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4月3日(3) 馬鹿とアホと脳筋と色欲魔の作戦会議の巻

 場所は桑原町の住宅街。

 俺と啓太郎はボロボロになった身体に鞭を打ち、半狂乱状態に陥った鎌娘から必死になって逃げていた。


「待てや、貴様らああああああ!!!!地獄に落としてやるぅうううううう!!!!」


 彼女は魔力を使い果たしたのか、魔法を使う事なく、何処からか拾ったバットを持って俺らを追いかけ回し続ける。

 隣を走る啓太郎は眉間に皺を寄せ、息を切らしながら、俺に抗議する。


「君が彼女を怒らせたんだろ!?今すぐ彼女を宥めて来い!!」


「無理だ!あんな怒り狂った女に人の言葉は通じねぇよ!!」


「じゃあ、いつも通り殴って止めたらどうだ!?」


「ドロップキックした罪悪感で、あいつにこれ以上危害加えられねぇよ!!やるならお前がやれ!!」


「僕は君や先輩と違って、バット持った相手をどうこうする力を持っていないから無理だ!!」


「使えねえな、クソ!!」


「素手で武器持ち相手に喧嘩する君と先輩が異常なだけだ!!」


「こらああああ!!!待たんぁかあああああ!!!!」


 住宅街に鎌娘の叫び声が木霊する。

 俺らは彼女の怒りが収まるまで黙って逃げる以外術がなかった。

 だが、それも長くは続かない。

 元々、俺は全治3ヶ月レベルの傷を負っており、今も尚、腹部や脚、腕や背中に鈍い痛みが走り続けている。

 このまま走り続けたら傷口がグロい感じで開いてしまう。

 病院に戻るのだけは避けたい。

 そんな事を考えていると、俺らの進行方向に般若の形相をしたジャージ姿の女性──雫さんが、突如出現した。


「見つけたああああああ!!!!!!」

 

 雫さんは黒いフードを着た啓太郎を視界に入れた途端、化物みたいな咆哮を上げると、鬼のような速さで彼を地面に叩き伏せた。


「ゲフッ!?」


 そして、バットを持って追いかけ回していた鎌娘を道路脇にあった塀に叩きつけた。


「べふっ!!」


 雫さんは地面に倒れた2人の胸倉を掴むと、腹の底から声を出し始めた。


「私の借りているアパートを壊しやがってええええ!!どう落とし前どうつけるんだ!?ああん!?」


「雫さん、それ違う!!金郷教、違う!!」


 今にも啓太郎と鎌娘をタコ殴りしそうになった彼女を必死になって止める。

 それでも彼女は止まらなかった。

 何も悪い事していない啓太郎と鎌娘に強烈な頭突きをぶちかます。

 頭突きは1発じゃ終わらなかった。

 彼女は狂ったように彼等の額に何度も頭突きする。

 当然、俺も彼女を止めようとした。

 けど、俺の声は怒り狂った彼女の耳に届かなかった。

 何だよ、このクソ女。頭おかしいんじゃねぇの?

 雫さんが落ち着きを取り戻したのは、俺の顔面を数発殴った後の事だった。

 彼女はボロ雑巾と化した俺達を砂場と滑り台しかない公園に連行すると、説明を求め始めた。


「おい、お前ら。金郷教の奴らはどこだ?職務とかそういうの一切関係なしに奴等を捕縛する必要性が生じてしまった。迅速に奴等を捕まえないと私は大家に3桁万円支払わなければいけなくなる。つまり、奴等を血祭りに上げる以外ないのだ」


「雫さん、まだ冷静じゃないっすよね?衣食住のピンチで理性解き放たれていますよね?警官としてあるまじき発言していますけど」


「今日の私は公休だ。つまり、ただの一般人と言っても過言じゃない」


「過言っすよ。公休の日でもお巡りさんはお巡りさんなんですよ」


「黙れ、公務執行妨害で逮捕するぞ」


「あんた、ついさっきの台詞もういっぺん言ってみろ」


「あ?何だ、その口の利き方は?公務執行妨害で牢屋に打ち込んだ後、簀巻きにして喜多湾に沈めるぞ?」


「やれるもんだったら、やってみろ。返り討ちにしてやるから」


「んな事、言っている場合か!?もう時間はあまり残されていないんだぞ!!」


 額を赤く腫れ上がらせた啓太郎は公園に設置されていた時計を指差す。

 時刻は20時半を指していた。


「もう儀式まで12時間切っているんだぞ!それなのに、僕らはまだ本当の儀式場を見つけられていないんだ!!これが何を意味しているのか分かっているのか!?」


「私がとびきり美少女っていう意味かしら?」


「「「お前は黙ってろ」」」


 俺達は額にデカイたんこぶを作っていた鎌娘を強制的に黙らせる。


「何でよぉおおおおお!!何であんた達、私にそんな冷たいのよぉおおおおお!!美少女じゃん!私、どっからどう見ても美少女じゃん!!」


「今、それ所じゃないって話したばかりだろ!?」


「それ所って、どういう意味よ!?私のアイデンティティが崩壊しかけているのよ!?啓太郎は私が美少女じゃなくて良い訳!?」


「はいはい、君は見目麗しい美少女だ。これで良いか?」


「もっと心を込めて私を褒めなさいよ!誰のお陰で金郷教の追手から逃げ切れたと思ってんの!?全部、私のお陰じゃない!!」


「9割9分、君が火種を大きくしただけなんだがな!!君にもう少し落ち着きがあったら、見つかる事なく福岡に戻る事ができた筈だ!!」


「あららのらー!?たらればとか語っても無意味で無価値な事分からないわけー!?人生はもしもなんてないのよー?そんな事も知らないんでちゅかー!?……げふっ!?」


 啓太郎を煽りに煽る鎌娘を雫さんは一撃で沈める。

 鳩尾に拳を叩き込まれた鎌娘は、脂汗を掻きながら悶絶し始めた。

 自業自得な面もあるが、流石にここまでサンドバッグ状態なのは可哀想過ぎる。

 物理的に鎌娘を黙らせた雫さんは血走った目で俺らを睨みつけた。


「さっさと責任者の居場所を吐け。こっちは一刻も早く家を打ち壊した奴等を血祭りに上げたいんだ」


 雫さんの威圧感により俺と啓太郎は萎縮してしまう。でも、俺達も教祖と美鈴が何処にいるのか知らないのだ。答えられる筈がない。


「と、とりあえず、先輩、情報を交換しよう。僕らも居場所を知らないんだ」


「じゃあ、お前から情報を吐け。つまらない情報なら速攻で沈めるからな」


 元スケバンである雫さんは貫禄ある仁王立ちするや否や俺達に理不尽な命令を飛ばし出す。


「ほら、お前ら正座。そこのお前はコンビニで焼きそばパンあるだけ買って来い」


「へい!ただいま!!」


 一撃で上下関係を覚えさせられた鎌娘はダッシュで焼きそばパンを買いに行く。

 俺らは冷や汗を垂れ流しながら素直に正座するしか術がなかった。


「え、えーと、ですね。先輩、ぼ……いや、私とエリは司と逸れた後、金郷教の追手から逃げ回っていまして……で、道中、信者達から神器を確保したって聞いたので慌てて桑原に戻って来たんですよ。そしたら、桑原病院近くの商店街でバイトリーダーのお仲間さんと会っちゃいまして……」


 ビクビクしながら話す啓太郎。

 そんな彼に苛々を隠す事なく、雫さんは更に眉間にシワを寄せる。


「前置きは良い、さっさと居場所の情報を教えろ」


「は、はい!さっきバイトリーダーから入った情報によりますと、本拠地である東雲市で儀式はしておらず、他の所で儀式しているそうです、はい!バイトリーダー達、元信者は本拠地で足止め食らっているらしく、すぐに動けないようで……」


「つまり、分からないんだな?」


「バイトリーダー曰く、儀式場は桑原の近くにある可能性が高いらしいです、はい」


「ん?何であいつは儀式場がここから近いっていう推論に至った?分かりやすく説明しろ」


 雫さんは首を傾げながら、答えを求める。俺は今までの情報を元に推論を口に出した。


「俺らが雫さん家に着いた時間と教祖らが俺らの下に駆けつける時間との間にそこまでラグがなかったからじゃねぇの?幾らスパイがいたからといって、情報の伝達から美鈴の確保までの時間が非常に短過ぎる」


 あの教祖は桑原周辺に儀式場を構えていたから、スパイから報告を受けた後、すぐ俺らの前に現れる事ができたのだろう。

 もし瞬間移動の手段が取れていたら、一昨日の時点で河原に寝転がっている俺らを捕縛出来た筈だ。

 瞬間移動を使わないとなると、この近くに教祖と美鈴がいる可能性が非常に高い。


「現に俺と雫さんは3月31日の時点で金郷教の奴らと遭遇している。東雲市に本拠地を構えているんだったら、何であいつらは桑原の路地裏で屯していたんだ?多分、この町にいる理由があったから、あいつらは俺らと遭遇しちまったんじゃねぇのか?」


「それは桑原に逃げ込んだ美鈴を確保するためじゃないのか?偶々、あいつらが桑原にいただけって可能性も考えられるんじゃないのか?」


 徐々にクールダウンしていく雫さん。

 彼女は眉間の皺を少しずつ緩めながら疑問を口にする。

 彼女の疑問に答えたのは啓太郎だった。


「確かにそれだけの理由かもしれない。けど、それだけの理由なら何であいつらは先輩の記憶を何で消したんだ?あの時点で先輩は美鈴と出会っていなかった。加えて、あいつらは一般人に秘匿すべき魔法を攻撃手段として使わなかったと聞く。警察にも金郷教の信者が潜んでいるから不祥事の1つや2つ握り潰す事ができただろうし、わざわざ先輩の記憶を消す必要はなかった筈だ」


「記憶を消すのが1番手取り早かったんじゃねぇのか?」


 俺の言葉を聞いた彼は首を小さく振る。


「鎌娘の情報が正しければ、記憶操作の魔術は手間がかかる上、該当の記憶を綺麗に消すのはかなり難しいらしい。だから、魔法使いや魔術師は魔法や魔術を行使する時は人払いの結界を張るそうだ。一般人の記憶を消すのは人払いの結界を張れない時か張り忘れた時のみ。要は記憶を消す魔術というものは、どうしようもなくなった時に使う最終手段なんだ」


 彼の言葉を整理すると、記憶を消す魔術ってのは、面倒だから滅多に使う事はないらしい。


「じゃあ、雫さんの記憶を消されたのは、わざわざ記憶を消す程の情報を掴んでいたからなのか?」


「まあ、確証はないんだけどね。けど、もしかしたら先輩が儀式場の情報を掴んだから、彼等は記憶消去という手段に踏み切ったかもしれない。……先輩、何か覚えている事はあるか?」


「消された記憶は司と共に金郷の奴等を捕縛した事。そして、金郷教の奴等を連行するパトカーを待っている最中に背後から襲われた事。ただ、それだけだ」


「なら、その捕まえた信徒が重要な情報を握っていたか……或いは先輩が儀式場の近くにいたかのどちらかかもしれないな。とにかく、1度そこまで行った方が良さそうだ」


 何やかんやで今後の方針が固まり出したと同時に鎌娘が焼きそばパン片手に戻って来た。


「へい、姉御!焼きそばあるだけ買って来ました!!」


「何で牛乳がねえんだ!?お前はこのモソモソしたパンを飲み物なしで食えっていうのか!?」


「は、はい!今すぐ買ってきやす!!」


 鎌娘はスケバンの貫禄を醸し出す雫さんに怯えながら、再びコンビニに向かって駆け出す。

 俺はそんな彼女に同情しながら、買って来た焼きそばパンを口一杯に含む雫さんをジト目で見つめた。


「ん?何か言いたい事があるのか?」


「いえ、何も」

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