表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

313/331

奇襲の巻

◇アランside


「残念だったよ、別世界の同胞。夢を共有できなくて」


 血塗れで地面に伏せるフィル──金郷教元教主──を睨みながら、『美桜』は溜息を吐き出す。

 アランはというと、小刻みに指を揺らすフィルを見つめるだけで、それ以上のアクションを示さなかった。


「で、騎士のお姉ちゃん、なんで助けなかったの?この人が私に勝てる可能性なんてゼロに等しかったのに」


 『美桜』に瞬殺されたフィルを睨みながら、アランは微笑を浮かべる。


「彼の選択を尊重した。それ以上の理由でも、それ以下の理由でもない」


「ふーん、そうなんだ。じゃあ、次は騎士のお姉ちゃんが私と闘うの?」


「まだ終わっていないぞ」

 

 アランの言葉を肯定するかの如く、起き上がったフィルは残った魔力を振り絞り、紫電の槍を造り上げる。

 そして、槍を『美桜』の身体目掛けて──


「遅い」


 『美桜』の身体から放たれた圧倒的な魔力により、フィルが造り上げた紫電の槍は消え失せてしまう。


「判断も準備も攻撃も、何もかも遅過ぎる。私に勝つんだったら、最低でも神域に至っていないと」


 そう言って、『美桜』は指を鳴らす。

 『美桜』の指から放たれた魔力の塊が、フィルの顔面に減り込んだ。

 断末魔を上げる余裕さえ与える事なく、フィルは地面の上を転がる。

 彼の身体から噴き出る血潮が周囲を赤く染め上げた。


「なぜ彼を殺そうとしない?」


 浅く呼吸を繰り返す血塗れのフィルを見つつ、アランは疑問の言葉を口にする。


「殺せないんじゃないよ。殺す理由と価値を見出せないから、殺そうとしないだけ」


「過ぎた時間は戻らないぞ」


 小馬鹿にしたような笑みを浮かべながら、アランは『美桜』を憐れむ。

 アランの態度が癪に触ったのか、『美桜』の眉間に皺が寄った。


「知っているよ、それくらい」


「なら、なぜ時間を無駄にする?貴重な時間を浪費する程の価値がフィル(こいつ)にあるのか?」


 矛盾を突きつけられた『美桜』は目を大きく見開くと、ノーモーションで攻撃を繰り出した。

 『美桜』が放った魔力の塊を()()()身体で受け止めたアランは、後方に吹き飛ばされる。

 そして、すぐさま体勢を整えると、無防備なまま、疑問の言葉を口にし続けた。


「なぜ私を殺そうとしなかった?」


 『美桜』の右掌から放たれた黒雷の矢がアランの右頬を掠める。


「なぜ第四人類を作った? なぜ自分の第四人類や分身に人々を襲わせた?」


 『美桜』の両掌から黒雷の槍が次々に放たれる。

 しかし、彼女の攻撃はアランの身体に掠めるだけで、決定的な一撃になり得なかった。

 

「なぜ私達を殺そうとしない?何か理由があるのか?」


 『美桜』は口を開ける事なく、龍の形をした黒い雷を造り上げる。

 そして、造り上げた黒雷の龍をアラン目掛け──


「──時間切れだ」


 アランの言葉を肯定するかのように、空間の割れる音が辺り一面に鳴り響く。

 瞬時に『美桜』は音源の方に視線を据える。

 そこにいたのは空間に空いた穴から飛び出す『神宮司』の姿だった。



◇side:神宮司


「──Aigz・dorago・bless──!」


 異空間から飛び出すや否や、この世界の『美桜』に攻撃を仕掛ける。

 『美桜』の分身と闘った疲労が抜け落ちていないのか、俺が放った白雷の塊は、黒い雷の龍によって砕かれてしまった。


「──っ!? まさか私の分身を倒したって言うの……!?」


 俺の背後から出て来た酒乱天使──カナリアが『美桜』の額目掛けて飛び蹴りを繰り出す。

 が、酒乱天使の蹴りは『目に見えない壁』によって遮られてしまった。

 『美桜』の注意が酒乱天使の方に向く。

 その隙に俺は右の籠手で『美桜』の身体に触れようと試みる。

 しかし、『美桜』が瞬間移動を繰り出した所為で、俺は彼女の身体に触れる事さえ叶わなかった。


「……東雲市に設置した楔が壊されている……なるほど、君達が壊したんだね」


 音もなく、俺と酒乱天使の背後に立った『美桜』は魔力の塊を掃射する。

 寸前の所で右の籠手で受け止めるも、ガス欠寸前の身体では彼女の攻撃を受け切れなかった。


「私の分体を倒した後、すぐさま天使のお姉ちゃんの力を使って、異空間を通過。そして、今に至るって訳だ」


「ちっ……!」


 魔力の塊が爆ぜ、俺と酒乱天使の身体が後方に吹き飛ばされてしまう。

 体勢を整えている最中、血塗れの教主様と目が合った。

 一目で理解する。

 彼が『美桜』に破られた事を。

 彼では『美桜』を止められなかった事を。


「──Aigz・」


 右の籠手の形を龍の頭に変え、限界ギリギリの身体に鞭を打つ。

 渾身の力で白雷の塊を飛ばそうとしたその時だった。

 空の色が黄ばみ始めたのは。


「騎士のお姉ちゃん、ここまで付き合ってくれてありがとう。お礼に貴女の誤解を解いてあげるよ」


 『美桜』の身体が透け始める。

 それと同時に彼女の存在感が徐々に失われ始めた。


「私は時間を無駄にしていたんじゃない。私は、準備が終わるのを待っていたんだ」


 ──何かするつもりだ。

 そう判断した俺は彼女を止めるため、攻撃を繰り出そうとする。

 が、脳裏を過った先生の顔の所為で、身体と心は思った通りに動いてくれなかった。


「じゃあ、やる事はやったし、私は行くね。バイバイ、有象無象。巻き込まれたくなかったら、さっさと元の世界に戻った方がいいよ」


 追うつもりがないのか、或いは追っても無駄だと理解しているのか、酒乱天使も脳筋女騎士も動こうとしなかった。

 息を切らしながら、俺は去りゆく『美桜』を睨みつける。

 ……それ以上の行為を、身体と心は許してくれなかった。

 いつも読んでくれている方、ここまで読んでくれた方、ブクマしてくれた方、評価ポイントを送って下さった方、いいねを送って下さった方、そして、新しくブクマしてくれた方、評価ポイントを送って下さった方、いいねを送って下さった方に感謝の言葉を申し上げました。 

 大変お待たせしました、最新話です。

 体調崩したり、公募小説の締め切りに追われたり、その他諸々の私情の所為で告知通りに更新できませんでした。

 本当に申し訳ありません。

 この場を借りて謝罪の言葉を申し上げます。

 今月は2日、8日、16日、29日、30日に更新するつもりです。

 公募小説の進み具合でお休み貰うかもしれませんが、今のところ上記の日程で更新する予定なので、お付き合いよろしくお願い致します。

 次の更新は12月8日金曜日22時頃に予定しております。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
 厚かましいと自覚しておりますが、感想、レビュー、ブクマ、評価、お待ちしております。 小説家になろう 勝手にランキング
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ