「最古のデウス・エクス・マキナ」の巻
「──久しぶりね、私の敵」
地下室の奥の奥の部屋に辿り着いた俺と啓太郎は、美鈴をそのまま大きくした美女──ガラスの竜の人間態と鉢合う。
俺は即座に地面を蹴り上げると、彼女の顔面目掛けてドロップキックを叩き込んだ。
「ノータイムでドロップキックしないで貰える!?」
辛うじて俺の飛び蹴りを避けたガラスの竜が後退する。
俺は溜息を吐き出すと、二昔前に流行った『やれやれ系主人公』のように『やれやれポーズ』を披露した。
「どうせお前の話に耳を傾けても、遅かれ早かれバトル展開に突入するんだろ。なら、さっさとお前をボコボコにしようと思って」
「鬼かっ!」
「どうせ勿体ぶった話し方で意味深な事を言いまくるんだろ?そして、『ここでお前らを排除した方が後々有利っぽい』みたいな事を言って、喧嘩おっ始めるんだろ?もううんざりんだよ、あんたの黒幕ムーブ」
「何で説教されてんの!?」
「というか俺からしてみれば、お前はポッと出しかないんだよ。なに?『私の敵』って?お前なんかよりも森羅林々浄瑠璃拳法の使い手の方が因縁あるわ」
「誰よ、それ!?」
「性的マイノリティの足を全力で引っ張る露出狂の変態だ」
「はあ!?露出狂以下!?今、あんた、私の事を露出狂以下って言った!?」
「啓太郎、ちょっと下がってろ。おつまみ感覚でサクッと終わらせて来るから」
「おい、司。勝手に話を進めるな。お前に用はなくても、僕は彼女に用がある」
そう言って、啓太郎はこほんと咳払いをすると、ガラスの竜と向かい合う。
「……久しぶりだな、ガラスの皇女。いや、ここは敢えて『第14人類始祖』と呼ばせて貰おうか」
啓太郎の重苦しい声色により、一気にシリアスモードに突入する。
その間、俺はラジオ体操をする事で身体を温めようと試みた。
「あら?自己紹介したつもりはないけど、誰から聞いたのかしら?」
「カナリア──始祖の手で造られた天使からだ。君の情報はある程度把握している。人類最初の『機械仕掛けの神』らしいな」
腕を前から上に上げて、大きく背伸びの運動をし始める。
「古代メソポタミアで造られた始祖(竜)を模した人造始祖。メソポタミア文明の滅亡の一因を担った人工的な災厄。それが君の正体なんだろう?」
手足の運動を行いながら、俺はガラスの竜を睨みつける。
彼女──いや、それは不敵な笑みを浮かべていた。
「ええ、そうよ、マツシマ・ケイタロウ。貴方の言う通り、私は始祖を模した人工物よ。この世界……と言っても、平行世界の話だけど、私は人類の手で初めて造られた人工始祖。最古の『機械仕掛けの神』よ」
なんか訳の分からない事を言い出したので、軽く聞き流しつつ、腕を回し始める。
「カナリアは言っていた。君が純粋悪『魔猫』という災厄の化身の力を吸収した、と。これは僕の予想だが、君は恐らく……」
「ええ、そうよ。私は泥棒猫……貴方達が生まれ育った世界にいる『美桜』から始祖としての力を奪い取られたわ」
足を横に出して胸の運動。
はい、いち、に、さん、し、ごー、ろく、しち、はち。
「貴方達が生まれ育った世界でも『神堕し』が起きちゃってね。その所為で、他の世界にいた私は、泥棒猫に力を奪い取られてしまったの。で、力を取り戻すために貴方達の力に行ったんだけど、……」
「君の力を奪い取った『美桜』が何者かに敗れていた。そして、『美桜』を倒したヤツが君の力を跡形もなく消滅させた」
横曲げの運動。
いち、に、さん、し、ごー、ろく、しち、はち。
「ええ、その通りよ。で、私は自分の力を取り戻すために、秘密結社の力や金郷教、純粋悪の幼体や『絶対善』の力を使って、力を取り戻そうとした訳」
腕を上下に伸ばす運動。
いち、に、さん、し、ごー、ろく、しち、はち。
「なるほど。君の目的は大体把握した。詰まる所、この世界の『美桜』から始祖ガイアの力を奪う事か」
「やっぱり、貴方は油断ならないわね、マツシマ・ケイタロウ。この前の『神堕し』の時は貴方の卑怯な時間稼ぎでやられたけど、今度はその手に乗らないわ」
体を斜め下に曲げ胸を反らす運動。
いち、に、さん、し、ごー、ろく、しち、はち。
「今回は油断しな……って、そこ!ラジオ体操するな!気が散る!」
「あ、話、終わった?」
ガラスの竜の怒声の所為でラジオ体操を中断させられた俺は、後頭部を手で掻く。
「んじゃ、さっさと喧嘩するぞ。話はあんたをボコボコにした後に聞く」
「その前に貴方達に私の質問に答えて貰おうかしら?」
「あん?」
ガラスの竜は妖艶な笑みを浮かべると、指を鳴らす。
渇いた音が室内を駆け巡ると、ガラスの竜の背後に硝子の塊が現れた。
「ご覧の通り、この地下室は『神器』──始祖の力を憑依する事ができる人間を造るために使用されているわ」
ガラスの竜の背後に現れた硝子の塊に人体実験の餌食になる子ども達の姿が映し出される。
大人達の汚い欲望により、悲惨な目に遭う子ども達の姿は、見ていて気持ちの良いものじゃなかった。
「始祖ガイアの力を手に入れたこの世界の泥棒猫──『美桜』もその内の一人よ。彼女はね、子供達を悲惨な目に遭わせた大人達に復讐するために動いているわ」
俺はいつでも闘えるように身構えながら、ガラスの竜の話に耳を傾ける。
そんな俺の態度が気に食わないのか、ガラスの竜は少しだけ不機嫌そうに顔を歪ませた。
「貴方達も見たでしょ?石にされた信者達を。あれはね、この世界の『美桜』が自分達を虐待した大人達に生き地獄を味合わせているのよ。要は泥棒猫なりの復讐って訳」
クスクスと笑いながら、ガラスの竜は人間臭い一面を見せつける。
その態度に苛立ちを覚えた俺は、溜息を吐き出すと、右の籠手を装着した。
「さっさと本題に入れよ、黒幕気取り。あんたは俺に何を聞きたいんだ?」
「──大人達に救う価値があるのかしら?」
一瞬、ほんの一瞬だけ啓太郎の弟分を自殺に追い込んだ先生の顔が過ぎる。
ガラスの竜は顔を歪ませる俺を愉しそうに見つめると、俺達に聞きたかった言葉を投げかけた。
「──あの子を救おうとしなかった傍観者達に彼女の復讐を止める権利はあるのかしら?」
いつも読んでくれている方、ここまで読んでくれた方、ブクマしてくれた方、評価ポイント・いいね・感想を送ってくださった方、そして、新しくいいねを送ってくださった方に感謝の言葉を申し上げます。
また、告知通り更新できなくて申し訳ありません。
なるべくこのような事がないように気をつけますので、これからもお付き合いよろしくお願い致します。
次の更新は(多分)9月26日月曜日22時頃に更新致します。もしかしたら公募小説の推敲に集中し過ぎて、告知通りに更新出来ないかもしれませんが、休載する時はTwitter(宣伝垢:norito89892・創作垢:norito8989)で告知致します。




