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バイトリーダーの巻

「……ねえ、お兄ちゃん、啓太郎さん、あの子達をあのまま放置していいの……?」


 駅前広場から離れた俺・啓太郎・教主様・脳筋女騎士・美鈴は、喜多駅から少し離れた所にある裏道を歩いていた。


「ああ、俺の予想が正しければ、あの子達は『ひまわりの園』っていう孤児園に入る筈だ」


 翼の生えた子ども達の中にいた女の子──委員長の幼い顔を思い出しながら、俺は事実のみを口にする。


「どういう事?」


「逆に聞くけど、美鈴と教主様はアイツらの顔に見覚えはあるか?」


 俺の疑問を聞いた美鈴と教主様は、首を縦に振る。


「……俺の予想が正しければ、この世界だけじゃなくて、元の世界でも『美桜』──バイトリーダーは、始祖ガイアの力を手にした筈だ」

  

 今年のバレンタインデーの時の記憶が蘇る。


『……えと、委員長も孤児なんですか?』


 あの時、俺は美智子さん── 孤児園『ひまわりの園』で働いている先生の奥さんから聞いた。

 俺の友人である委員長が孤児である事を。


『……ええ、ちょっと色々あってね。この子達は本当の親の顔を知らないの」


 委員長達を含む孤児達は、美鈴や教主様のように本当の親の顔を知らない事を。


『捨てられたというより捧げられたって表現の方が適切……かしら?彼女達はね、親が所属していた宗教団体の教主に捧げられたの』


 そして、美智子さんは断言した。

 委員長含む『ひまわりの園』に所属している子ども達は、昔宗教団体に所属していた事を。


「……俺は美鈴と出会う前まで、金郷教について知らなかった。ただ名前だけは聞いた事がある。長期入院していた時、親に教えて貰ったんだ。『お前が入院している間、金郷教っていうヤバい組織が新幹線をハイジャックした挙句、子どもを使って人体実験していた』って」



 美鈴と出会った日の翌日──バイトリーダーが働いているレストランに行った時の事を思い出す。


『で、美鈴ちゃんを狙った集団なんだけど、……私は『金郷教』じゃないかなーって思っている』


『金郷教……?何か聞いた事あるような……』


 あの時の俺はバイトリーダーの説明を受けるまで、金郷教という組織がどんな所なのか知らなかった。


『1度は聞いた事あると思うよ。数年前に大事件起こしてニュースになっていたし。ほら、覚えてない?信者の子どもを材料に人体実験していたっていうニュース』


『あー、俺が小学生か中学生くらいの時にあったような……』


 あの時の俺は、『ちょうどその頃、長期入院していたので、具体的には覚えていないが、そんな事件があったような気がする』みたいな感想を抱いて、記憶を掘り下げる事を放棄した。

 ──否、掘り下げる事ができなかった。

 

「俺が長期入院したのは小学校低学年の頃だった。十年以上前だから、具体的にいつ入院したのか覚えていないけど、入院した理由だけは覚えている」


 そう言って、俺は足を止めると、美鈴達に身体の正面を見せつける。


「俺が長期入院したのは、川で溺れたからだ」


 それを聞いた途端、美鈴は目を丸くする。

 彼女は知っている。

 この世界に来たばかりの出来事を。

 川で溺れかけていた『この世界の俺』の姿を。


「後から聞いた話によると、溺死仕掛けた所為で、心臓とか脳の機能とか一時的に止まっていたらしくてな。数ヶ月間、意識不明の昏睡状態に陥っていたらしい。意識を取り戻した後も、脳にダメージが入った所為で認知機能がおかしくなってな。川で溺れかけた前後の記憶が曖昧なんだ」


「…………なるほど、君が泳げないのは過去のトラウマが原因だったのか」


 プールで泳げない俺を目撃した啓太郎は、納得したような顔で頷く。 

 そんな彼に構う事なく、俺は言葉を重ねた。


「……小学校の卒業式の日。先生は教えてくれた。溺死しかけていた俺を助けたのは、先生じゃなくて別の人である事を。先生はその人の名前は教えてくれなかった。けど、『いずれ知る日がやって来る』って言っていた」


「……まさか」


 頭の回転が早い且つ溺れかけていた過去の俺を救った美鈴は、一足先に俺の言いたい事を理解してしまう。

 俺はそれが正解だと言わんばかりに首を縦に振った。


「……ああ、美鈴の想像した通りだ。多分、かつて溺死しかけた俺を救ったのは、別の世界から来た『俺自身』だ」


「待て、司。溺死しかけていた君が『別の世界の君』に助けられたという確証はあるのか?」


「ない」


「だったら、それは妄想の域から出ていないんじゃ……」

 


 啓太郎は右頬を右人差し指で掻きながら、俺の推測が殆ど妄想染みている事を指摘する。


「というか、元いた世界……お前らがバイトリーダーと呼んでいる女は、お前の言う通り、最初の『神堕し』で神器として神の力を手に入れた。が、ヤツが手に入れたのは、メソポタミア時代に作られた人類最初の『機械仕掛けの神』だ。ガイア神の力じゃない」


「うっ」


 教主様の指摘により、俺の予想が間違っている事に気づかされる。

 え、元いた世界のバイトリーダーって、始祖ガイアの力を手にしていないの? 

 うわ、普通に恥ずかしいんだけど。


「……いや、そいつの言っている事は強ち間違いじゃない」


 今の今まで沈黙を貫いていた脳筋女騎士──アランが口を開く。


「私が神域に到達したばかりの頃、私はある世界に漂着した。その世界では神域に至った青年──ジンクウツカサが、第14始祖『機械仕掛けの神』と闘っていた。ガラスの竜の姿だったから、その第14始祖がお前らの言うバイトリーダーかどうか、私が漂着した世界がお前らが元いた世界かどうかは知らんが、ジングウが第14始祖と闘い、勝利を掴んだ事だけは確かだ」


 脳筋女騎士の裏付けにより、俺の予想が間違いじゃない可能性が生まれる。

 

「……という事は、私達が元いた世界とこの世界は『細かい違いはあるけど、大きな流れは大体同じ』って事なの?」


「恐らく、……な。『赤光の魔導士』がどの平行世界でも第二次世界大戦を終結させた英雄として崇められているように、恐らくどの平行世界でも同じような結末に至るようにプログラムされているのだろう……外からのイレギュラーが邪魔しない限り」


 美鈴とアランが首を捻りながら、今まで出た情報をまとめながら、証明しょうがない仮説を立てる。


「……なるほど。だから、アランさんやカナリアさんは、この世界で本気を出す事ができないんだ。この世界が辿るべき結末の邪魔になり得るから、……」


「で、司、君は何が言いたい?元いた世界とこの世界が同じような結末に至る場合、一体何が起こるんだ?」


 啓太郎の瞳をじっと見つめながら、俺は事実を伝える。


「……バイトリーダーは言っていた。『君の事を1から100まで理解しているからだよ』って。実際、俺はバイトリーダーに1度も勝てた事がない。全ての攻撃を先読みされて、返り討ちされてしまう」


 俺はバイトリーダー……『美桜』の事が苦手だ。

 彼女は常に拳が当たらない上に俺の心情を見透かしたような発言をして、俺を惑わせる。

 彼女という人間性は嫌いではない。

 むしろ、異性として見れば、かなり好みだ。

 おっぱい、大きいし。

 だけど、彼女は俺の事を1から100まで理解しており、それが原因で俺は彼女に苦手意識を抱いている。

 ……何故か、彼女は俺の事を俺以上に知っているのだ。

 1年という短い付き合いなのに、彼女は親以上に俺の事を理解しているのだ。


「それはバイトリーダーが人間観察力に優れているからじゃないのか?」


 啓太郎は俺の主張に対して、反論を示す。


「いいや、バイトリーダーの人間観察力はそこまで高くない。もし他人の事を1から100まで理解できる力があったら、金郷教騒動の時、アパート近くに来ていた教主様を予知できていた筈だ」


 4月2日の夜──県外から桑原町に戻ってきた時の事を、バイトリーダーが住んでいるアパート近くに現れた教主様にボコボコにされた時の事を思い出しながら、俺は首を横に振る。


「バイトリーダーが1から100まで理解しているのは、多分、俺だけだ。きっと彼女は俺──『ジングウツカサ』という存在を知る機会があって、そこで1から100まで理解したんだと思う」


「……つまり、何が言いたい?」


「…………この世界のバイトリーダー『美桜』を倒す方法は暴力だけじゃないって事だ」


 まだ肌寒い春風が喜多駅の裏道を冷やす。

 まだ夏は遠い事を肌で感じ取った。

 

 いつも読んでくれている方、ここまで読んでくれた方、ブクマしてくれた方、評価ポイント・いいね・感想を送ってくださった方、そして、新しくブクマしてくれた方に感謝の言葉を申し上げます。

 次の更新は来週8月19日金曜日午後22時頃に予定しております。

 再来週は公募小説の推敲に集中するので、お休みをもらいますが、ちゃんと最後まで更新しますので、お付き合いよろしくお願い致します。

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 厚かましいと自覚しておりますが、感想、レビュー、ブクマ、評価、お待ちしております。 小説家になろう 勝手にランキング
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