ。それじゃあ、最終ラウンドといきましょうか』
「その前に一つ質問だ。お前、一体何のために此処にいる?」
殺気を放ちつつ、赤光はガラスの竜を睨みつける。
「力を取り戻すのが目的か? それとも、俺らを殺す事が目的か? 或いは──」
『隣にいるヤツに聞きなさいよ。ソイツは私の目的、熟知しているわよ』
顎でジングウを指しながら、ガラスの竜は嘲笑を浴びせる。
「……もしかして、目的が、……ないの、……か?」
ジングウとガラスの竜の態度により、赤光は真実に至る。
初めて困惑を顔に浮かべる赤光を見て、ガラスの竜は硝子でできた竜の顎から黒い炎を溢した。
『大当たりよ、英雄モドキ。それじゃあ、疑問も解消された事だし、……私の暇潰しに付き合って貰いましょうか……!』
そう言って、ガラスの竜は黒い炎に覆われた爪を振るう。
それが開戦の狼煙だった。
◇
静寂が車内を支配する。
車に乗った俺も脳筋女騎士も美鈴も啓太郎も口を開こうとしなかった。
ルームミラー越しに運転席で車を運転する人物を眺める。
ルームミラーには気難しそうな表情で、車を運転する先生──光洸太が映し出されていた。
「あ、あの……!」
車内を包む険悪な空気を変えようとしたのか、気を利かせた美鈴が口を開く。
「え、……えと、私達、何処に向かって、……いるの?」
「この世界のバイトリーダーの所」
「それは分かっているよ! 具体的に何処に向かっているのか尋ねているの!」
座席に寄りかかっている俺を見つめながら、美鈴は俺の返答にケチをつける。
「脳筋女騎士、美鈴の疑問に答えてやれ……うおっ!?」
脳筋女騎士──アランは額に青筋を浮かばせながら、殺気が篭った視線を突きつける。
不思議な力でも使ったのか、彼女が睨んだだけで、空気の塊が俺の顔目掛けて飛んできた。
寸前の所で回避する。
その所為で、車窓にヒビが入ってしまった。
「今、何て言った?」
「今、我々は何処に向かっているのでしょうか見目麗しいお姉さま」
空気を読んだ俺は敬語で脳筋女騎士に語りかける。
「空気を読んだんじゃなくて、空気を読まされたんじゃないかな?」
「美鈴、俺の心を読むな」
「始祖ガイアの依代──『美桜』とやらは、此処から十数キロ離れた所にいる。方角は……あっちの方だ」
進行方向を指差しながら、脳筋女騎士は無表情を貫く。
彼女が指差している場所は、日暮市──俺が元いた世界で通っている高校がある所──方面だった。
「で、神宮司。心器は完成しそうか?」
「………まあ、な」
この世界に来る前に出会った茶髪の幼女──巨大な化け猫と一緒に闘った本を武器に闘うヤツ。ルルとかいうヤツに付き纏っていた──の言葉を思い出す。
『心器とは己の願望を形にする武器だ。つまり、お前が己の願望を自覚しない限り、その籠手の力を十二分に引き出せない。強くなりたければ、己の願望を自覚しろ。お前の場合、14の夏を思い出すのが1番の近道だ』
(……14の夏、か)
運転席に座る先生をルームミラー越しに睨みながら、俺は溜息を吐き出す。
そして、眉間に皺を寄せると、運転する先生に声を掛けた。
「……なあ、先生」
「なんだ?」
俺を追いかけてきたであろう先生は、表情一つ変える事なく、俺の声に応える。
「………………ちょっと話がしたい」
消え入りそうな声で先生に提案を投げかける。
先生は眉一つ動かす事なく、俺の言葉を聞き届けると、こんな事を言い出した。
「では、キャッチボールでもするか」
「…………は?」
いつも読んでくれている方、ここまで読んでくれた方、ブクマ・評価ポイント・いいね・感想を送ってくださった方、そして、新しくいいねを送ってくださった方に感謝の言葉を申し上げます。
今回は執筆時間を十分に取れなかったため、誤字脱字が多いかもしれません。
後日、本日掲載したお話を手直しさせて頂きます。
また、公募小説に注力するため、告知通り、来週の更新はお休みさせて頂きます。
次の更新は12月29日(木)22時頃です。
来月再来月に完結すると思うので、最後までお付き合いよろしくお願い致します。
(追記)12月28日0時
申し訳ありません。
公募小説とリアルが忙しいため、更新日時を変更させて頂きます。
次の更新は12月30日(金)22時頃です。
29日((木)に更新する予定のお話は、31日(土)に変更させて頂きます。
本当に申し訳ありません。




