始祖vs化物の巻
side:赤光の魔導士。
「「──っ!」」
赤光の魔導士とカナリア──司が酒乱天使と呼んでいる少女──は、始祖ガイアの力を手にした少女──『美桜』が放った攻撃を空高く跳び上がる事で躱す。
『美桜』が放った魔力の塊は、彼等が立っていた固形化した極光を粉々に砕いた。
「赤光の魔導士。あんた、あの子の『絶対性』を破る事できる?」
「ああ、一応可能だ」
「んじゃあ、私があの子の注意を惹きつけるから、隙を見計らって攻撃して」
「今の俺の火力じゃ、あいつを倒せるか分からないぞ」
「攻撃しないよりかは遥かにマシよ」
近くにあった固形化した極光に着地したカナリアと赤光の魔導士は、『美桜』を警戒しつつ、言葉を交わす。
「今ここで私達が引いたら、あいつは元の世界に戻ってしまう。そうなった場合、『ティアナ』に選ばれていない私達じゃ、あいつに手も足も出せなくなるわ」
「そうなった場合、闘えるのは『ティアナ』に選ばれた『白雷の魔導士』と『白雷の同一存在』だけになるのか」
「そういう事。『白雷の魔導士』──ジングウはどっかに行ったし、あの子が元の世界に戻ったら、『神宮司』一人で闘わなきゃいけなくなる」
「なるほど。俺達が全力であいつと闘えるのは、今しかないって事か」
溜息を吐き出しながら、腹部の傷を抑えながら、赤光の魔導士は溜息を吐き出す。
「…………………なあ、カナリア。お前、『白雷の代弁者』の魔法を把握しているのか?」
「ん?魔力をある程度無効化する魔法でしょ?それがどうかしたの?」
「そうか。お前はあいつらの魔法を何となくでしか把握していないのか」
再び赤光の魔導士が溜息を吐き出した途端、『美桜』は大剣を象った黒い雷を掃射する。
「んじゃあ、私が惹きつけるから、攻撃よろしくっ!」
そう言って、カナリアは赤光の魔導士の前から消える。
そして、一瞬で美桜の背後を取ると、彼女の後頭部に蹴りを叩き込んだ。
「──無駄だよ」
カナリアの蹴りが目に見えない『何か』によって遮られる。
「始祖の力じゃないと、私に触れる事さえ叶わない」
そう言って、『美桜』は腕を振るう。
たったそれだけの動作で衝撃波が巻き起こった。
凡人だったら触れただけで身体が四散してしまう衝撃波。
それをカナリアは一秒後の未来に跳ぶ事で回避する。
「へえ、お姉ちゃん、瞬間移動……いや、時空跳躍できるんだ」
少女には似合わない妖艶な笑みを浮かべると、『美桜』は一秒後の未来に跳んだカナリアを睨みつける。
「まあ、その程度、今の私でもできるんだけど」
そう言って、『美桜』は時空跳躍を行うと、カナリアの背後に移動する。
「ごめんね、お姉ちゃん。──貴女じゃ私に勝てないよ」
右掌をカナリアに向けながら、『美桜』は黒い雷の塊を放射する。
常人だったら掠っただけで焼け炭になってしまう程の一撃。
至近距離で放たれたにも関わらず、カナリアは地面を蹴り上げると、光さえも置き去りにする速度で黒雷の砲弾を回避する。
「へえ。お姉ちゃん、時空跳躍──1秒後の未来に跳ぶ事──だけじゃなくて、光の速さで動く事ができるんだ」
始祖の力を手にした『美桜』でさえも捕捉できない速度で、カナリアは異空間の中を駆け巡る。
その速度は光の速さと同等かそれ以上。
時折生じるカナリアの残像が、『美桜』の視界に映り込む。
それを愉快そうに眺めながら、『美桜』は妖艶な笑みを浮かべた。
「確かに速い。光速移動と時空跳躍を併用されたら、始祖ガイアの力を手にした私でも追いつく事なんてできない。多分、お姉ちゃんがこの世で最も速い生命体だと思うよ。……でもね、」
隙だらけだった『美桜』の背中にカナリアは光の速さで飛び蹴りを放つ。
が、彼女の蹴りは再び不可視の『何か』によって遮られた。
「この世で最も速いだけじゃ、私の『絶対性』は破れない」
「ちっ……!」
今現在、『美桜』の身体は『絶対性』と呼ばれるもので守られている。
『絶対性』とは、簡単に言ってしまうと、万能の生命体──始祖以外の攻撃を無効化する無敵バリアのようなものだ。
要は始祖の力を持っていないと、『美桜』の身体に擦り傷一つ負わせる事どころか指一本触れる事さえもできないのだ。
ただスペックが高いだけの災厄の化身──『純粋悪』とは違い、『絶対悪』と呼ばれる人類の進化・発展を妨げる存在は、例外なく、『絶対性』を保持している。
そのため、多くの神域到達者──『開拓者』と違い、ただ速く動けるだけのカナリアでは『絶対悪』と呼ばれる存在に負ける事はなくても勝つ事もできないのだ。
「お姉ちゃんは火力が不足し過ぎている。最低でも、これくらいやらないと」
そう言った後、『美桜』は溜息を吐き出す。
その瞬間、『美桜』の身体から黒い雷が全方位に放たれた。
大陸一つ余裕で滅ぼす事ができる程の高火力かつ広範囲の黒雷が、異空間内を埋め尽くす。
『美桜』の周囲にあった固形化した極光も、黒雷に飲み込まれると、跡形もなく焼け溶けてしまう。
カナリアは15秒先に時空跳躍する事で、異空間を埋め尽くさんと言わんばかりに広がる黒雷の波を回避する。
赤光の魔導士は右手を前に突き出すと、迫り来る黒雷の波を眺めながら、詠唱を開始した。
「──集え、光よ。我は光を統べる者」
赤光の魔導士の眼前に紅色に輝く盾が立ちはだかる。
「──Lightning・dorago・shilde──」
赤光の魔導士が繰り出せる最大の盾──とぐろを巻く龍を象ったもの──が、黒雷の波を受け止める。
そして、『美桜』の全方位攻撃が終わるのを確認すると、目の前にあった盾を消し、魔力で弓矢を創造する。
「──集え、光よ」
『美桜』の『絶対性』を確実に打ち破るため、『美桜』の息の根を止めるため、赤光の魔導士は高火力かつ貫通性のある攻撃を選択する。
それに気づいた『美桜』は軽く溜息を吐き出すと、両手を天に突き上げた。
『美桜』の意識が赤光の魔導士の方に向いた途端、15秒先の未来に跳んでいたカナリアが姿を現す。
「──我は」
カナリアは光速よりも速い速度で、『美桜』の後頭部に飛び蹴りを叩き込む。
そして、間髪入れる事なく、『美桜』の身体目掛けて、再度飛び蹴りを繰り出した。
高速を超える速度で繰り出したカナリアの連続飛び蹴りは、『美桜』の身体に傷一つつける事はできなかった。
──しかし、『美桜』の体勢を崩す事に成功する。
『美桜』がバランスを崩したのを目視した赤光の魔導士は、弓の弦に矢を番う。
「光を司る者」
赤光の魔導士が弓矢を取り出して矢を番うまで、僅か2秒程度。
その2秒でカナリアは数百発にも及ぶ連続飛び蹴りを繰り出すと、赤光の魔導士が攻撃を当てやすい状況を作り出した。
「──Lightning・dorago・allow──」
龍を象った赤い矢が『美桜』の胴体目掛けて飛翔する。
その一撃は重く鋭く、『美桜』の『絶対性』を貫く程の威力を持ち合わせていた。
「…………」
自らの危機を予感した『美桜』は始祖の力の一つである『時空跳躍を行使しようとする。
が、それよりも先にカナリアは赤光が放った必殺の一撃を1秒先の未来に跳ばした。
消える赤光の矢。
顔を引き攣らせる『美桜』。
1秒後先の未来に跳んだ赤い矢は、『美桜』の背中に突き刺さる。
その瞬間、『美桜』は目を赤く染め上げた。
いつも読んでくれている方、ここまで読んでくれた方、ブクマしてくれた方、評価ポイント・いいね・感想を送ってくださった方、そして、新しくブクマしてくれた方に感謝の言葉を申し上げます。
次の更新は来週8月12日金曜日午後22時頃に予定しております。
公募小説の方に注力しているので、まだまだ続きますが、これからもお付き合いしてくれると嬉しいです。
これからもよろしくお願い致します。




