新人類の巻
ビジネスホテルの一室。
俺──神宮司は美鈴と啓太郎と共にテレビ画面に映し出された少女を睨みつける。
俺達の警戒を嘲笑うかのように、テレビに映った少女は無機質な笑みを浮かべると、テレビの前に突っ立っている俺達に語りかけた。
『おはようございます、全人類』
微かに微笑みながら、『美桜』──この世界のバイトリーダーが朝の挨拶を繰り出す。
たった一言だけで、彼女は俺達に焦燥と似て非なる感情を抱かせた。
『今日は貴方達にこれから現人類が辿るべき未来をお伝えします』
テレビ画面に映し出された『美桜』が指を鳴らす。
その瞬間、外から数え切れない数の『何か』を感じ取った。
『これから現人類の殆どは、私が造り出した新人類に殲滅されるでしょう』
窓を開け、空を仰ぐ。
無数の『何か』が上空から降り落ちようとしていた。
「……っ!? きゅ、きゅくろぷす……!?」
テレビの前から窓の下に移動した美鈴が驚きの声を上げる。
「きゅく……? 何だそれは?」
押し黙る啓太郎に代わって、俺は疑問を口にする。
しかし、美桜が答えるよりも先に、美桜の瞳に映し出された全長5メートル程の巨人が、俺に『キュクロプス』の概念を突きつけた。
『特に大人は用心して下さい。私が造り出した新人類は子供達を見て見ぬフリをする大人達に容赦しません。何よりも誰よりも大人達を中心に狙うでしょう」
空から落ちて来た無数の巨人がビルやアスファルトの大地に激突する。
人々の悲鳴や車の鳴き声が俺達の鼓膜を貫いた。
『私はこの世界に生まれ落ちた新たな神です。私は新世界を創るため、子供達を虐げる大人達を一人残らず排除します』
憎しみを内側に隠しながら、『美桜』は淡々と自分の目的を口にする。
テレビ画面に映る彼女の姿は壊れた人形にしか見えなかった。
『もし生き残りたいと思う大人がいれば、挙手して下さい。私の目的は「子どもが不幸にならない世界を創る事」です。大人達を殲滅したい訳じゃありません。私が課した試練をクリアした大人のみ、生存を許可します』
本能で理解する。
今の『美桜』が"絶対悪"──人類の進化や文明の発展を阻害する存在──である事を。
彼女を野放しにしてしまったら、遅かれ早かれ人類が滅んでしまう事を。
「啓太郎……!美鈴を頼む……!」
窓枠に足を掛けた俺は地上目掛けて飛び降りる。
『私に降伏しなかった者、試練をクリアできなかった者は、私が創る新世界の礎になって貰います。貴方達の命は無駄にしないから、安心して下さい』
窓から飛び降りた俺は、五点接地──着地の衝撃を体の各部位に分散させる技──を披露しつつ、アスファルトで覆われた大地に降り立つ。
ホテル前の大通りには逃げ惑う人々と、空から降り落ちた一つ目巨人数十体が屯していた。
『貴方達、人類が選べる選択肢は二つ』
右の籠手を纏いながら、前を見据える。
十数体の一つ目巨人が、右の籠手から白雷を放射する俺を睨みつけた。
『──私に従うか、従わないか』
『美桜』の最後通牒が人々の悲鳴を遮る。
俺は右の拳を握り締めると、逃げ惑う人々を石に変える一つ目巨人の下に向かって駆け出した。
『──さあ、現人類。生存競争を始めましょう』
いつも読んでくれている方、ここまで読んでくれた方、ブクマ・評価ポイント・いいね・感想を送ってくださった方に感謝の言葉を申し上げます。
今回はいつもよりも文字数少なかったので、次回更新は来週の金曜日ではなく、10月24日月曜日22時頃に予定しております。
コレからも定期的に更新し続けるので、お付き合いよろしくお願い致します。




