リベンジマッチの巻
「──大人達を救う価値があるのかしら?」
一瞬、ほんの一瞬だけ啓太郎の弟分を自殺に追い込んだ先生の顔が過ぎる。
ガラスの竜は顔を歪ませる俺を愉しそうに見つめると、俺達に聞きたかった言葉を投げかけた。
「──あの子を救おうとしなかった傍観者達に彼女の復讐を止める権利はあるのかしら?」
「俺は『美桜』──この世界のバイトリーダーを止める。価値があろうがなかろうが、資格があろうがなかろうが、俺の答えは変わらない」
愉しそうに笑うガラスの竜の顔を睨みつけながら、俺は右腕に纏わりついた籠手から白雷を垂れ流す。
俺の敵意を感じ取った途端、ガラスの竜から放たれる雰囲気がザラついたものに成り果てる。
俺達の異変を感覚的に察知したのか、啓太郎も少しだけ身体を強張らせた。
「本当、貴方って私の話を聞かないわね。私と話すつもりがないのかしら?」
「あんた、暇を潰したいだけなんだろ?」
俺の問いかけが意外だったのか、ガラスの竜は豆鉄砲を食らった鳩のような表情を浮かべる。
「あんたから真剣味を一切感じない……あんた、本気で力を取り戻そうとしているのか?俺達を使って、遊んでいるだけじゃないのか?」
俺の疑問を聞いた途端、ガラスの竜は人間味溢れた笑みを浮かべる。
そんな敵の態度に気を遣う事なく、俺は淡々と思った事を口にした。
「悪いけど、あんたの暇潰しに付き合える程、俺達は暇を持て余していない。大人しく、俺達の前から消えろ。じゃなきゃ、ゲンコでボコる」
「………………へぇ♪」
俺の指摘が図星だったのか。
或いは俺に興味を持ったのか。
ようやくガラスの竜の瞳に俺の姿が映し出される。
ヤツは妖艶な笑みで俺を威嚇すると、虫籠に入っている虫を見るような目で俺を見つめ始めた。
──その瞬間、ガラスの割れる音が鳴り響く。
気がつくと、俺も啓太郎もガラスの竜も、黒を基調とした異空間──辺り一面に固形化した極光が散らばっている──の中にいた。
「あら?もう時間なの?折角、面白そうな展開になっていたのに」
俺から視線を逸らしたガラスの竜が、少し離れた所にいる褐色の青年とジングウ──平行世界の俺──に視線を送る。
反応から察するに、恐らくガラスの竜が俺達を異空間に誘ったんだろう。
何が起きても良いように、俺は啓太郎の方へと後退する。
「ソウスケ。約束通り、貴方の獲物を連れて来たわよ」
褐色の青年に声を掛けながら、ガラスの竜は欠伸を浮かべる。
褐色の青年はというと、素手だけで武装したジングウをジワジワ追い詰めていた。
「そうか。じゃあ、コイツの相手は任せた」
そう言って、褐色の青年はジングウの腹に蹴りを叩き込むと、天高く跳び上がる。
「逃がすか……!」
ジングウは不思議な力で白銀の弓矢を造り上げると、矢を褐色の青年の背目掛けて放つ。
が、ガラスの竜が放り投げた硝子の剣により、ジングウの放った矢は砕かれてしまった。
「ソウスケ。一応、改めて忠告しておくわ。──松島啓太郎に用心なさい。アイツ、何か企んでいるわ」
「委細承知。すぐ終わらせる」
ガラスの竜がジングウの下に向かう。
それと殆ど同じタイミングで褐色の青年は固形化した極光の上に着地するの、俺と啓太郎を睨みつけた。
どうやら彼は俺と決着を着けたいらしい。
「……すぐ終わらせる、か」
ヤツが切り札を切る事を何となく把握しながら、俺は右の拳を握り締める。
「それはコッチの台詞だ、仏頂面。あんたらに構っている暇はない。2対1で悪いが、一瞬で終わらせるぞ」
啓太郎の方に視線を送りながら、俺は褐色の青年に挑発の言葉を投げかける。
啓太郎はというと、『え、僕も闘うの?』みたいな面をしていた。
ああ、そうだよ。
お前も闘うんだよ。
いつも読んでくれている方、ここまで読んでくれた方、ブクマしてくれた方、評価ポイントを送ってくださった方、いいねを送ってくださった方に感謝の言葉を申し上げます。
先週は急遽お休み貰って申し訳ありません。
そのお陰で何とか公募小説を提出する事ができました。
この場を借りて、謝罪と感謝の言葉を述べさせて貰います。
また、先週更新できなかったお詫びを兼ねて、今週金曜日22時頃に最新話を更新する予定です。
11月締め切りの公募小説に注力するため、今月も週1ペースの更新になるかもしれませんが、最後までお付き合いよろしくお願い致します。




