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VS分体の巻

 ホテルに入った俺が最初に目にしたのは、漆黒の翼を背に生やした怪人だった。


『やっぱ、貴方も私を救ってくれないんだ』


 人型の竜を模した怪人は、聞き覚えのある声を口から発すると、右掌を前に突き出す。その瞬間、俺の目の前に黒い稲妻が現れた。

 龍と化した右の籠手を手元に引き寄せ、迫り来る黒い稲妻を龍の尾で弾き飛ばす。


『美鈴って子は救ったのに、私は救ってくれないんだ』


 槍の形を象った黒い稲妻が音速の速さで撃ち出される。

 俺はその場に立ち尽くすと、右頬を掠める黒雷の槍を見送った。


「…………なあ、『美桜』」


 別世界のバイトリーダーに疑問を投げかけようとする。

 が、人型の竜は俺の言葉に耳を貸してくれなかった。


『もういい。貴方じゃ私を止められない。だって、その籠手じゃ、私に傷一つつけられないから』


「……それ、お前の身体じゃないだろ?」


 感覚的に目の前にいる怪人が『美桜』の分体である事を把握する。

 彼女は雰囲気だけで、俺の疑問を肯定すると、身体から夥しい量の熱を発し始めた。


「………」


 俺の背後にいる酒乱天使──カナリアは少しだけ息を吐き出す。

 俺はそれを知覚すると、元の姿に戻った籠手を右腕に嵌め込んだ。



◇アランside


「あら?貴女は私と闘わないの?」


 金郷教前教主と共にテレビ局にやって来たアラン──四季咲楓と容姿が酷似している女騎士。司からは脳筋女騎士と呼ばれている──は、始祖ガイアの力を手にした少女を睨みつける。

 

「いや、コイツは闘わない。闘うのは、オレ一人だ」


 アランの隣にいた金郷教元教主──フィルが一歩前に出る。

 彼の姿を見た途端、『美桜』は軽蔑するような目でフィルの瞳を睨みつけた。


「……オレは別世界でお前と似たような事をやろうとして、失敗した。そんなオレだからこそ言える。こんな事をしても、自己満……」


「知っているよ、別世界の同胞。君が『神堕し』に失敗した事くらい」


 フィルの声を途中で遮りながら、『美桜』は鼻で嗤う。

 『美桜』の身体から放たれる敵意と殺意が、アランの身体に突き刺さった。

 反射的にアランは剣の柄に手を伸ば──すも、寸前の所で堪える。

 そして、フィルの険しい横顔を一瞥した後、頬の筋肉を強張らせた。


「私は始祖ガイアの力と共に『始祖ガイアが経験した記憶の一部』も手に入れている。だから、知っているよ。別世界から来た君が、『神堕し』に失敗した事を。自分の過ちをなかった事にするため、『神堕し』に手を出した事を。………そして、君が今も尚、妹や友人の死に報いたいって思ってる事を」


 ──手を出さないで欲しい。

 少し前にフィルの口から解き放たれた言葉を思い出しながら、アランは腕を組む。


「君は、金郷教の大人達に妹や友人を殺されたんでしょ?いや、君風に言うと、君は妹や友人を見殺しにしたんでしょ?だから、神堕しを行おうとした。神堕しを行う事で、大事な人を見殺しにした自分を正当化しようとした」


 腕を組んだまま、アランは目蓋を閉じる。

 目を閉じたのは、フィルの行く末を見守るため。

 口を閉じたのは、フィルの覚悟を見定めるため。

 

「でも、それだけじゃないよね?君が金郷教の教主になったのは、自分のためだけじゃない。他の人の願いを叶えるためでもあった」


 フィルが何を抱えているのか、始祖ガイアの力を宿した少女が何に絶望しているのか、アランは何も理解していないし、理解するつもりもない。

 

「貴方は壊滅状態に追い込まれた金郷教を立て直した。残された信者のために、『金の郷』を造り上げようとした」


 ただアランは理解している。

 フィルが背負っているものを。

 そして、その背負っているものは一度や二度の善行で覆るものじゃない事を。


「貴方は神堕しを成功させるため、神器を造り上げようとした。私の妹を、血が繋がった実の妹を、神器に加工した。金郷教の大人達がしてきたように、貴方は私の妹に犠牲を強いた」


 燻んだ空から赤い雫が垂れ落ち、静まり返っていた世界が啼き叫ぶ。


「それだけじゃない。金郷教という組織を保つため、貴方は他の人達にも犠牲を強いた。神堕しを確実に成功させるため、金郷教に残った人達を恐怖と暴力で従わせた」


 無数の赤い雫が身体に付着しても、隣にいる青年が身体を強張らせても、アランは目蓋を閉じ続け、事の成り行きを見守り続ける。


「でも、私は貴方を詰らないよ。いや、詰る資格がない。だって、私は貴方と同じ事をやろうとしているんだから」


 アランは既に選択し終えていた、自分の果たすべき役目を。


「だから、失敗してしまった自分を私に投影しないで。私は貴方と違う。私は貴方の先を行っている」


 ──今度は貴様の番だ。


 目蓋を閉じたまま、アランはフィルの覚悟(こたえ)を待ち望む。

 彼女の隣にいる青年は浅い呼吸だけを繰り返していた。



◇神宮司side


 この世界のバイトリーダーの分体──人型の竜の拳を紙一重で避けながら、俺は右の拳を握り締める。

 もう俺と言葉を交わすつもりがないのか、分体の口からは獣のような啼き声しか漏れ出なかった。


「……………行くぞ」


 目と鼻の先まで接近した敵の拳を直撃寸前の所で避ける。

 黒雷を纏った拳が左頬を掠めた瞬間、俺は右の拳を敵の腹に叩き込んだ。

 『美桜』の苦痛に満ちた短い断末魔が鼓膜を揺らす。

 俺は眉間に皺を寄せると、怯んだ敵の顔面に右の拳を叩き込んだ。 

 敵の動きが硬直した瞬間、白雷を纏った右の拳で敵の顔面を殴りつける。

 

『な、……なんで、………?この身体でも『絶対性(アブソリュート)』は機能している筈なのに……!』


 訳の分からない事を口にしながら、『美桜』の分体は口から黒い雷の塊を吐き出す。

 俺はそれを右の籠手で受け流すと、渾身の力で敵の顔面を殴り飛ばした。


『が、……はあ……!』


 床の上を転がる『美桜』の分体を見て、俺は眉間に皺を寄せる。

 敵は縋るような目で俺の事を見つめていた。

 その視線の所為で、俺の戦意は、決意は、揺らいでしまう。

 …………暴力で捻じ伏せようとしている今の自分に嫌悪感を覚えた。

 

「──Aigz・」


 右の籠手が龍の頭を模したものに変わる。

 それを目視した敵は覚悟を決めたかのように息を飲むと、両手を前に突き出した。


「──イージス・キルクルス・ラクテウス」


 桜の花弁を模した黒い盾が、俺と敵の間に現れる。

 俺は眉間に皺を寄せると、右の拳を前に突き出した。


「dorago・bless──!」


 龍の頭を模した右の籠手から白雷の塊が吐き出される。

 その瞬間、ホテルのロビーは白雷と黒雷によって満たされた。

 いつも読んでくれている方、ここまで読んでくれた方、ブクマ・評価ポイント・いいね・感想を送ってくださった方、そして、新しくブクマしてくれた方に感謝の言葉を申し上げます。

 次の更新は11月18日(金)22時頃です。

 公募小説に集中するため、再来週は更新をお休みさせて貰いますが、最後まで更新するので、お付き合いよろしくお願い致します。



(追記)

 申し訳ありません。11月18日(金)に更新すると告知していましたが、体調を崩してしまったため、11月18日(金)の更新はお休みさせて貰います。

 次の更新は12月2日(金)22時頃です。

 今回のお休みの埋め合わせは後日行うので、よろしくお願い致します。

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 厚かましいと自覚しておりますが、感想、レビュー、ブクマ、評価、お待ちしております。 小説家になろう 勝手にランキング
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