奇襲の巻
◇アランside
「残念だったよ、別世界の同胞。夢を共有できなくて」
血塗れで地面に伏せるフィル──金郷教元教主──を睨みながら、『美桜』は溜息を吐き出す。
アランはというと、小刻みに指を揺らすフィルを見つめるだけで、それ以上のアクションを示さなかった。
「で、騎士のお姉ちゃん、なんで助けなかったの?この人が私に勝てる可能性なんてゼロに等しかったのに」
『美桜』に瞬殺されたフィルを睨みながら、アランは微笑を浮かべる。
「彼の選択を尊重した。それ以上の理由でも、それ以下の理由でもない」
「ふーん、そうなんだ。じゃあ、次は騎士のお姉ちゃんが私と闘うの?」
「まだ終わっていないぞ」
アランの言葉を肯定するかの如く、起き上がったフィルは残った魔力を振り絞り、紫電の槍を造り上げる。
そして、槍を『美桜』の身体目掛けて──
「遅い」
『美桜』の身体から放たれた圧倒的な魔力により、フィルが造り上げた紫電の槍は消え失せてしまう。
「判断も準備も攻撃も、何もかも遅過ぎる。私に勝つんだったら、最低でも神域に至っていないと」
そう言って、『美桜』は指を鳴らす。
『美桜』の指から放たれた魔力の塊が、フィルの顔面に減り込んだ。
断末魔を上げる余裕さえ与える事なく、フィルは地面の上を転がる。
彼の身体から噴き出る血潮が周囲を赤く染め上げた。
「なぜ彼を殺そうとしない?」
浅く呼吸を繰り返す血塗れのフィルを見つつ、アランは疑問の言葉を口にする。
「殺せないんじゃないよ。殺す理由と価値を見出せないから、殺そうとしないだけ」
「過ぎた時間は戻らないぞ」
小馬鹿にしたような笑みを浮かべながら、アランは『美桜』を憐れむ。
アランの態度が癪に触ったのか、『美桜』の眉間に皺が寄った。
「知っているよ、それくらい」
「なら、なぜ時間を無駄にする?貴重な時間を浪費する程の価値がフィル(こいつ)にあるのか?」
矛盾を突きつけられた『美桜』は目を大きく見開くと、ノーモーションで攻撃を繰り出した。
『美桜』が放った魔力の塊を敢えて身体で受け止めたアランは、後方に吹き飛ばされる。
そして、すぐさま体勢を整えると、無防備なまま、疑問の言葉を口にし続けた。
「なぜ私を殺そうとしなかった?」
『美桜』の右掌から放たれた黒雷の矢がアランの右頬を掠める。
「なぜ第四人類を作った? なぜ自分の第四人類や分身に人々を襲わせた?」
『美桜』の両掌から黒雷の槍が次々に放たれる。
しかし、彼女の攻撃はアランの身体に掠めるだけで、決定的な一撃になり得なかった。
「なぜ私達を殺そうとしない?何か理由があるのか?」
『美桜』は口を開ける事なく、龍の形をした黒い雷を造り上げる。
そして、造り上げた黒雷の龍をアラン目掛け──
「──時間切れだ」
アランの言葉を肯定するかのように、空間の割れる音が辺り一面に鳴り響く。
瞬時に『美桜』は音源の方に視線を据える。
そこにいたのは空間に空いた穴から飛び出す『神宮司』の姿だった。
◇side:神宮司
「──Aigz・dorago・bless──!」
異空間から飛び出すや否や、この世界の『美桜』に攻撃を仕掛ける。
『美桜』の分身と闘った疲労が抜け落ちていないのか、俺が放った白雷の塊は、黒い雷の龍によって砕かれてしまった。
「──っ!? まさか私の分身を倒したって言うの……!?」
俺の背後から出て来た酒乱天使──カナリアが『美桜』の額目掛けて飛び蹴りを繰り出す。
が、酒乱天使の蹴りは『目に見えない壁』によって遮られてしまった。
『美桜』の注意が酒乱天使の方に向く。
その隙に俺は右の籠手で『美桜』の身体に触れようと試みる。
しかし、『美桜』が瞬間移動を繰り出した所為で、俺は彼女の身体に触れる事さえ叶わなかった。
「……東雲市に設置した楔が壊されている……なるほど、君達が壊したんだね」
音もなく、俺と酒乱天使の背後に立った『美桜』は魔力の塊を掃射する。
寸前の所で右の籠手で受け止めるも、ガス欠寸前の身体では彼女の攻撃を受け切れなかった。
「私の分体を倒した後、すぐさま天使のお姉ちゃんの力を使って、異空間を通過。そして、今に至るって訳だ」
「ちっ……!」
魔力の塊が爆ぜ、俺と酒乱天使の身体が後方に吹き飛ばされてしまう。
体勢を整えている最中、血塗れの教主様と目が合った。
一目で理解する。
彼が『美桜』に破られた事を。
彼では『美桜』を止められなかった事を。
「──Aigz・」
右の籠手の形を龍の頭に変え、限界ギリギリの身体に鞭を打つ。
渾身の力で白雷の塊を飛ばそうとしたその時だった。
空の色が黄ばみ始めたのは。
「騎士のお姉ちゃん、ここまで付き合ってくれてありがとう。お礼に貴女の誤解を解いてあげるよ」
『美桜』の身体が透け始める。
それと同時に彼女の存在感が徐々に失われ始めた。
「私は時間を無駄にしていたんじゃない。私は、準備が終わるのを待っていたんだ」
──何かするつもりだ。
そう判断した俺は彼女を止めるため、攻撃を繰り出そうとする。
が、脳裏を過った先生の顔の所為で、身体と心は思った通りに動いてくれなかった。
「じゃあ、やる事はやったし、私は行くね。バイバイ、有象無象。巻き込まれたくなかったら、さっさと元の世界に戻った方がいいよ」
追うつもりがないのか、或いは追っても無駄だと理解しているのか、酒乱天使も脳筋女騎士も動こうとしなかった。
息を切らしながら、俺は去りゆく『美桜』を睨みつける。
……それ以上の行為を、身体と心は許してくれなかった。
いつも読んでくれている方、ここまで読んでくれた方、ブクマしてくれた方、評価ポイントを送って下さった方、いいねを送って下さった方、そして、新しくブクマしてくれた方、評価ポイントを送って下さった方、いいねを送って下さった方に感謝の言葉を申し上げました。
大変お待たせしました、最新話です。
体調崩したり、公募小説の締め切りに追われたり、その他諸々の私情の所為で告知通りに更新できませんでした。
本当に申し訳ありません。
この場を借りて謝罪の言葉を申し上げます。
今月は2日、8日、16日、29日、30日に更新するつもりです。
公募小説の進み具合でお休み貰うかもしれませんが、今のところ上記の日程で更新する予定なので、お付き合いよろしくお願い致します。
次の更新は12月8日金曜日22時頃に予定しております。




